12月18日『M-1グランプリ2022』が放送された(ABCテレビ・テレビ朝日)。激戦を制したのはウエストランド。博多大吉、富澤たけし、塙宣之、立川志らく、中川礼二、松本人志、山田邦子による審査結果を、賞レース採点ウォッチャー・井上マサキが検証する。
『M-1グランプリ2023』の審査結果まとめはコチラ
大会を「真っ黒」に塗り上げたウエストランド
『M-1グランプリ2022』のキャッチコピーは「漫才を塗り替えろ」だった。
過去最多7261組から勝ち残ったファイナリスト9組は、5組が決勝初進出で、4組は2度目の決勝進出。敗者復活戦の18組を含めても、3回以上決勝に進出した常連組はいない。
まさに、新しい色になるはずの今大会を「真っ黒」に塗り上げたのは、「あるなしクイズ」を盾にした悪口を全方位に放射しまくったウエストランド! 激戦の今大会を採点から振り返ろう。
採点からもうかがえる「全体のレベルの高さ」
すべての採点を表にまとめた。赤字はその審査員がつけた最高点で、青字は最低点。審査員ごとの平均点と標準偏差(点数のバラつきが多いほど値が高い)も合わせて算出している。
今回、審査員が最高点をつけた組がかなり割れているのがわかる。大吉・富澤・礼二の3人がさや香に最高点をつけた以外、みんなバラバラ。全体通しての最高点は立川志らくがウエストランドにつけた98点だった。
一方で意外なのは、1stラウンド2位通過のロングコートダディに最高点をつけた人がいないこと。それでも660点はとても高い水準だし、3位のウエストランドの659点は審査員7人制での3位最高得点である。
審査員が満場一致で高得点をつけた大本命がいたわけではない。でも全体的に点数が高い。今回のM-1は決勝大会前から「ファイナリストたちのレベルが高い」と言われていたが、採点もそれを裏づけていると言えそうだ。
ちなみに、9番目に登場したキュウ(芸歴9年目)は9位。10位のダイヤモンドの616点は、同期で仲もよいニューヨークが10位になったとき(2019年)の点数と同じである。
やまだかつてない「いきなり11点差」の採点
今回から上沼恵美子とオール巨人に代わり、新たに山田邦子と博多大吉のふたりが審査員に加わった。博多大吉は2017年以来、山田邦子は初のM-1審査員だ。
ふたりの採点でまず目を引くのは、山田邦子の前半の点数。1組目のカベポスターにつけた84点に「私としては高い点数をつけたと思ったら一番辛かったですね、アッハッハ」と笑い、2組目の真空ジェシカに「最後やめてくれってくらいおかしかったんで」と95点をつける。これがこの日の最低点と最高点で、いきなりの11点差……!
さらに興味深いのは、松本人志と評価が真逆になることが多いこと。山田邦子が最高点をつけた真空ジェシカに、松本人志は88点とやや辛め。逆に松本人志が最高点をつけた男性ブランコに、山田邦子は86点をつけている。まるで審査員席の配置のように両極端。
となると、今大会は山田邦子が鍵を握っていたのだろうか……と思うが、実はそうでもない。試しに山田邦子の採点を除いて合計を出してみると、ウエストランドとロングコートダディの順位が入れ替わり、真空ジェシカとオズワルドが同点6位になる。だが、それ以外は大きな変化はなく、全体の採点に過大な影響を与えたとまではいえないだろう。
3組目以降、山田邦子の採点は87点から94点のあいだで推移しており、「真空ジェシカに95点をつけてしまい基準が上がってしまった」といった様子は見られない。純粋に「自分の中で真空ジェシカがトップ」なのだろう。そう考えると、2組目で95点をつけられる思い切りのよさは、それはそれですごいのではないだろうか。
なお平均点は89点台とちょっと低めで、なんとなく90点をひとつの基準にして採点をしているように見える。でも山田邦子の審査コメントは基本的に「おもしろかった」という褒めスタンスであり、「こういう理由で低くした」とは語ってくれなかった。ひょっとしたら今後自身のYouTubeで解説があるのかもしれないので期待したい。
