ロックなんか聴かない君がロックを聴く日が来るとしたら

2022.1.31
ロックなんか聴かない君がロックを聴く日が来るとしたら

文=ヒラギノ游ゴ 編集=森田真規


世界の音楽市場をヒップホップが席巻し、K-POPが隆盛するなか、ロックやバンド形態で演奏される音楽の影響力は相対的に下降傾向にあるといえる。

そんな状況においてロック/バンド音楽からまた誰もが知るスターが登場する可能性を、ライターのヒラギノ游ゴ氏が探っていく。

今考えるロックの可能性

The rappers are always writing better lyrics than the bands
(ラッパーたちはいつもバンドよりいい歌詞を書く)
And the sounds are new, they’re always trying something different
(サウンドも新しい、彼らはいつも新しい挑戦をしてる)

OKAMOTO’S「Band Music」の一節だ。歴史に名を残す数々のロックバンドに影響を受け、リスペクトを体現してきた彼らの歌詞には近年、たびたびこういったロックやバンド形態の音楽を愛する人間の悲哀が滲む。時に自虐的なまでに。

ロックを、バンドを愛する人間たちにとっての冬の時代が始まって久しい。世界の音楽シーンをヒップホップが席巻し、ディーヴァたちはより層が厚く、より存在感が強固なものとなってきた。K-POPも目覚ましい発展を遂げている。

今も昔も絶えず刺激的なニューカマーが現れ、退屈を蹴飛ばしてきてくれたが、近年その面子の中にロックバンドの形態をとる作り手はめっきり減った。今後も次々と新しいロックバンドが現れるつもりで暮らしていた人間たちは体質を改めざるを得なくなった。ロックバンドじゃなくラッパーやディーヴァやアイドルでもいいように。そういうつもりでいられる者はそうして適応し、できなかった者は寂しさを抱えながら音楽シーンをウォッチしてきた。

ロックに/バンドにもう一度覇権を、なんて思っているわけじゃない。ただ途絶えず、懐かしいものにならずいてほしいだけだ。ロックはロックのシーンの中で更新があって、ロックの新しいスターが現れる循環を今後ともどうか、という。

そんな思いを共にする人たちと一緒に、今後誰もがその名を知るようなスターになり得る可能性を秘めたバンドや、新たなスターが現れ得るシーンについて考えたい。

極私的な観測範囲からいくつか世界の事例を挙げていく。

1.マネスキン(Måneskin)

ロック好きにとって久しぶりのグッドニュースといえば、まずはマネスキンの登場だろう。マネスキンは「今の時代にロックがまた脚光を浴びるとしたら」という夢想を体現するような、理想的なルートでシーンに躍り出てきたと言える期待の星。というのも、人気に火がついた場所がTikTokなのだ。

@emmanortss

beg for mercy baby.

♬ Beggin’ - Måneskin

「ベギン」がTikTokでスマッシュヒットし、「アイ・ワナ・ビー・ユア・スレイヴ」「ジッティ・エ・ブオーニ」「マンマミーア」といった楽曲が次々とSpotifyをはじめとするバイラルチャートを席巻した。日本での全国的な知名度はまだまだといったところだが、ヨーロッパや北米では存在感を示している。

Måneskin - MAMMAMIA (Official Video)

2016年にイタリア・ローマで結成されたバンド、マネスキン。USやUKではなくイタリアから新時代の旗手が現れたというのがまた興味深いところ。2021年、ヨーロッパ諸国から参加者が集まる音楽コンテスト『ユーロヴィジョン(・ソング・コンテスト)』で優勝。メンバーはこの記事の公開時点で21歳〜23歳。

音楽性はというと、もうロックンロール全開。こんなにも昔ながらのガレージ・ロックでも時代錯誤に感じさせないのは、一発で心を掴むメロディを続々生み出す普遍的なソングライティングセンスによるものだろう。だからTikTokとの相性は抜群なわけだ。ごく短い切り取りでも耳に残り拡散していく。

スタイルに関してはこのように取り立てて新しいところがなく、正統派なガレージロックの延長線上にあるといえるのだけれど、特筆すべきはレプリゼンテーションの面だ

レプリゼンテーション(representation)は、第一義的には「表現」「代表」といった語に訳される。現代的な用法としては、映画をはじめとするエンタテインメント作品や広告、メディアなどのさまざまなシーンにおいて、社会的にフェアで包括的な表現がなされているか、という点を問う際に使われる言葉だ。性的マイノリティや移民、障害者などが“なかったこと”にされず、あらゆる人々の存在を前提とした表現がなされているか。マネスキンのインスタグラム投稿をいくつか観てみる。

ご覧のとおり、思いきりクィアでキャンプでドラァグな性表象。クィアもキャンプもドラァグもわからない人はチャンスだ。調べると楽しめることが増える。

これが世界のファンから歓声をもって迎えられている、あえて言えば“キャーキャー言われている”ことの意味の重さに胸が熱くなる。“受け入れられている”とかではなく、単に刺激的なだけの“異物”ではなく、魅力的なロックスターとして「かっこいい!」「かわいい!」というリアクションを受けている、ということの、なんと希望を感じることだろう。

もう少し前の時代だったらと想像する。日本で言えば公然とあのオで始まる3文字の侮蔑が投げかけられるであろうことは想像に難くない(まだまだそのレベルの人だってきっと少なくないのだろう)。

そういう点では今の時代だからこその存在。マネスキンの活躍は、ある意味でクィアスタディーズやジェンダー論が蓄積してきたことの成果のひとつともいえる。

また、マネスキン同様オーセンティックなスタイルで突き抜けてきた新人としては、The Lathums(ザ・レイサムズ)がいる。

The Lathumsはマンチェスター郊外・ウィガン出身のインディ・ロック・バンド。2021年9月リリースの1stアルバム『How Beautiful Life Can Be』はUKアルバム・チャートで初登場で1位を獲得した。

The Lathums - Fight On (Official Music Video)

彼らのスタイルはマネスキンに輪をかけて、パッと聴いた限りではまったく新しいところがないといっていい、昔ながらのUKの味。我々がマンチェスターという街に求める全部。ただ、新しさはポップミュージックにとって付加価値であって不可欠ではない。こういうのを待ち望んでいる人がいて、やっと現れてくれた、それを真っ向から祝福したい。

ネオソウルギター

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