囲碁将棋×金属バットの番組担当Dが「アポなしロケ」の難しさを考える

2023.12.26

写真=UHB北海道文化放送

文=ふたつぎ 編集=鈴木 梢


12月28日(木)、北海道文化放送(UHB)にて『芸人打ち上げ酒』という新番組が放送される。初回放送の出演者は、囲碁将棋と金属バット。北海道一の繁華街ススキノで行われる打ち上げをかけたロケと、ロケ後のトークを30分に詰め込んだバラエティ番組だ。

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この番組は「アポなしロケ」番組である。事前に撮影場所や取材先、台本、どんな画が撮れるのかなど、通常のロケであれば事前に綿密に準備する要素が決まっていない状態で撮影を実施している。

今回は『芸人打ち上げ酒』の企画・演出を務めるディレクターふたつぎが、「アポなしロケ」の魅力と難しさなどについて綴った。


酒飲み番組に感じてきた魅力

20歳になる前から、『二軒目どうする?〜ツマミのハナシ』や『博多華丸のもらい酒みなと旅』(いずれもテレビ東京)、『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS)といった酒飲み番組が好きだった。

お酒が飲めなくても「飲みの場の雰囲気が好きだから飲み会に参加する」という人と同様、子供ながらに、出演者たちがお酒を楽しんでいる姿を見ていて心地よかったのだと思う。イカのから揚げを片手にお酒を飲みながら、録画した『酒場放浪記』を観ている父の姿も、なんだかうらやましかったのを覚えている。

テレビ局に入社してから5年。ことあるごとに「お酒を飲む番組を作りたいです!」と言ってきて、今回できたのが『芸人打ち上げ酒』だ。“お酒”と“芸人”、どちらも好きな私にとってはごほうびのような番組だが、実は、企画が先行して生まれた番組ではない。

打ち上げ会場では、熱気で途中GoPro4台が壊れた
打ち上げ会場では、熱気で途中にGoPro(ビデオカメラ)4台が壊れた

いつもお世話になっている札幌よしもとの社員さんと飲んでいた際、「東京や大阪の芸人さんが札幌でライブやるとき、前後でロケできたらいいですよね~」と話していて、たしかにそうだと思った。

北海道でお笑い番組を作る上で最もネックになるのは、交通費と宿泊費。ライブで北海道に来ている芸人のライブ前後のスケジュールを押さえれば、制作費を格段に抑えて番組を作ることができる。そこで生まれたのが、今回の番組だ。

北海道でのライブ終わり、ほぼ100%の確率で芸人たちは打ち上げに行く。そこで芸人たちには「打ち上げに行く前にロケをしてもらいます!」とカメラがドッキリで直撃し、お題にクリアしてからでないと打ち上げ会場に行けない、というシステムの番組を制作するに至った。ある意味、「交通費と宿泊費がかかるからロケがしづらい」という制約があったからこそ、できた番組かもしれない。

カニの身を取り出し中の金属バット
カニの身を取り出し中の金属バット

「アポありロケ」と「アポなしロケ」の違い

本番組に台本はなく、決まっているのは最終的な打ち上げ会場だけだ。

以前担当していた情報番組であれば2週間くらい前から、新しくできたグルメ店や街で話題になっているネタのリサーチをかけて、取材交渉し、台本を作成し、撮る画を決めてからロケを行う。現在担当している街ブラ番組も、事前にお店の撮影可否や人気メニュー、客層や特徴などを聞き、ある程度の歩き導線も決めてから撮影を行っている。

自分がいち視聴者として番組を観ていたときは、なんとなく台本が見える番組よりも、アポなしで芸能人がお店と交渉したり、街で一般人とやりとりをしたり、そんな光景を見るのが好きだった。それはきっと、バラエティだけれどもドキュメント感があり、出演者や街の人たちの人間性も垣間見ることができるからだと思う。

観ているぶんにはおもしろいが、それはすでに編集されたもの。実際に自分がアポなしロケを行うとなると話は変わってくる。これから自分が撮影を行うと考えると、取れ高が保証されていないという恐怖がぐっと押し寄せる。

アポなしロケは「何が起こるのかわからないワクワクがある」のと同時に、「何も起こらないのではないか」という恐怖も付随する。その恐怖を少しでも減らすために、準備を行う必要があった。アポなしロケだからといって、アポ以外の準備をまったくしないわけではない。

囲碁将棋・根建の財布はロッキー
囲碁将棋・根建太一の財布はロッキー

まずアポなしロケの準備として「何か起こりそうな場所」を探した。

今回のロケの場合、芸人たちがススキノで「外国人と腕相撲勝負」「酔客と大喜利対決」といったお題のクリアを目指すのだが、そのお題をなんとかクリアできそうな場所を探したり、逆に街を歩いておもしろいお題になりそうなものを探すなどした。

ロケ1週間前には、ほぼ毎日仕事終わりにひとりでススキノに行っていたため、次第に客引きの顔を覚え始め、高確率で売れ残るミスドのドーナツがわかり始め、カラタチのラジオを3周した。

「何も起こらない」を避けるための3つの準備

ロケの前に準備したことは大きく3つ。1つ目は「何か起こりそうなスポットマップの作成」で、ふたつ目は「お題に対する救済措置の作成」、3つ目は「札幌にいる芸人事情の把握」である。

2つ目の「何か起こりそうなスポットマップの作成」はその名のとおり、話しかけやすそうな酔客がいるエリアや、外国人がよくいるエリア、取材できそうなお店が多いエリアなどを書き込んだマップを、スタッフ内で共有した。ロケ時にはそのマップをもとに、何か起こりそうなエリアへディレクターが誘導するようなかたちでロケを行った。

