スターにはなれなかった、サトミツこと佐藤満春。それでも作家としてレギュラー19本の売れっ子になるまで。「いろんなことを諦めたけど…」

2023.2.28
佐藤満春

文=浜瀬将樹 撮影=興梠真穂 編集=梅山織愛


どきどきキャンプとして、人気番組19本を抱える放送作家として、ラジオパーソナリティとして、多方面で活躍するサトミツこと佐藤満春の歩んできた道には、さまざまなことを諦めてきた歴史がある。

2月17日に刊行された彼の自叙伝エッセイ​​『スターにはなれませんでしたが』(KADOKAWA)には、盟友・オードリーをはじめとした恩人たちとの出会い、「自分がどうしたいのか」を問いかけ「自分にできること」へと向かっていった男の“これまで”が綴られている。

誰もが経験のある「諦め」の瞬間。だからって人生は終わらない。

佐藤満春
(さとう・みつはる)1978年2月17日生まれ、東京都出身。2001年に岸学と「どきどきキャンプ」を結成。2009年より『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)に放送作家として参加。以降『スッキリ』『ヒルナンデス!』(日本テレビ)、『キョコロヒー』(テレビ朝日)などでも放送作家を務める。自身がパーソナリティを務める冠番組『佐藤満春in休憩室』(ラジオ日本)や『佐藤満春のジャマしないラジオ』(InterFM)も放送中。

人生の中で諦めざるを得なかったこと

佐藤満春

──学生時代にラジオと出会い、芸人の道を歩み始めたサトミツさん。テレビに出る前は、どんなことを考えながら活動していたのでしょうか。

そもそも、会社に就職するガッツもないし、何かの資格を取る能力もないし、本当に好きなものがお笑いとラジオぐらいしかなかったので、芸人自体は“消去法”で始めたんですよ。芸人ってしばらく売れなくても許される猶予があると勝手に思っていたので、そういう意味ではチャレンジしやすかったです。

当時は、超近視眼的に見ると、「ライブに出た、小劇場の何十人かのお客さんが笑ってくれた、ひとまずよかった」という日々。それで生活が変わるわけではないけど、“これぐらいしかやれることがないな”と思いながら生活していましたね。

──サトミツさんは、芸人、放送作家、そのほかの活動も自らの決断で切り開いた印象があります。そこには自分の「熱」を信じてやってきた部分があるのでしょうか?

できないことが多かったので、諦めざるを得なかったというか。2008年にショートネタブームに乗って、もうちょっとだけお笑いをつづけてはよくなったものの、ひな壇に芸人がたくさんいるなかで活躍できる能力なんてないし……。お笑いを始めたときに感じた“何か”をテレビの世界でも感じていました。消去法でお笑いを始めてラジオパーソナリティを目指したけど、結局それも消去法で「自分ができそうなところに向かっていくしかない」というかたちだったと思います。

そうやって、向いてないことを徹底的に排除した結果、自然と放送作家の道に進みましたけど、それでも向き・不向きは大きくあったと思います。別に作家が向いてるわけではないと思うんですけど、ひな壇に座って何もしゃべれずに帰る一日よりは向いてるんじゃないかなと思いますね。

──世の中、自分の居場所を見つけられずにもがいている人も多いと思いますが、自ら動くことってやはり大事なんでしょうか。

僕の場合は「動かなきゃ」と思って動いたというよりは、できないことを削った結果、やれることが浮き彫りになって、運よく人との出会いがあって、転がって……という感じなので、けっして今の仕事で「居場所を見つけた」という感じもしていないんです。

自分自身のことってよくわかんないけど、信頼してる人のジャッジや声は信用に足るじゃないですか。番組を19本やらせてもらっていますが、依頼をするときに、駒として佐藤を置きたいと思ってくださる方がいるわけで。その人たちのジャッジが、僕の評価軸であることは間違いない。今現在、これだけお仕事をいただけているということは、そこに僕の活路があるんだろうなと思いますし、そこに対しては、ちゃんと自分を認めてあげなきゃいけないなと思っています。

体感したスターたちのパワー

──放送作家をやる上で「熱」を持っていたと思いますが、これまで、その「熱」が冷めそうなときはあったのでしょうか? 

