5.マシン・ガン・ケリー
最後に触れるケースはマシン・ガン・ケリー。もともと、というか今もなのかなんとも言えないが、マシン・ガン・ケリーはラッパーだ。
特にアメリカの10〜20代から支持を受けていて、白人であることもあってエミネムと並べて語られることもあるほど期待される存在なのだけれど、2020年に突如エレキギターを引っさげロックアルバムをリリース、ビルボードチャートで1位を獲得した。
取り急ぎ次のアルバムはまたロックアルバムであるとアナウンスされているが、彼がその後もロックミュージシャンとして活動するのか、ラッパーに戻るのかは今のところわからない。どちらもやるという道もあるだろう。レディー・ガガがジャズをやったり、グリーンデイのビリー・ジョー(・アームストロング)がカントリーをやったりといったプロジェクト単位の前例もある。
マシン・ガン・ケリーのロックは、大まかに言えばロックの中でもポップパンクと呼ばれるサブジャンル。日本ではメロコア(メロディックコア)、メロディックパンクといった近似の概念のほうが伝わりやすいだろう。ポップパンクの代表格と言えるバンド、Blink-182のトラヴィス・バーカーをプロデューサーに迎えて作ったアルバムはそりゃもう間違いがない。これぞという誠実なポップパンクだった。
ブロステップムーブメントの象徴的存在であったスクリレックスがもといたポスト・ハードコアバンド(From First to Last)に出戻った前例もあり、こういった別ジャンルからの転向・回帰の行き先としてのロックは今後もありそうなケースと言えるかもしれない。
このケースで興味深いのは、もとの活動でついたファンをロックに連れてくること、またそれによって起こることだ。マシン・ガン・ケリーの場合で言えば、あの規模のアーティストだ、当然ラッパーとしての活動でついたファンの多くが彼のロックアルバムを聴いただろう。
そういうふうに、ロックを聴いてこなかった人が突如ロックと出会わされたわけだ。その中には、これまで聴く機会がなかっただけで、ロックいいなと思った人もいるだろう。それをきっかけに本格的なロックリスナーになった人もいるだろう。そういうふうに、もともとファンダムにいたのと違った層の新たな文化の担い手が流入してくることによって、ロックに新たな感性が輸入され、また新たなおもしろいものが生まれる可能性の種が蒔かれたのではないかということ。
ロックはつづく
人間の声とエレキギターとエレキベースとドラム。それだけでもバンドごとにやっていることが全然違って、でも同じように「ロック」と、「バンド」と呼ばれる。ドクターマーチンを履いていてもモッズスーツを着ていてもディッキーズを穿いていてもフレッドペリーを着ていても全員「ロック」で「バンド」だ。その多様さ、可能性に心躍らされる。可能性は、物語はまだまだつづくはず。
世界的なヒップホップの隆盛、日本で言えばボーカロイドや(日本式の)アイドル文化の隆盛の直後には、近いうち揺り戻しでまたロックバンドの存在感が強まってくるだろうと思っていた。みんなそう思っていたんだろう。
ぜひこの記事を肴に、あのバンドが出てこないじゃないか、その切り口は違うだろとソーシャル上で管を巻いてほしい。ロックがもっと活気づいていたころよく見た光景だ。久しぶりに見たい。
この記事は単に現状を悲観するのではなく、今いる最高のバンドたちに、新しい可能性に目を向けるために書かれた。他ジャンルの盛り上がりを受けて焦りはあるが、けっしてこのまま消えていったりはしないという確信もまた同時にある。
全体としての勢力がシュリンクしていったとしても、人が減ったからといって決定的に盛り下がってしまうようなカルチャーではないと思うのだ。究極の自己満足でどうとでも楽しくやっていける、そしてそれをつづけているうちに、勝手に何かが開けていく。そういう部分がロックにはあるから。
冒頭の曲の結びの歌詞はこうだ。
ステージを降りて誰にも見られずに 自分だけのために踊り狂える そんな人たちが美しくて でかい音で扉をぶち壊す
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