ふたつ目の「お題に対する救済措置の作成」は、全員がお題をクリアできなかった場合を想定して、確実にクリアできるお題を事前に作成し持っていくことにした。なぜなら今回の企画は、誰もお題にクリアできないと打ち上げ会場でお酒を飲めないことになり、企画が破綻してしまうからだ。そこで、夜でも焼き立てパンを売っているお店がススキノにあることをリサーチした上で「焼き立てパンを買う」というお題カードを作成した。

そして3つ目の「札幌にいる芸人事情の把握」は、札幌よしもとのスタッフさんにお願いし、その日札幌にいる芸人さんのスケジュールを事前に聞いた。というのも、お題カードの中で芸人に会う必要のあるものが出てくるのだが、もしも札幌に芸人があまりにもいない状態だとお題クリアが難しすぎるので、ロケ日に札幌にいる芸人のことをスタッフはある程度確認しておいた。

アポなしロケは何かあると保証されていないからこそ、少しでも「何も起こらない」というリスクを軽減するため、ほかの番組より準備を重ねたように思う。

ハリソンフォード似の外国人に腕相撲で負ける金属バット小林
ハリソン・フォード似の外国人に腕相撲で負ける金属バット小林圭輔

「アポなし」ゆえにできなかったこと、できたこと

しかし、どれだけ準備を重ねたとしても、できなかったことも当然ある。

今回のロケの中で金属バット友保隼平が、行きつけのガールズバー「MILLION」(薄い黒タイツのバニーちゃんが接客してくれるお店)のオフモードバニーちゃんと、たまたま遭遇した。

金属バット友保と「MILLION」のバニーちゃん
金属バット友保と「MILLION」のバニーちゃん

友保がプライベートで接客してもらったことがあるバニーちゃんがたまたま飲み屋に居合わせて、しかもバニー姿ではなく私服の状態で遭遇するという偶然に友保もテンションが上がり、すごくいいリアクションをしていたのだが、撮影NGのお店だったため、放送することはできなかった。

おもしろかったシーンを使えないのはディレクターとしてつらく思う一方、こればかりは事前に準備できることではないので難しい。アポなし取材は時としてお店に対して失礼にもなってしまうので、お店に対して「すみません」という気持ちを常に持っているし、取材させてくれたお店に対しては「マジで感謝!」(イナズマイレブン)と思っている。

あのときのお店の方へ。アポなしで訪れて大変失礼いたしました。

一方、アポなしロケでしか見られないおもしろさがあるのも事実だ。今回のロケで一番印象に残っているのは、一般の酔客と芸人さんが大喜利対決をするシーン。

お笑い好きなら、いや、お笑い好きでなくても多くの人は「お題を読んでから回答者が発表する」という大喜利の基本的な流れを知っている。しかし今回のロケでは「飲んでいる人のリズムで行われる、大喜利の流れを無視した大喜利」が展開された(実際にどんな大喜利になっているかは、ぜひ番組を観ていただきたい)。

『IPPONグランプリ』から『大喜る人たち』までさまざまな大喜利を見てきたが、一般人の酔っ払いが出す回答は今まで見たことのないもので、これは考えてできるものではない、アポなしロケだったから生まれたもののように思う。

結局のところ「アポあり」と「アポなし」どちらがいいのか

テレビ番組には、「作り込まれているおもしろさ」と「作り込まれていないおもしろさ」、どちらもあると思っている。

自身が担当している『ZEKKEI NETA CLUB』という番組はどちらかというと前者で、ロケ前までにカメラマンとある程度カット割り(映像の区切りやそのための撮影要素)を考えてから撮影を行っている。一方、今回の『芸人打ち上げ酒』は後者で、ロケをするまでどんな画になるか想像がつかない。

しかし、両方に共通しているのが「準備して裏切られたい」という点だ。

3000円のイクラ丼を食べる根建
3000円のイクラ丼を食べる根建

ロケが好きな理由は、自分の想定や想像を芸人さんが裏切って超えていくことがあるからで、そのために準備しているようにすら思う。何もないまま全部を出演者に委ねる制作はあまりにも信用できないし、逆に制作が用意したルートをただ出演者になぞってもらうのは想像の範疇にしかならず、出演者も窮屈になってしまう気がする。

だから、最大限準備した上で、出演者がそのレールから外れても大丈夫な番組でありたい。私がひとりで考えられることなどたかが知れているのだから、ある程度枠組みを用意した上で、芸人さんがやりたいこと、言いたいこと、おもしろいと思うことをやってもらえる場を用意していたい。というより、私が一番それを見たいのかもしれない、喜。


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  • 『芸人打ち上げ酒』

    放送日:2023年12月28日(木)23:50~24:20
    放送局:UHB北海道文化放送(北海道ローカル)
    出演者:囲碁将棋、金属バット
    ナレーション:リングリンデ まひろ
    ※放送後2週間UHBの公式YouTubeにて見逃し配信を予定

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ふたつぎ

1996年生まれ。青山学院大学のお笑いサークル「ナショグル」に所属し、『M-1』などにもエントリー。卒業論文は『ゴッドタン』(テレビ東京)などを題材にした「お笑い番組から考えるテレビ番組のデザイン」で、佐久間宣行がツイッターで「嬉しかったし、何より面白かったです!」とコメントするなど話題となった。現..

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