東出昌大が考える、“SNSの炎上”との正しい向き合い方。「ネットの誹謗中傷は、便所のラクガキ」

2023.11.12

文=安里和哲 撮影=西村 満 編集=菅原史稀


ボロアパートに暮らす訳あり住人たちが自分自身と向き合い、前を向いて生きる姿を描く映画『コーポ・ア・コーポ』が11月に公開される。本作で女を口説き貢がせる色男・中条を演じるのが、東出昌大だ。

2020年、自らの過ちで一度はすべてを失った俳優・東出昌大。苛烈なバッシングを受け、東京を離れ山暮らしをしながら役者として活動する東出自身も、『コーポ・ア・コーポ』の住人的といえるかもしれない。

一度は失敗を犯してしまい、世間から集中砲火を浴びた東出。そんな彼に聞きたかったことがある。「現代の世間になってしまったSNSは、東出さんの目にはどう映っていますか」と。この息苦しい社会で、どうやって東出は再起したのか。

そんな不躾な問いに、東出は真摯に言葉を尽くしてくれた。

東出昌大
(ひがしで・まさひろ)1988年、埼玉県出身。モデルとして活躍し、2012年、映画『桐島、部活やめるってよ』で役者デビュー。以降、黒沢清や濱口竜介、瀬々敬久、沖田修一、吉田恵輔など数々の名映画監督に起用されてきた。2021年2月に所属事務所を退所し、とある山奥で生活しながら、フリーランスの役者として活躍している。

東出昌大インタビュー前編「山での“とある”経験と後悔」

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移ろうイメージには合わせない

──SNSに対して息苦しさを覚えながら使いつづける人は多いように思います。東出さんは、ご自身の一件が取り沙汰されたときは、自分を戒めるためにエゴサーチをされたそうですね。

東出 普段はまったくSNSは使わないんですが、当時はあえて見ていましたね。でも、時間が経って振り返ると、変な現象でした。とはいえ、あの出来事は僕が客観的に評価できるものではないので、これ以上言えることはないかな。ただ、自分がものすごく忙しくして、行きつくところまで行ってしまい、招いた結果だったなと思います。

──役者は、自分とは異なる人物を演じるのだとしても、有名人として自身のパブリックイメージと向き合いながら、表現をしていくように思います。東出さん自身のイメージをどう受け止め、表現されてきましたか。

東出 たしかに当時のマネージャーさんに「これから仕事の範囲は狭まる」と言われましたし、デビューから作り上げたものが一瞬で崩れたことを突きつけられました。でも、すべてが灰燼(かいじん)と帰して、何もかもが風に吹かれてなくなったあとに感じたのは、生きててよかったなということだけで。そう思えたら、芝居にもよりいっそう向き合えました。

今回の『コーポ・ア・コーポ』もヒモ役なので、ネット上では「東出にぴったりの役だ」と言われるでしょうが、それはどっちでもよくて。僕はヒモ役でも殺人鬼でも善人でも、どんな役でもまっとうできる。というか、プロの役者としてまっとうしなくちゃいけない。

──自身のイメージに沿って演技を考えることはない?

東出 そうですね。東出昌大のイメージはどうでもいいです。そもそもイメージなんて本当にもろいもので。長い付き合いの友達に「あれ? こいつこんなやつだったのかな?」と思うこともあるじゃないですか。イメージなんて一夜にしてガラッと変わる。それくらい移ろいやすいものに合わせても仕方がない。そもそも本当の自分をわかってほしいとも思わないですから。

スマホに奪われたぼんやりの時間

──現代の世間とも言えるSNSは、東出さんの目にどう映りますか。

東出 「SNS疲れ」している人はたしかにいるし、承認欲求ゾンビになっている人も多いと感じています。同時に最近思うのは、僕ら映画人もこの状況を利用している面があるということです。

