「謝罪動画のコンテンツ化」はどこへ向かう?すぐに謝る若者と、絶対に謝らないおじさん

2022.5.30
おたひかチャンネルのふたりと、春木開(左)

構成=菅原史稀田島太陽
トップ画像=『おたひかチャンネル』より


『東谷義和のガーシーch』での暴露をきっかけに、謝罪動画を公開したカップルYouTuberの『おたひかチャンネル』。この動画には途中からゲストが登場するなど、一般的な「お詫び」のイメージとは異なる印象も強い。近年、YouTubeで量産されている「謝罪動画」の数々から、謝罪の変容と行く末を考える。

社会的な事件からテレビやネットの話題、メディアにまつわるあらゆる出来事を、ライター・編集者の速水健朗とおぐらりゅうじが語り合うポッドキャスト番組『すべてのニュースは賞味期限切れである』のテキスト版。
今回は、「量産される”謝罪”動画のコンテンツ化を考える」(5月3日配信/#022)の一部を書き起こし、抜粋して掲載します。

時代と共に移り変わる、公開謝罪のかたち

速水健朗(写真右)、おぐらりゅうじ(写真左)「すべてのニュースは賞味期限切れである」
おぐらりゅうじ(写真左)、速水健朗(写真右)

速水 最近、謝罪動画が増えてるなって。深々と頭を下げて謝罪してる感じのサムネイルをよく見る。

おぐら そもそも謝罪自体の母数が増えてますよね。社会全体における、謝罪の数が。

速水 そうね、企業の不祥事とか、事故のこととか。

おぐら 芸能人の不倫、とか。

速水 昔の芸能人っていちいち不倫が発覚するたびに謝罪してたっけ? まずその疑問がある。

おぐら かつては芸能記者が、仕事場とか自宅まで行って「どうなんですか?」って直撃している映像がテレビで流れてましたよ。

速水 80年代はメディアが人の家に押しかけてたよね。今はそれより記者会見をやるようになった。各社ひとつずつ質問です、みたいな形式的な決まりに沿ってやるわけだけど。

おぐら 企業の不祥事もそうだし、芸能人もやってるし、政治家の不正が発覚したときも「きちんと説明します」みたいな。要はテレビなりメディアの要請のもとでやっていた。それが今は動画というか、YouTubeで。

速水 企業の場合だと、謝罪の文章をホームページにこっそりと載せるみたいなのが多い。わざわざpdfに飛ばさせる仕掛けで。

おぐら あれはよく言われてるように、コピペできないようにするため?

速水 SEO避けでしょ。Googleのクロールはpdfまで見に来ないから。

おぐら なんて小賢しい。だってその企業の商品名を検索窓に打ち込んだら関連ワードに出てくるのに、謝罪文は出てこないんですよね。タイトルが「〇月〇日 企業からのお知らせ」とかになってるし、中身はpdfのリンクだから、「謝罪」っていうテキストとして検索では拾われない。

速水 そう。そういう「謝罪はなるべく見つかりたくない」が企業側の論理だとすると、個人はまた、事情が変わってきている気がする。

カップルYouTuberの謝罪動画から感じる“謝罪のコンテンツ化”

速水 すでに別れてたのを隠しながらカップルYouTuberとして活動していた『おたひかチャンネル』の謝罪動画がちょっと話題になってた。

※暴露系YouTuberのガーシーこと東谷義和氏が、人気カップルYouTuber『おたひかチャンネル』のふたりがすでに破局し、「ひか」が実業家の春木開氏と交際していることを暴露。これを受けた「おたひか」のふたりは破局が事実であることを認め、その理由を「お仕事の都合など」と語ったほか、破局の原因が「おた」の浮気であったことを明かす動画を公開した

おぐら これって、カップルYouTuberとして、いわゆるインフルエンサーマーケティング的な、企業から「このふたりは本当に付き合ってるから」ということで仕事が発生していたのに、実際は破局していたのが「詐欺だ」ということに対しての謝罪……?

