BSテレ東にて2021年12月27日から4夜連続で放送された『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』。番組放送後、約1カ月が経った今でも“考察“が盛り上がりを見せる『奥様ッソ』を、お笑いマニアである17歳のタレント・女優の奥森皐月が振り返る。
<注意>この記事は『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』のネタバレを含みます。
「温かさ」に潜む「気味悪さ」。奥様応援バラエティ『奥様ッソ』
年末年始は一年で最も楽しい期間である。ネタ番組や毎年恒例の番組が放送され、お笑い番組が急増。特番も多く、バラエティ尽くしで最高の時期だ。2021年から2022年にかけても数多くの番組が放送され、私はそれにしがみつくように徹底して観た。『あちこちオードリー年末SP』(テレビ東京)、『芸人シンパイニュース』(テレビ朝日)、『ヤギと大悟』(テレビ東京)など印象に残っているおもしろかった番組はいくつかあるが、それ以上にどうしても紹介したい番組がある。
それが、2021年12月27日から4夜連続でBSテレ東にて放送された『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』である。
まずは公式HPにある番組内容を見てほしい。
日本全国、多忙を極める奥様の元に芸能界の”おせっかい奥様”を派遣!
番組公式HPより
家事や育児を手伝いながら家族との温かい触れ合いを感じる奥様応援バラエティ!
「Aマッソのがんばれ奥様ッソ!」
今年、コンビ揃って結婚していたことが報じられたAマッソのBSテレ東での初冠番組「Aマッソのがんばれ奥様ッソ」が12月27日(月)深夜11時30分から4日連続で放送!
芸能界のおせっかい奥様が日頃大変な思いをしている奥様たちのお悩み解決に大奮闘!
笑いあり、涙ありのハートウォーミングバラエティです!お楽しみに!
私はAマッソというお笑いコンビを心の底から愛している。中学時代「尊敬する人物」がテーマの論文課題で私は迷うことなくAマッソのブレーンである加納さんを掲げた。まわりの生徒は織田信長やスティーブ・ジョブズだったが、私にとってはAマッソのほうが憧れの存在である。先生にも何も言われなかった。
好きが高じてファンレターを書いて捨てたが、論文には想いを込めた。とにかく好きなのだ。それゆえに、この特番が放送決定したときにがっかりした。常に新しいお笑いに挑戦し、まだ見ぬおもしろさを教えてくれた「Aマッソ」とは違うように思えた。放送当初、私はこの番組を観なかった。
大間違いだった。
『Aマッソの奥様ッソ!』うっすらと不愉快で徐々に元気を吸い取られるような最悪な番組である。「温かい触れ合い」とは紙一重の差。生温かい。気持ち悪い。
最悪な番組だからこそ惹かれてしまうのだ。
正直、真正面から人に勧めるにはためらいがある。元気がない人にはあまりおすすめできない。それだけ厄介だ。しかしながら、少しでも興味がある人にはぜひとも観てほしいと思う。なんの前情報も入っていない状態で一度ご覧いただきたい。以降の文はネタバレを含むので、本編をきちんと観たい人や「気味の悪い番組なんてごめんよ」という人は今がチャンス。逃げて。
不自然だと思ったあなたは自然です
一見すると、よくある主婦向けの情報バラエティ番組だ。ロケのVTRを観て、スタジオのAマッソがコメントをする。Aマッソらしいボケも入ってはいるが、らしくない“奥様目線”のトークやVTRフリの左薬指を見せるポーズが気になった。
第1回と第2回は、それぞれが前編・後編に分かれて金田朋子さんが大家族のもとへ家事の手伝いに行くという内容。家族と触れ合いつつ、掃除のテクニックを紹介し家事を進める。「おせっかい奥様」という名前のとおり、金田さんは大家族にグイグイと踏み込み交流していく。このおせっかいさえなければ、健やかに情報番組として観ることができたかもしれないのに。
前編が終わると同時に、私たちにはある言葉が突きつけられる。
不自然だと思ったあなたは自然です
この番組には、確かに不自然な点が多数存在している。番組内でその不自然さを指摘する場面はないが、視聴者は少しずつその不自然を摂取していく。この気味の悪さ、一度体験するともう止まらない。休む間もなく後編を観る。不自然に感じていた点が徐々に視聴者の中で線になっていく。その線が伸びれば伸びるほど、おぞましく不愉快で、それなのにどこか爽快感を感じてしまうのだ。
取材として訪れた大家族の裏に、恐ろしい問題が見えてくる。これが確信に変わりそうなところで番組は終了した。そして、この確信を裏づける映像が本編とは別でTVerにて配信されている。
あくまでも、『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』とは別のニュース番組として。これにより本編で感じた不自然が最悪なかたちとして答え合わせできる。
この革新的なスタイルがとても魅力的に感じた。これまでに存在したモキュメンタリー(ドキュメンタリー風ドラマ)とは一線を画している。バラエティ番組のポップな雰囲気の中にある気味悪さ。ニュース番組の冷たくてさっぱりとした言葉で完結する残酷さ。これらにより、嫌というほど脳裏に記憶がこびりつく。一連の流れを観ることでひとつのトラウマを植えつけられるような感覚だ。とても不愉快な内容のはずなのに、画期的なエンタメとして快感を覚えている自分がいる。そこまで含めて奇妙な体験だ。
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