イーロン・マスクの「ツイッター改革」から読み取れる「ヤバいサムシング」(マライ・メントライン)

2023.3.9
マライ・メントラインサムネ

ツイッターがヤバい。日本在住ドイツ人・マライ・メントラインがイーロン・マスクの「ツイッター改革」を検証し、天才お金持ちの「一見アホなふるまい」に騙されてはいけない!と訴えます。

ツイッター運営のズダボロぶり

ツイッター社から「左派っぽい意識高い系キラキラ文化な社員」をクビにして追い出してやったぜ! というイメージを見事に構築して(実務的な意味や効果もあったかもしれないが、ここでは彼の戦略的な凄さをちょー称える意味から敢えてそのように書くのだ!)ネット界を激震させ、それ系界隈からの無限の賞賛と絶対的な支持を固めたイーロン・マスク御大ですが、ぶっちゃけ、その後のツイッター運営のズダボロぶりは(技術畑方面から予見されていたとおり)なかなか凄まじい。

私も実際「左派っぽい意識高い系キラキラ」なのは苦手だけど、だからといって御大のテキトーな割り切り運営をアクロバティック擁護するようなデキた人間でもない。ゆえにこんなツイートも日々こぼれてしまうというものです。

ていうか、ツイッターの現状に関するイーロン・マスク非公式ファンクラブのメンバー以外のインプレというのは、まあ大方こんな感じだろうねぇ、と勝手に思っている次第。(※お客様個人の感想です)

そして

このツイートは要するに、YouTubeやAmazonに比べた場合の「おすすめアルゴリズムの露骨な不出来」についての文句です。とはいえツイッター運営の目的が「ユーザーを可能な限り長時間ツイッターに釘付けにする」ことが目的である以上、「おすすめ」内容は洗練されてゆき、ユーザーにとって未知の、かつニーズに沿ったものがいずれちゃんと提供されることになるでしょう。

しかしツイッターはまず第一にコミュニケーションツールであり、そこでYouTubeやAmazonのおすすめと同様の「主観的満足」の昂進を強化するのは果たしてどうなのか。陰謀論をはじめとする「オレ世界」の強化と正当化をガッツリとアシストし、結果的に世界の分断をさらに悪化させることになるのではないか、と思ってしまうのです。

取捨選択の自由の壁は厚いが

そして、もうひとつの興味深い可能性があります。

ツイッターの「おすすめアルゴリズムの露骨な不出来」が、もしずっとそのままだったら?

そして、その状態で特にユーザーのツイッター離れも起きなかったら?

そういえば、ツイッターのおすすめは「ユーザーの潜在的ニーズに合わせたつもりでハズしている」というよりも「ニーズ外のものを、敢えて半強制的に提供している」感じに見えなくもありません。そして、その路線への妙な執着も感じます。

だとしたら、その背後にある意図は何なのか?

私はあちこちの自治体や観光協会の地域PRの手伝いをしていて、そこでの最大の課題はいうまでもなく「いかに関心を持ってもらうか」です。より端的には「手段は問わないので、とにかく目を向けてほしい! ちょっとそこのお客さん!」という内なる声が響きまくっているわけです。

んで、広告を打ったりするのですが、広告はそもそも「あー広告ね」と、最初から自動的に画面を見る眼の視界対象外に追いやられてしまいがちです。録画番組を見るときも、普通CM飛ばしちゃうでしょ。あれと同じですね。ぶっちゃけそんなに効果がない。

じゃあ広告ではなくコンテンツ的に勝負! というと、これはどちらかといえば囲い込み済みの固定客に対してしか強くないんですね。たとえばミステリ小説と囲碁の2本立てでやっているツイッターアカウントで、だいたい本人は「囲碁系のお客さんが、うちのツイートを見ているうちミステリに興味を持ってくれるといいんだけどなぁ」とか期待しがちなんですけど、なかなかそうなってはくれません。取捨選択の自由の壁は厚い。でも実際そういう壁を越える流れが出来たりすると素晴らしいんですよ。なぜかといえば、市場が拡大するからです。

「いえいえ順応なさるお客様のほうが多いので!」

そう、PR活動の真のゴールというか成果は「それまで無関心だった客層に目を向けさせ、惹きつけること」なのです。で、ちょっとやそっとでは達成できない。それを踏まえた上で例のツイッターの「ニーズ外のものを、敢えて半強制的に提供する」仕様というのは、「惹きつける」までは無理にしても、とにかく「それまで無関心だった客層に目を向けさせ」るという面ではとても効果的に機能するのです。むしろ嫌悪感をかきたてる! という抗議には「いえいえ順応なさるお客様のほうが多いので!」という対応が用意されております。でこう書くと「いやいや、ツイッターにはもともと広告ツイートが満載でしょww」と思うでしょうけど、これ、先述した広告の限界を踏まえて、広告は広告できっちり収益を上げた上で通常ツイートを強引にシャッフル提示することで「真に効果的な市場拡大のノウハウ」の統計的材料を収集しているのではないかな、と思うのです。

要するに、特定のインフルエンサーのツイートだけに注目が集中するのを、なんとか引きはがしてほかと平準化させたい! という狙いがあり、そこで強制的に見せられるツイートの多くはおそらくスカなのだけど、いろいろ手を加えていけばビッグデータ的に何か有意な結果が出てくるんじゃないかな? という意図がありそう。というか私は考えてしまった。なのでイーロン・マスクほどの人物なら、そんなのとっくに考慮済みでしょう。

やがて情報ブロイラーに!

でね、結論からいえば、やっぱ良くないと思うのです。この路線。

なぜかといえば、この情報過多時代、多くの人が「際限なく増え続ける情報INPUTを絞って生き抜くにはどうしたらいいか」を考慮した上で情報源をセレクトしていると思うのです。消化できる情報量にも限界がありますからね。

でもこのツイッターの「とにかく新奇なものを見ろ!」情報シャッフル強制ストリーム戦術って、その限界を超えさせようとするムリヤリな何かだと思うのです。リミットを超えて人に情報を喰わせて、情報ブロイラーにしてしまう。そして情報ブロイラーはやがて情報フォアグラみたいな存在になり、やがて肥大して熟成した肝臓を、お金持ち層が美味しく収奪してしまうのです。嗚呼! 情報消費者にとっていいことは何も無し! まさに国家ドゥードルドゥー!!

ということで、天才お金持ちの「一見アホなふるまい」に騙されてはいけないのです。アホなことやってるぜー! とか嗤って留飲を下げるのも負けなのです。気をつけましょう。

ではでは、今日はこのへんで、Tschüss!

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マライ・メントライン

翻訳(日→独、独→日)・通訳・よろず物書き業。ドイツ最北部、Uボート基地の町キール出身。実家から半日で北欧ミステリの傑作『ヴァランダー警部』シリーズの舞台、イースタに行けるのに気づいたことをきっかけにミステリ業界に入る。ドイツミステリ案内人として紹介されたりするが、自国の身贔屓はしない主義。というか..

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