速水 要約すると、カップルYouTuberが「実はビジネスカップルでした」っていうことへの謝罪なんだけど、それに対してそんなに人は怒るかっていったら……まあピュアな人たちは怒るか。

おぐら ていうか、隠していたのはファン対応ではなく、ビジネスが絡んでいるからじゃないですか。どう考えても。

速水 ファンへの謝罪というか、そのユーザー数を換金したというか、“案件”のスポンサーに対する背信行為っていう印象だったけど。

おぐら YouTuberに限らず、ほかのメディアでも夫婦ということで広告に出ることはよくあります。

速水 単体よりもカップルYouTuberのほうがウケるので、ユーザー数も増えるし、スポンサーの“案件”も増える。もしこれがテレビのCMで、夫婦で出演した広告が、実は離婚してましたってなったら、違約金は発生するよね。でも、カップルYouTuberの場合は、あくまでカップルなわけで、法的な契約とかじゃないけど。

おぐら でも、本当に付き合ってるというリアリティは、この世界において絶対なわけじゃないですか。仲よしではなく、交際してるっていう。

速水 作り物ではないのがYouTubeっていう前提もおかしい。このカップルYouTuberに限らず、多かれ少なかれ、リアリティショーに近いものだと思うけど。

おぐら そのリアリティに需要がある。

速水 ちなみに、背景の話よりも、ちゃんと謝罪動画そのものを批評しておきたい。かなりツッコみどころが多い。

おぐら YouTubeには、ほかにも謝罪動画がたくさんアップされているので、比較するのは大事。

速水 うん。はじめしゃちょーもヒカルもよく謝っている印象があるし、宮迫(博之)さんのチャンネルなんて牛宮城以降、何かやるたびにまず謝ってる。やらかして謝ることが前提になり過ぎてるから、そろそろみんな謝罪を謝罪と思って見てない。

おぐら 新しいコンテンツだと思ってる。

「ゲスト登場」「つづきは次の動画で」……謝罪動画は新しいフェーズへ

速水 このカップルYouTuberの謝罪動画、途中でサプライズがあるの。なんと、謝罪の途中で人がひとり増える。

おぐら 見てびっくりしました。男性(おた)のほうが「僕の浮気で、僕らカップルは破綻しました。すみませんでした」と言ったあとに、もうひとり男性が画面に入ってきて。

速水 急にカットインして「誰?」って。

おぐら 「誰?」ってなりますよ(笑)。

速水 それが驚くことに、彼女(ひか)の新しい彼氏。

おぐら 謝罪動画にゲストが来るって、新しいですよね。

速水 今カレが「初めまして」ってめちゃ律儀に挨拶して(笑)。で、彼が突然しゃべりつづける展開になる。恐らくこのふたりのコンサルタント的な立場の人らしくて、ふたりが別れたあともカップルYouTuberをつづけさせたのは自分の判断であって、このふたりは悪くないんだと。あれ、さっきまでとは違う対立構造になっているぞって。そのあとに「はいっ、ということで!」って女性(ひか)が仕切り始めるのも見どころなんだけど。

おぐら 「はい、ということで……今回は心からの謝罪をお送りしました。まだ皆様に伝わっていない部分もありますので、つづきは次の動画で!」。

速水 謝罪動画につづきがあるという、YouTubeの新しいフェーズに突入した感がある。

おぐら ゲスト的な人に注目が集まった謝罪会見といえば、船場吉兆のささやいた女将さん。つまり、蓄積があるんですよ。コンテンツはゼロから作られるわけではなく、過去の蓄積から新しい表現が生まれる。

速水 たぶんまねしてるつもりはないけど、謝罪動画にも伝統とか流派みたいなものができつつあるんだよ。

謝罪ネイティブ世代の若者たちと、謝らないおじさんたち

この記事の画像(全5枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。