──どういうことでしょうか。

東出 たとえば試写会の舞台挨拶で「SNSで広めてください」と言うじゃないですか。SNSの口コミや、映画情報サイトのユーザー評価を通して、観客のみなさんに評論まがいのことをさせてしまっている。人に読まれる/聞かれる前提の感想は、ウケのいいことを言ってしまう。

──作品を褒めた投稿のほうが、宣伝側にはありがたいですもんね。

東出 そうです。SNS以前だったら、ごく近しい人と軽口叩くように感想を言い合えて、そこから口コミで話題作が生まれていった。個人のピュアな感想が観客動員につながる豊かさは失われてしまった。

今は多くの人がスマホの画面の中で、自分の価値を発揮しようとしています。それで自分の気持ちがよくわからなくなって、疲れてしまうのかもしれない。今日も久しぶりに山を下りて電車に乗りましたけど、ほとんどの人がスマホを見ていて。

──老いも若きもスマホを眺めているのが今では当たり前の光景です。

東出 スマホを使って、SNSをチェックしているのかもしれないし、動画を観ているかもしれない。勉強している人もいるでしょう。アクセス先は各々違う。でもスマホから離れて窓の外の景色を見るとか、ぼんやり思索にふけるとか、そういう時間の過ごし方は確実に減っている。

──その意味で『コーポ・ア・コーポ』の登場人物たちはみんな無為に時間を過ごしていて素晴らしいですよね。同じアパートに住む住人たちは、みんな暇そうに過ごしている。そういえば劇中にスマホも登場しません。

東出 そうそう、暇人ばっかり出てくる映画です。ただただタバコを吹かしてたり、寝転がったり、靴を磨いたり、小銭数えたり。そういう何気ないシーンに、豊かさが詰まっている。人はそういう時間を過ごしながら、無意識に自分を見つめたりするんですよね。

──東出さんは2021年から山で暮らし、猟をしながら生活されていますが、ぼんやり過ごす時間は増えましたか?

東出 東京に住んでいたころよりは増えましたが、それでもやっぱり難しいです。仕事において「あれも大事、これも大事」となると、プライベートを削って働こうとしてしまう。これから2、3年かけて、バランスを取れるようになっていきたいです。

なぜSNSは、他者への攻撃を加速させるのか

──SNSに話を戻すと、毎日いろんな「炎上」が話題になっています。SNSから距離を取っている東出さんは、この状況をどう見ていますか。

東出 炎上ってよく言われますけど、僕はメディアの責任もかなり大きいと思っています。大衆が無軌道に暴走しているわけではなくて、炎上を焚きつけるメディアがいる。テレビや週刊誌のボロがどんどん出始めていますよね。

──そうですね。東出さんは以前、出演した作品にまつわる騒動の際、『週刊文春』の取材に対して以下のようなコメントを出されていました。

「ジャーナリズムは中立性を保ったまま、双方の立場と意見を客観的に書くべきだと思います。善悪二元論だけで語れるほど、多くの人々が携わる物作りの現場は単純ではありません」

《主演映画で訴訟トラブル》東出昌大(34)が「昨今の週刊誌報道の風潮」に物申す!「個々人の対話が優先されるべき」「善悪二元論だけで語れない」

東出 そうでしたね。メディアの中には、一方の主張だけを目立たせたり、読者受けを狙ってゴシップを追ったり、あることないこと書く人が一定数いる。そうやって本来のジャーナリズムから逸脱した情報がSNSを通して広がり、人々が翻弄されている状況がある。

──今では有名人だけでなく、無名の人でもネット上での言動が非難され、炎上することが増えています。過剰な糾弾は反省を促すものではなく、精神的に追い詰めるだけですよね。

東出 それで自死を選択してしまう人もいますからね。僕もいろいろ経験してきて思うのは、「炎上」や「叩かれる」って物理的なワードでインパクトがあるけど、実際には何も起こってないということ。ネット上の誹謗中傷は、やはり便所のラクガキでしかない。

SNSで起こってることは「炎上」じゃないんです。ただ、一時的に注目を浴びてしまっているだけ。そういう巡り合わせの話でしかない。渦中にいるときはどうしてもSNSでの出来事がすべてだと思って絶望してしまう。でも、すぐにほとぼりは冷めるんですよ。