情熱的にやったというよりは、もうちょっとドライだったかもしれないですね。結局「アクセル踏めそうだな」と思うものをやっていくしかないなかで、こうして本を出させていただけたり、レギュラー番組が増えたりしたのは、ただの過程と結果なわけで。

それこそ本で対談させてもらったオードリーが活躍をつづけていくなかで、ふたりに関わるかたちで僕までもお声がけいただき、呼んでいただけることもあります。それは僕の手柄ではなくて、あのふたりがすごいだけ。今後も等身大のことしかできないんですけど、そのなかでも、お仕事を依頼してくれる人が「こいつに頼んでよかったな」と思えることをやっていく日々ですね。

──もうひとりの自分が俯瞰で見ているような感覚なのでしょうか?

めちゃくちゃ見てますね。だから浮かれない。寂しいですよね。

──(笑)。大きな番組や芸人さんたちと仕事をしているため、どうしたって賛辞の声は出てきますが、それでもブレずにお仕事されていると。

今回対談してくれたメンバー(オードリー、日向坂46・松田好花、Creepy Nuts・DJ松永、南海キャンディーズ・山里亮太、安島隆/日本テレビ、舟橋政宏/テレビ朝日)が僕に印鑑を押してくれた方々だと思うんですが、それによって僕にも「この人たちがおもしろいって言うなら、なんかなんだろうな」と思ってもらえる付加価値がついただけというか。確かにここ数年、いろんな声をいただくんですが、あまり信用してないです。変な話ですけど(笑)。

──対談した山里さんとのツイッター上でのやりとりも話題となっていましたね。

山里さんとは、8年間『スッキリ』で週4日会う生活をしていた間柄。今回本を出すとなったときに、帯に書かれた(対談した人の)名前の順番がおかしいと言ってきて。そこに対して突っかかれるって、やっぱり天才だと思うんですよ。で、本を渡したら、ページを開いて1枚目の写真(若林と佐藤のツーショット)に引っかかるし(笑)。

こんなこと言うとあれですけど、それを“おもしろ”にしてツイッターで盛り上げてくれて。現実的に、Amazonの売り上げランキングが上がるわけじゃないですか。それってもう、とんでもない優しさで。あれを瞬発的にできるパワーと能力。改めてすごいなと思いましたよね。

──告知をエンタメにしたわけですね。

対談のときもこの本の狙いや、僕が何を考えて書いたのか、全部見極めて話をしてくれたから、実は山里さんとの対談がこの本の答えになっているんですよね。それだけで終わらず、あのようなかたちで告知してくれて……。もちろん、並び順に対して「なんでだよ!」って気持ちは本当に0.001ぐらいあると思うけど(笑)。でも、それにより本が話題になることも見越しているんじゃないかなって。バカな人は「山里がまた嫉妬してるよ」とか言うんでしょうけど、そこも覚悟した上でやってくれるのは男気だし、優しさだなと思いましたね。

さらに、運がよかったのは水卜麻美(日本テレビアナウンサー)という、もうひとりの“煽り”があったこと(笑)。僕ら3人のやりとりがネットニュースになりましたが、僕だけではあれだけの影響力って起こらないんですよね。結局、人気も実力もある人たちが応援してくれて、こういうことにつながるんだなと感じました。

──本書では、日向坂46さんについても触れられていて、サトミツさんが作家をされている『ひなこい presents 日向坂46松田好花の日向坂高校放送部』(ニッポン放送)のパーソナリティでもある松田さんとは対談もされました。

アイドルだけの話ではありませんが、芸能の世界は「今の瞬間」も大事ですが“その先”も大事になってくると思うんですよね。ラジオが好きな人でラジオパーソナリティになりたいと思う人はその一部で、なりたいと思ってちゃんと辿り着く人もその一部で、しっかり番組を楽しみながら、客観的にもおもしろいという評価を受けることができる人はほんとひと握りだと思うのですが、松田さんはそのひと握りの人なんですよね。素晴らしいと思います。

ラジオはいくつになってもできるけど、逆にいうと早めにやった経験値ってすごく貴重。数年後、今の番組が終わったとて、それまでの経験値とスキルは絶対に活かせるんです。僕が何かしたわけではないですが、今の時間はあとあと、経験値としてもいろいろな糧になるのではと思っています。

(放送が始まって)この1年半は、番組作りにおいてなるべくご本人がなんでも思ったことを言いやすい関係・空気にしたいと意識していました。いざ対談してみると、改めて、松田さんが信頼してくれている様子もわかって、一緒にいいもの作りができていると感じられたのでよかったです。こういう対談でもないと「じゃあ、改めて話しましょう」なんて機会はあまりないので(笑)。ほんとよかったなと。

佐藤満春
佐藤満春

オードリーは仕事を辞めても付き合う友達

──そんなサトミツさんにとって、大きな出会いとなったオードリーさん。まず、若林(正恭)さんのすごさはどんなところにあると思いますか?

