盤上で相手の心理を読み、削り合うゲームの囲碁・将棋。
一方、囲碁将棋の『情熱スリーポイント』は、文田と根建がひたすらボケという拳で殴り合う白兵戦だ。その筋肉質すぎるお笑いファイトクラブは、たちまち好事家の噂になり、今も輪を広げている。
芸歴20年弱にして囲碁将棋が評価を高める理由。ラジオアプリを開いて、白熱のリングに耳を澄ませば、その理由はすぐに分かる。
※この記事は『芸人雑誌 volume7』に掲載のインタビューを転載したものです。
コンセプトは「ずっと続いている番組」
──番組開始からそろそろ2年が経とうとしてます。当初、どんなコンセプトではじまったんですか?
文田 最初の打ち合わせでGERAさんに「初回は番組のタイトルを決めたりする芸人さんもいます」と説明されたんですよ。でも、もう若手じゃない僕らがそこからはじめてもしょうがないかなと。それで第1回からメールもちゃんと届いて、ずっと続いている番組のようなニュアンスではじめたいというのがありました。もともと「レディオ湘南」というコミュニティFMで、ふたりでしゃべるだけの番組をやっていたんですけど、そこは作家もいないんですよ。
その番組にしずるのKAƵMAやシソンヌのじろうがメール送ってきてくれて、芸人が書いてるからやっぱりめちゃくちゃ面白い。それもあって、とりあえず自分と作家で作ったメールを読みながら運営していこうと考えてました。それで3、4週ぐらい配信した後に、「実はみなさんからもらったメールはいつも読んでません」というネタバラシをする計画でしたね。
──当初、タイトルにもある「情熱」というワードを押してましたよね。根建さんが会話の中で「とても」の意味で「情熱」を使ったりして。
文田 タイトルは相方がダサい名前をつけたがったんです。
根建 俺が「情熱」をつけたいって言ったんですよね。スポーツ好きなんで、『情熱フリーキック』『情熱ホームラン』みたいな候補を挙げてたら、なぜか『情熱スリーポイント』が採用されました。その流れでバスケ関係の面白ワードだと思って、佐古賢一さんの名前をポロッと出したんですよ。
文田 それで「これは佐古賢一さんがやっていた番組を居抜きした番組」という話が盛り上がったんです。アドリブでたまたま1回目生まれたものを、100回も引っ張っています。
──「佐古賢一目撃情報」コーナーもずっと続いて、佐古さんが想像上の生き物みたいになってます。
根建 もうSFになってますよね、永遠のキーワードになっちゃいました。
──開始半年ごろに「まだ佐古さんからクレームはない」と語っていましたが……。
文田 今もないです。
根建 当分大丈夫な気がしてますけど。本当にバスケ界のレジェンド的存在なんで、まあ相手にはされないでしょう(笑)。
リスナー補完計画
──はじめたとき、聞かれたいリスナー層は想定してましたか?
文田 なんせ今までラジオを聴いてきた経験がないので、「この放送を聴いてて面白かったから、こういう企画をやりたい」「これをやったらウケる」というのがほぼなかったんですよ。ただ、ラジオ自体はめちゃくちゃやってきたんで。
根建 でも誰も聴いてないラジオなんですけど、本当に。
文田 車で信号2個ぐらい離れると聴こえなくなるようなコミュニティFMもありますから。それが悪いとは言わないんですけど、リスナーも全然いないし、別にギャラをもらうわけじゃない。雑談しに行ってるだけというか、ままごとしてるみたいじゃないですか。そういうしゃべっては捨ててるような放送を、聴いてくれる人ができただけでもよかったですね。ちょうど仕事がめちゃくちゃなかった時期にもらった仕事でもあるので、ありがたいという思いもありました。
根建 文田の中でもスタートからトップスピードな感じはあったよね。
文田 今まで練習はしてきたから、最初からもう振り切ろうと。
根建 3時間生放送だったらもっとゆるくやってたと思うんですけど、30分だったんで、短距離走みたいに駆け抜けられそうな感覚があったかもしれませんね。
文田 あとそれまでラジオやってきて、つまんないメールを読むことにずっとムカついてたんですよ。
根建 ハハハ(笑)。こいつ、「こないだ囲碁将棋さんのライブ見ました!」みたいなメールすら排除しますからね。
文田 メールなしで普通にしゃべったほうが番組としては面白いのに、「メール読まれる可能性があるから聴いてください」って、媚びてるじゃないですか。だから自分たちのお客さんに向けて、「『今日、冷蔵庫の残りでチャーハン作って美味しかったです』みたいなメールは面白くないんだよ。読むに値しないから送らないように」と啓蒙して、面白く育ってほしかったんですよ。
──文田さんはリスナーと芸人の差を見せつける発言をよくしていましたね。
文田 そうしたら「すげえ変なこと言ってるやついるぞ」という噂が広まって、元々メール強い人が腕試ししようと集まってきちゃったんです。
根建 焚きつけられたと勘違いして(笑)。
文田 自分たちのことを慕ってる鳩にパンくずをあげようとしたら、よそから鷹が食べに来たみたいな……。
──鷹が来たとき、どう思ったんですか? 「来てくれたか!」だったのか、「いや、そういうことじゃないんだよな」だったのか。
文田 「もっと集まれ」と思いました。メールが面白かったら番組も面白くなるので。だから割と楽してますね。
──もともと囲碁将棋ファンではなかった層に、いきなり届いたということですよね。
文田 そうですね。この番組でメール読まれていて、俺らのことが好きという人は別にいないんじゃないかな。
根建 たぶんそうだと思います。
文田 こないだ番組イベントやって、配信チケットが結構売れたから配信期間が延長したんですよ。でもそのイベントの前に、僕らが新ネタ60分かけたライブは延長しなかった。その事実がシューター(番組のリスナーの総称)たちに僕らのファンがいないことを証明してますね。
──でも読まれるメールは長文が多くて、ゼロベースでひとつの切り口から話を広げていく手法は囲碁将棋さんの漫才に通じる気がします。そこが不思議なんですよ。
文田 なんででしょうね? ちょっと答えがずれるかもしれないですけど、添削してないのがいいんじゃないですかね。普通のラジオって、意味が通じればいいから長いメールは削ったりするのに、僕らは長くても文面がちょっとおかしくても、1回はそのまま読むんで。最初ずっと自分の番組宛てに自分でメールを書いてたから、わりとそこらへんのリスペクトがあるんですよ。ミュージシャンのラジオで、ほかのアーティストの楽曲は絶対最後まで流すみたいな……。そのあたりに共感が生まれているのかもしれません。
──「こんな強いのが来た」と記憶に残っているメールってあります?
