共通点が多いアイドルとラジオパーソナリティの“推し活”
松田は特番の『日向坂46のオールナイトニッポン0(ZERO)』や『坂道グループのオールナイトニッポン』への参加、『乃木坂46のオールナイトニッポン』のゲスト出演、『オールナイトニッポンX(クロス)』単発パーソナリティと順調にステップを踏んできた。そして、昨年の秋から深夜ラジオのパーソナリティになった。
松田は『日向坂高校放送部』(2023年9月9日放送)でそのときの複雑な感情を吐露している。今まで続けてきた番組が終了する寂しさと、目標のひとつだった深夜ラジオが決まったうれしさ。ない交ぜになったふたつの気持ちを受け止めつつ、涙を流しながら「精いっぱいがんばりたい」と気を引き締めた上で彼女はこう語った。
「『オールナイトニッポンX』さんとかで生放送でパーソナリティを務めさせていただくとなって、それはもちろんすごくうれしかったし、またさせていただけたらうれしいなって気持ちはあったけど、そんな月1でレギュラーなんて、正直自分では務まらないんじゃないかなって思っちゃってて、今も。でも、ラジオに対する気持ちだったり、好きな気持ちはとてもあるので、誠実に向き合ってやっていけたらいいなと思ってて。何もかもトントン拍子に進んでいきすぎていて怖いという気持ちもあって。いろんな夢が叶い始めて、いろいろお仕事もさせていただいてて。だから、調子に乗ってたら教えてください」
ラジオの大きな魅力のひとつに、パーソナリティの歩みを追体験できるところがある。お笑い芸人なら賞レースで悪戦苦闘する姿を、アーティストならインディーズからメジャーシーンへ駆け上がっていく姿をラジオで側面から伝えてくれるが、それはアイドルでも同じだ。
アーティストとしての活動だけではなく、バラエティや情報番組への対応も求められるし、ファンサービスも必要になる。アイドルゆえに、悩みやプライベートを赤裸々に語れない難しさはあるだろうが、それでも複雑な心境を真摯に、そして丁寧に語る松田の姿勢は応援したいと思わせる力がある。
もちろんシビアな話ばかりではない。届かない宅急便に憤ったり、はり師のおばあさんに身バレしないか気にしたり、飲食店で人間観察にのめり込みすぎたためにエプロンを外し忘れたり、自宅に常備しているお菓子を父親に食べられて怒ったり……そんな何気ない日常もフリートークとして話してくれる。
ほかの日向坂メンバーとの関係性も興味深いところ。現在、メンバーは一期生から四期生までいるが、年下の先輩も同い年の後輩もいる。タイプもそれぞれ違うから、パーソナリティを基準にして彼女たちの関係性やその変化を追っていくのは、アイドルファンでなくてもおもしろい。もともと好きなパーソナリティを中心に据えて、その人間関係を楽しむ要素はラジオにあるが、アイドルとパーソナリティの“推し活”には共通点が多い気がする。
「私はいまを生きてます」
デビューしたばかりのアイドルがラジオのレギュラーを持つことによって、ファンと間接的ながら交流する場を持ちつつ、トークスキルを磨いていく──。そんなかたちは昔から脈々と続いてきた。時代ごとに距離感は変わってきたが、今の時代、その関係がより強まりつつある。配信やリモート文化も定着しただけに、アイドルがラジオ的なトークを求められる機会もさらに増えてきた。
単独パーソナリティ、複数パーソナリティ、アシスタントなど、さまざまなかたちでアイドルはラジオに関わっている。久保史緒里はラジオで好きなプロ野球の話題を大いに語り、『オールナイトニッポン』で横並びのナインティナインとの交流が生まれるなど、アイドルの枠組に捉われない活動を続けている。そして、昨年末には24時間放送する『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』(ニッポン放送)のパーソナリティに、アイドルとして久しぶりに抜擢された。坂道シリーズのほかのメンバーもたくさんの放送局で活躍している。前述した新内眞衣のほか、TOKYO FMで帯番組を担当している山崎怜奈など、卒業生の活躍も目覚ましい。
坂道シリーズ以外のアイドルもそうだ。一部の例となるが、ももいろクローバーZはニッポン放送やTOKYO FMで長年番組を持っているし、ハロー!プロジェクトのメンバーは『明石家さんまのヤングタウン』(MBSラジオ)に20年以上レギュラーとして関わっている。今回は触れなかったが、男性アイドルの活躍も目立っている。
『佐藤満春のあなたの話、聴かせてください』にゲスト出演した際(2022年1月23日放送)に、今後の野望を問われた松田は「私のラジオを聴いて、ラジオをやりたいみたいな人が出てきたら。最近は誰でも配信とかできるじゃないですか。それきっかけで始めましたみたいな人が出てきたらうれしい」と語っていた。
新内から影響を受けた松田が『オールナイトニッポン0(ZERO)』を担当し、新たにアイドルラジオの歴史を紡いでいく。アイドルグループから卒業するアイドルは「女優になりたい」というのが定番だけれども、これからは「ラジオのパーソナリティになりたい」と宣言する人が現れるかもしれない。
今回のコラム執筆にあたり、音源や資料を調べていく上で特に印象に残ったのは、『BRODY 2023年8月号』(白夜書房)のインタビューで松田が語ったこんな言葉だ。
「いまの自分は幼少期に想像していた未来ではないし、未来を想像してもその通りにはならないだろうから、『こうなりたい!』というひとつの道はまだ決めていないんです。サトミツさんには『芸能界をやめてもラジオは続けてほしい』と言われて、面白そうだなと妄想しているんですけどね。私はいまを生きてます」
アイドルとして今を生きながら、ラジオにも情熱を傾けていくであろう松田好花。その過程はもちろん、佐藤満春の言葉にあるように、たとえ芸能界を離れたとしても、そのときそのときに感じた思いを素直に口にし、いつものように涙を流す彼女の声をラジオから聴いていたい。
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