「1時間単位で配送指定」…便利な宅配サービスの落とし穴とは?物流の“2024年問題”を考える(アンバランス黒川)
ネットショッピングの普及などに伴い、特にコロナ禍以降は、宅配便の取り扱い個数が急増している。普段人々が何気なく利用している宅配サービス、しかしその荷物一つひとつは人の足と手によって届けられている。
2022年に結成30年を迎えたお笑いコンビ・アンバランスの黒川忠文は、最近まで芸能活動の傍ら宅配業に15年従事したベテラン配達員だった。本コラムでは“宅配のプロ”だった彼が、長年の経験をもとに積み重ねてきた配達テクニックや、その過程で経験した数々のエピソード、宅配業の裏側を明かす。
あなたの荷物はどんな経緯を辿り、どんな思いを背景にして届けられているのか。
イオンで新ネットスーパー事業がスタート
宅配荷物の大半がネットで購入されたものである現在、ネットショッピングで取り扱う商品の分野も多様になってきましたね。先日、イオンが新たなネットスーパーのサービス「グリーンビーンズ」をスタートさせました。首都圏の一部地域で始まったこのサービスは、オンラインで注文を受け付けた飲食品や日用品を、購入者の自宅に1時間ごとに届けるというもの。前日までの注文で、午前7時から午後11時までの希望の配達時間を1時間単位で指定できるそうです。
ここ最近は配達サービスを導入するスーパーが増えました。しかし各店舗で注文を受け、店員がピッキング(倉庫内から商品をピックアップすること)して、その店舗から配達に行くといった従来の方法に対し、イオンの「グリーンビーンズ」では、注文が入ると約1000台のロボットが秒速4mで移動し、6分間で50個の商品をピッキングしてくれるとのこと。そして店舗はなく、配送専門の物流拠点のみ。すごいですね!
しかし、そのあと購入者の自宅へ配達に行くのはロボットではなく人である、ということも忘れてはいけません。「グリーンビーンズ」ではイオンネクストデリバリーが直接雇用するグリーンビーンズ専任者が配送を行うということですが、元宅配業者の私は、このニュースを聞いたとき「ドライバーの確保は大丈夫なのかな」と心配してしまいました。
“2024年問題”で物流業界に訪れる危機…宅配業者への影響は?
配達サービスが進化することで消費者側がどんどん便利になっていく現状を、私が不安に思ってしまう理由のひとつに、物流業界の“2024年問題”があります。労働基準法の改正により、2024年から年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されます。運転業務に関する変更はある程度、準備期間として先延ばしにされていましたが、いよいよ来年の4月1日から本格的に見直しが図られるわけです。
改正以降、ひとりあたりの時間外労働時間は12カ月で割るとひと月80時間まで、仮に月20日勤務だとして1日4時間となります。(あくまでも自分の基準ですが)宅配の仕事だと、朝7時に出社して荷物の仕分け・積み込み、出発〜配達を21時まで行い、帰社して荷物の片づけをしたと考えれば、早くても22時退勤というのが、一般的な出勤日の流れ。計14時間(休憩1時間)稼働で、6時間の時間外労働になります。
15年前、私が宅配業を始めたころは、フル出勤だと月120時間以上は残業していました。当時はしっかりと稼がせてもらったな〜。
労働基準法の改正について、見方によれば「残業時間が規制されれば、宅配業者が体力的に楽になるからいいのでは」という意見もあるかと思います。しかし、宅配業者の中には「残業代が3分の2になってしまうと、収入が減って困る」という意見を持つ人が少なくないのではないでしょうか。かつての私のように、「残業が多くてもいい、ガッツリ稼ぎたい」という人もいますからね。
大企業は2010年4月、中小企業は今年の4月から、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%から50%に引き上げられたこともあり、自主的に時間外労働を60時間と上限設定して、人件費を抑えている会社もあるようです。このような上限があるため、夕方で退勤するドライバーと、夜間まで残って配達するドライバーとで出勤時間が異なるシフトを組むことで、残業時間を調整するような試みをしているところもあるのだとか。こうした場合、ひとりあたりで捌ける荷物量が減るため、物流全体に影響が及ぶことも考えられます。
この状況下、ネットのセール期間により配達量が激増しても対応できるのでしょうか。(私自身、宅配業者時代のセール時期に、朝の積み込みでものすごい荷物量を見て心が折れそうになったことがあります)
そしてこの状況変化によって、業務委託のサポーターにも影響が出てきます。元請け側もサポーターの労働時間に配慮しなくてはいけないので、休日を増やすよう指示する必要があります。ただでさえ人手不足といわれている運送業界、その問題は今後さらに深刻なものになりそうです。
宅配業が“魅力的な職業”になるためには
と、悲観的な話をしてても仕方ないので、どう改善していくか具体的に考えないといけないですね。2022年に発表された経済産業省の発表によると、現状トラックドライバーは40代、50代の年齢層が中心になっているということです。これは少子高齢化の影響も大きいですが、まずは宅配業が若い世代が魅力を感じる職業にならないと、今後物流が滞ってしまう可能性もあります。
宅配業は拘束時間も長く、ハードワークですので、それに見合った対価が業者に支払われるべきだと思います。一方、昨今ではガソリン価格の高騰、物価の上昇で、給与面での底上げが難しいこともわかります。となれば、それに合わせた適正な運賃(送料)値上げや2回目以降の再配達、付加価値的な配送サービスの有料化などを検討するなど、各企業の努力が必要になるでしょう。
企業が収益を上げ、それがしっかりドライバーの賃金に反映されれば(業務委託サポーターの配達単価もしっかり上げてほしい)、新たな人材の確保につながり、現場の環境改善となり、労働者の負担が少ないシフトが組めて、今よりもっと魅力のある職業になっていくのではないでしょうか。
ここまでテクノロジーやAIが発展しても、法的整備や実用化までクリアすべき課題がまだまだたくさんあるため、自動運転での荷物輸送やドローンで配達、という時代が今すぐに実現するとは思えません。物流でのラストワンマイル(宅配)は、この先も人が担うことでしょう。そしてなにより、機械やロボットでは、笑顔や真心を添えて荷物をお届けすることはできないと、私は思うのです。
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