説明責任を果たす大吉先生
褒めスタンスの山田邦子に対し、気になったところをズバリと言語化していたのが、もうひとりの新審査員・博多大吉だった。
真空ジェシカには「大喜利と漫才を融合させたネタではトップランナー」と評価しつつ、「緊張して間がズレた気がしたので」と指摘。ロングコートダディには「ぶっちゃけ20秒残しだったので……最後20秒何してくれるんだろうと期待しちゃいました」と、持ち時間の観点からコメント。男性ブランコには「面白いんですけど漫才かって言われると……ちょっと予想できたりもしたので」と、他の審査員より低めにつけた理由をきちんと説明する。
そんななか、審査員全員が採点に頭を抱えたのがヨネダ2000。「イギリスで餅つこうぜ!」という出だしから、「ペッタンコ」「アイ!」「ペッタンコ」「アイ!」「ペッタンコ」と餅をつき、ドラムが入り、DA PUMPのKENZOが踊り、最終的に「if…」をハモってからの「センキュ~」。志らくは「女版ランジャタイを見ているような……」、富澤は「ランジャタイがいなくてホッとしていたのに!」と、昨年のランジャタイの幻影を見る。
そんななかでも大吉先生は「本当に個人的に、KENZOさんの説明がいらなかったなと思って。高齢者に気をつかわれた感じもあって(笑)」と気にしつつ、「そんなこと気にせずに突っ走ってほしかったなって。もっとこのまま、突き進んだほうがいいと思います」と背中を押してあげる。どこから手を付けていいか分からない世界観にも、なにか手渡せるものをという姿勢にしびれる。
ウエストランドが放った「8分間の毒ガス」
最終決戦に残ったのは、さや香、ロングコートダディ、ウエストランドの3組。しゃべくり漫才、漫才コント、毒舌系という、全く違うタイプの漫才が揃った。
1stラウンドでは10番目に登場したウエストランドは3位に滑り込み、最終決戦では1番目に登場。つまり、2本続けて漫才をすることになった。このパターンは、2009年3位のNON STYLE、2019年3位のぺこぱに続き3組目。
ウエストランドは2本とも同じ「あるなしクイズ」の形を取って、恋愛映画にYouTuber、お笑いファン、アイドル、コント師のフライヤー、M-1グランプリのアナザーストーリーまで速射砲を打ち続け、計8分にわたり毒ガスを浴びせつづける。
さらにロングコートダディがタイムマシンで去年に飛び、さや香が男女の友情とキスの話で暴走する。3組が終わり「3組とも本当は優勝(礼二)」「自販機みたいに3つバーン!って押したい(富澤)」と苦悩する審査員たち。ふたを開けてみれば、7人中6人がウエストランドに票を投じていた。8分間の毒ガスは、確かに効いていたのだ。
ファーストステージ3位通過が優勝するのは、2017年のとろサーモン以来のこと。名前がコールされ、紙吹雪が舞うなか、井口は笑顔で両手を振り上げ、河本は棒立ちのまま両目からツーと涙を流した。その様子に「こんなに台詞も少なくてネタも飛ばすやつがなぜか大号泣してるんで、今日いろいろ言いましたけどそれが一番腹立ちますね(笑)」とさっそく毒づく井口。
そういえば、今年のR-1ぐらんぷりではお見送り芸人しんいちが優勝していたっけ。お笑い賞レースが悪口で始まり、悪口で終わる2022年である。
放送終了直前の15秒、コメントを振られた井口は「自分の人生なんですけど、初めて主役になれた気がしました」と話した。2年前、初めてのM-1決勝で「お笑いは今までなにもいいことがなかったやつの復讐劇なんだよ!」と吠えていた姿を思い出す。復讐は実った。そして河本もつづく。
河本「ぼ……僕も一緒です!」
井口「なんだよ!楽すんなオイ!」
それにしてもこんな原稿を書いたら「分析するな!」と怒られそう。皆目見当違いだったらすみません!
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