人のストロングポイントを見極める能力だと思います。僕はずっと身近にいたので「自分の知らない一面」や、核心を突くようなことを言ってくれる人だなと常々思っていて。だからトーク番組のMCもできるんだと思います。

──知り合って約20年が経ち、お互い環境に変化もありましたが、それでも関係性が変わらないのは、なぜだと思いますか?

20代のときはそれこそ毎日一緒にいましたけど、それ以降って、お互い忙しくなってくると毎日会うわけにもいかないんですよ。もちろん「関係が崩れたから」ではなくて、仕事が忙しいとか、気が合い過ぎるからなんとなく会わないほうがいいとか、理由はいろいろありますけど、今もそんな感じです。それぞれ立場は変わったけど、ずっと同じ関係性ですね。

今回、本を出すことに対してもすごく喜んでくれました。本に何度も名前が出てくるほど、背中を押してくれた人であり、いろんなものを一緒に作ってきた人でもあり、若林くんがいなかったら、放送作家もしてなかったと思います。いろんな想いを共有した人でもあったので、今回改めて対談できたのは大きかったですね。

──対する春日(俊彰​)​さんとはどんな関係なのでしょうか?

脳みそを1ミリも使わずに会話できる感じですかね。 逆にいうと、疲れちゃうので春日とはまじめな話をしたくないんですよ。でも、それだけスイッチをオフにできる人ってなかなかいない。昨年末に家族で旅行へ行ったんですけど、別件で連絡を取ったら、あいつの家族も近くに来ていて、合流して一緒にメシ食って、犬の散歩して……みたいなことはしました。若林くんとの距離感とは、ちょっと違う不思議な感じではあります。

──本書では、春日さんとの裏話も書かれていて、グッとくる箇所がいくつもありました。

当たり前ですけど、自分からはそんなこと言わないし、忘れていることも多いと思うんですけど、あいつ優しいんですよ。ただ、僕に対して気を遣っている部分もあるとは思います。若林くんと僕の距離が近いというのもあるし、これまでの歴史を考えると、僕に隠している部分もあるんじゃないかなって。頼ってくれたり、一緒にネタの稽古をしたりするけど、僕の前では「佐藤に見せる用の春日」としているんだろうなと思います。

──サトミツさんにとって、オードリーさんとはどんな存在なんですか?

やっぱり友達って感じなんですかね。たとえば、僕がお笑いや作家の仕事を辞めたとしても、崩れるような関係ではないのかもしれないです。

──本作は一週間を待たずして重版が決まり、品薄状態がつづくなど大変好評となっていますが、サトミツさん自身は書き終えたあと、何か発見はありましたか?

僕は何かを成すような人間じゃないし、なんのセンスもないけど、それが致命的なほどではないというか。勉強もお笑いも平均点で、超絶太ってるわけでも、見た目にパンチがあるわけでもない。それに加えて、なんにも楽しめない、いろんなことを諦めて……という人生ではあったんですけど、ありがたいことに、いろんな人との出会いで、そこからスポッと穴が開いて先に進めたりして。「ここもこの人に助けられてんな」ということが多かったんですよ。この本も最初に書き終わったとき、いろんな人に感謝し過ぎてて、すげえつまんなかったので、感謝している部分はかなり削りました。

──『スターにはなれませんでしたが​​』を通して、人生のいい振り返りができたんですね。

そうですね。「人に恵まれてなんとかなったんだな」という気持ちが大きくなりました。

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  • 『スターにはなれませんでしたが』

    『スターにはなれませんでしたが』

    著者:佐藤満春
    発売日:2023年2月17日
    定価:1,760円(税込)

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浜瀬将樹

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浜瀬将樹

(はませ・まさき)1984年生まれのライター、インタビュアー。お笑い、ドラマ好き。移動中に深夜ラジオ聴くのが癒やし。

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