ロックなんか聴かない君がロックを聴く日が来るとしたら

2022.1.31


2.ネオソウルギター

ブリットポップ、グランジ/オルタナブーム、ライオットガール、ガレージロック・リバイバル。日本で言えば“エアジャム世代”の台頭/俗に言うメロコアブーム、20世紀末のヴィジュアル系隆盛、古いところで言えばめんたいロックなど。ロックの歴史上、さまざまなサブジャンルのムーブメントがあった。

近年はトラップの流行をはじめとして、エモラップ、各種ドリルなど、さまざまなラップのサブジャンルが台頭した。

「NARUTOのサントラを使ってラップする」というニッチにもほどがある様式の音楽でさえ、まとまった数の作り手が存在する。

そのほかクラブミュージックではフューチャーファンク、ヴェイパーウェイヴ、日本国外のリスナーによるシティポップ再評価の流れがあったり、ハイパーポップ、K-POPの隆盛があったりと枚挙に暇がない。ただ、そうした新しいジャンル(やカテゴリ)の中にロックあるいはバンド形態と結びつくものはこれといってないと言っていい状況。

そんななか、エレキギターと紐づいた新しいジャンルがネオソウルギターだ。

代表的なところではトム・ミッシュ、FKJ、The Internet(ジ・インターネット)のスティーヴ・レイシーなどを数えることもあり、アイザイア・シャーキーのようなスタジオミュージシャンとして確立したギタリスト、そしてインスタグラムで注目を集めた弾き手としてはメラニー・フェイ、マテウス・アサト、ボウ・ディアコウィックズ、日本では磯貝一樹などが挙げられる。

Tom Misch - The Wilhelm Scream [Quarantine Sessions]

これまでもMySpaceでArctic Monkeys(アークティック・モンキーズ)が、YouTubeでジャスティン・ビーバーが大衆に見出され、スターダムを駆け上がっていった。日本で言えばニコニコ動画でのハチとしての活動を通して米津玄師が、AbemaTVの番組をきっかけに崎山蒼志が大衆の前に現れた。そしてマネスキンはTikTok、ネオソウルギターはインスタグラムが本拠地のカルチャーだ。

ネオソウルギターは90年代に勃興した「ネオソウル」とは別物で、その名のとおりギター演奏にフォーカスした概念。インスタグラムやYouTubeのギター演奏動画を中心に拡散したムーブメント。おおむね弾き手の自宅で撮影された、くつろいだ雰囲気に合ったゆったりしたテンポの演奏だ。リバーブというエフェクターをかませた残響音を伴うギターの響きが特徴で、いわゆるメロウと称されるような雰囲気。

Beau Diakowicz New Things - Neo Soul Guitar

今の時代に貴重な、エレキギターが脚光を浴びるムーブメントなのだけれど、おそらくこのジャンルは商業的な難しさを何重にも抱えていると言える。いいところも悪いところもインスタグラムのUI次第というか。

何かというと、公開されている動画の多くはフレーズ単位で、1曲丸々作られているのかも定かではなく、ギター以外のパートも入っていないことが多い。つまり楽曲らしい楽曲の形にパッケージされていない。なので、ヒット曲らしいヒット曲がないと言っていい状況なのだ。

駄目押しに、そもそも曲のタイトルすらわからない。アップされた動画に添えられている短文が、曲名なのか、動画自体のタイトルなのか、はたまた単に投稿者のそのときの気分を表現するツイート程度のものなのかさえもはっきりしない。

そういうゆるさこそがこのカルチャーの持ち味でもあるのだけれど、ここからみんなが知るレベルのスターが出てくるか、というときっと難しいのだろう。だからこそ期待してしまう。構造をうまく乗りこなして味方につけるギタリスト/バンドがここから出てきたらと思うと、たまらなくわくわくする。

3.Easy Life(イージーライフ)

マネスキンとある意味で真逆のアプローチと言えるのがEasy Life(イージーライフ)だ。現行の音楽シーンとゆるやかに合流し、ロックバンドのイメージが指し示す範囲を拡張するようなスタイル。とはいえ、知名度はマネスキンにもまだまだ遠く及ばない。

まあとにかく垢抜けてる。

ヒップホップ、R&B、ジャズ、エレクトロニカなどさまざまなジャンルをシームレスに横断した……みたいな説明は本当にいろんなバンドに関して言われていて、こういう文面のリリースよく送られてくるなーという感じだけれど、Easy Lifeの場合はシンプルにその精度で頭ひとつ抜けた印象があり、本心から「ヒップホップ、R&B、ジャズ、エレクトロニカなどさまざまなジャンルをシームレスに横断してるじゃん!」と思える。そんなバンドだ。

特にヒップホップの要素の解像度が高い印象。ラップがうまいという話ではなく、トラックのほう。ヒップホップ発想のビートを自然なかたちでバンド形態によって実演していて、それが野暮ったく嘘っぽくならない。

easy life - ocean view

ただ、こういう部分を「ヒップホップ」の要素と断じていいんだろうか?というのも同時に思う。影響を受けたのはグライムのほうかもしれないから。UKではヒップホップとはまた違うラップの音楽、グライムが根づいている(ヒップホップ=ラップではない。ヒップホップは音楽に限らない文化体系の総称、ラップはひとつのボーカル技術の名称だ)。

Easy Lifeがヒップホップとグライムどちらにより濃い影響を受けているかを断定することはできないし、あまり本質的な問いではないかもしれないけれど、単純にEasy LifeがUKのバンドであることを鑑みて、グライムとの関係性が気になるところ。ともあれ現行のラップミュージックシーンを日常的に追っている人の作る音楽だなといった印象。

バンド形態を保ちながらリアルタイムの音楽シーンに適応した音作りをしている先達というとThe 1975が思い浮かぶが、正直、The 1975と並べて語れるような存在に成長するかというとまったく自信がない。

筆者は米津玄師の『Lemon』のディスクレビューを極めて平常心で書いた。これはとんでもない曲だ!と取り乱すようなことはなく、相変わらずいい曲作るな〜程度の温度感で書いてしまった。ヒットを予測する先見の明は皆無と言っていい。

「これが当たりそう」というより「これが当たる世界おもしろいだろうな」という感じ。前述のとおり、ポップミュージックにとって新しくあることは絶対ではない。ただ、誰かが新しいことをやらないとシーンが停滞するのは確か。このバンドがその役割を担うとしたら、なかなかおもしろいことになるんじゃないだろうか。

アジアのバンドたち

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