文田 やっぱり一発目は冬の鬼(常連投稿者)ですね。
根建 青汁か~(#12「八名とポロシャツと私」。青汁のCMで「まずい。もう一杯」という八名信夫を「n杯目の青汁を飲むとn+1杯目を要求する」という数式で定義づけた投稿)。僕もラジオあんまり聴いたことないんで、こんなことを考えているのが芸人ではない一般の方にもいるんだって、本当に衝撃を受けましたね。
──完成された作品感があって、聴いてて興奮しました。
根建 あのとき、爆発してんじゃないのってぐらいスタジオ沸いたよな。たぶんあのメールが、この番組をもう一速上にしてくれましたね。
文田 あれが走りになって、長めのふつおたが来るようになったと思います。
根建 ああいうメールが増えたんだよね。冬の鬼さんが模範を示してくれました。
──一方で、文田さんがリスナーをちょこちょこ見下したり、常連投稿者と芸人・作家チームで名前を隠してどっちが面白いか勝負したり、シューターと対決する姿勢を打ち出したりしてますよね。
文田 一応キャラであおったりしたんですけど、実際のところ、勝ち負けとか意外とどうでもよかったりしますね。ただひとつだけ、番組の中で楽しみがあるんですよ。コミュニティFMを10年ぐらい続けてきて、ほとんどメールも来ない中、めっちゃ投稿してくれる高速シンカーさんという常連がいまして。その番組で「ラジオネームください」とお願いされたので、「漢委奴美穂」という名前をあげました。今、『情熱スリーポイント』にも送ってくれるんです。生え抜きのリスナーなんで、外から来た強い鷹軍団と戦ってくれている感覚があるから、「頑張れ」と思っています。
囲碁将棋だから起こる風
──ラジオをやってることで、囲碁将棋さんの漫才にはね返ってくるものはあります?
文田 ラジオでしゃべってたフリートークから、これネタになりそうだなと漫才ができたりするのはありますね。逆に「これどうなんだろう?」というネタは、フリートークっぽくラジオで出して探ってみるときもありますし。
──以前、『情熱スリーポイント』は10何年も作ってきたネタの蓄積を少しずつ出しているから、面白いのは当たり前だと発言してました、開始から1年半以上経っても、枯渇してないのがすごいですよね。
文田 あ、もう枯渇してます。
根建 ハハハハハ!
文田 してるんです。「漫才でやったことをしゃべってるな」という回数は格段に減りました。だから昔ほどかっちりしてないです。
根建 でも、ワードとかはあるよね。「このワードが出たら、あの話だな」みたいな。
文田 そうですね、クリエイティブなことをしているというよりも、引き出しを開けに来てるというか。
──でも開けたら開けたでなにかしら入ってるんですよね。
文田 そうですね。そこは20年近くやってるんで。
──今後の番組の展開はなにか考えていますか?
文田 本当は100回でやめようと僕は思ってたんですよ。
──そうなんですか!
文田 今の10倍ぐらい聴かれていたら、たぶん100回でやめてました。バチンッて終わって、今までのアーカイブを残るようにして、その後は半年に1回ぐらい集まってイベントを続けようかって考えていたんですよ。だけど、世間の人が『情熱スリーポイント』を知ってるかと言ったらそんなことないし、100回でやめるのはただのオナニーだなと思って。
──そこには「こんな濃密な放送を200回も300回もできない」みたいな感覚もあったんですか?
文田 いや、それはないです。番組の7、8割は送ってきてくれるメールで決まってくるんで。これから新しい人もどんどん出てくるでしょうし。あと展望ということでは、普通のラジオって、「来週からこういう企画やるから募集します」って番組側がなにかしら提示するじゃないですか。でも『情熱スリーポイント』はシューターが勝手にやり出したコーナーばかりなんですよ。だから面白いことが起きたら勝手に追随して、みんなで作っていく形にはしたいですね。
根建 本当にシューターの方に支えられているラジオなんで。この前イベントやった後に作家の立川くんから「こうやっていろんな方が面白いメール送ってきてくれるのは、囲碁将棋さんのトークがみんな好きだからですよ」というメッセージをもらって、「なるほど。そうなんだ」と思ったんですよ。
文田 立川くんは元々職人だもんね。聴いている人と気持ちのずれはあんまりないんじゃないかな。
根建 だからこれからも、「囲碁将棋にこのメールを読んでほしい」と思われるようなラジオを続けていきたいですね。
『芸人雑誌 volume7』囲碁将棋特集ではほかに、マヂカルラブリー・ニューヨーク・ダイタクらから「カッケー先輩」囲碁将棋へのコメントも掲載! ぜひご覧ください!
『芸人雑誌 volume7』
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