──不思議なのは炎上させる側です。なぜ、匿名で誰かを激しく攻撃する人が絶えないのでしょうね。

東出 不安や孤独があるんじゃないでしょうか。燃やしてる側も、ギリギリで生きてるんだと思います。今、人はますます集団化していて、その群れから外れたら生きていけないと強迫的に思い込んでいるフシがある。それは裏を返せば、自分という個が揺らぎまくってるからだと思います。

──寄る辺ない個人が、集団に帰属して安心しているというか。

東出 その安心も束の間なんですけどね。先ほども言いましたが、やはりスマホの中に価値基準を探すと、どうしても右往左往してしまう。動じないためには、自分を見つめることが大切なんだと思います。ほかでもない唯一の個である自分と向き合う。その作業はしんどいこともあるけど、そうすることでしか生きる喜びは得られないんじゃないかな。

──それに気づいたのは山に暮らすようになってからですか。

東出 そうですね。僕の場合、山にいれば自分で獲物を仕留めて、料理して食べられる。水もあれば寝床もあるし、それさえあればじゅうぶん生きていけると知ったことで、自分という個が確立できてきた気がします。

もちろん僕なんかはある程度無責任だから、こんな暮らしができてるわけだけど(笑)。でも、都市生活者でも3、4日くらいスマホを置いてぶらぶらできたら、意外と自分はひとりでも大丈夫だって気づけると思うんです。

悩みや相談への応答

──今日インタビューさせてもらって、問いへの応答の速さと、その思考の深さに驚かされました。

東出 そうですか? でも、山に暮らすようになって、思索にふける時間が増えたので、その影響はあるかもしれません。あと、人から悩み相談を受ける機会も増えたんですよ。すねに傷のある僕にしか話せないこともあるらしくて。

──失敗したことで、むしろ頼ってもらえるようになった。

東出 いい言い方をすれば、そういうことですね。でも、そうやって悩みを聞いて、応答するのって本当に大事だと最近思ってて。

──挫折を乗り越えて、自分らしく生きる東出さんに相談したい人は多いと思います。QJWebでやってくれませんか? 人生相談。

東出 いいですね。ちょうどそういう活動をやりたいと思ってたんです。昔は作品を通じて、観客やファンの方、同業者とコミュニケーションが取れればいいと考えていて。でも、やはり純粋に会話や相談というかたちで交流することも必要なんですよね。こんな時代だからこそ、もっと話したほうがいい。ぜひ、悩みを聞かせてほしいです。

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映画『コーポ・ア・コーポ』

11月17日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

岩浪れんじによるマンガ『コーポ・ア・コーポ』を実写映画化し、安アパートの訳あり住人たちと彼らを取り巻く人間模様を綴った群像劇。

大阪の下町にある安アパート「コーポ」には、家族のしがらみから逃げてきたフリーターの辰巳ユリ、複雑な過去を背負い女性に貢がせて生計を立てている中条紘、女性への愛情表現が不器用な日雇い労働者の石田鉄平、人当たりはよいが部屋で怪しげな商売を営んでいる初老の宮地友三ら、さまざまな事情を抱える人たちが暮らしている。ある日、同じくコーポの住人である山口が首を吊って死んでいるのを宮地が発見する。似たような境遇で暮らす人間の死を目の当たりにした住人たちは、それぞれの人生を思い返していく。

主人公ユリを馬場ふみか、中条を東出昌大、石田を倉悠貴、宮地を笹野高史が演じる。

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安里和哲

(あさと・かずあき)ライター。1990年、沖縄県生まれ。ブログ『ひとつ恋でもしてみようか』(https://massarassa.hatenablog.com/)に日記や感想文を書く。趣味範囲は、映画、音楽、寄席演芸、お笑い、ラジオなど。執筆経験『クイック・ジャパン』『週刊SPA!』『Maybe!』..

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