「な~にやってもうまくいかな~い」というキャッチーな自虐節がTikTokで大旋風を巻き起こしたのは、今年8月のことだった。インフルエンサーなえなのの投稿をきっかけに「#なにやってもうまくいかない」はミーム化。急上昇チャート1位も獲得し、再生回数は1億回を突破、TikTokユーザーで知らぬ者はいないキラーチューンの仲間入りを果たしたのだ。
この大規模なムーブメントを起こした楽曲「なにやってもうまくいかない」を引っ提げて、2021年9月26日にメジャーデビューを飾ったアーティストこそmeiyo(メイヨー)である。
その名をとどろかせたきっかけがTikTokなのでZ世代の若いクリエイターを想像する人もいるかもしれないが、現実の彼は苦節12年、今年30歳になった男性ミュージシャンである。幾多の“なにやってもうまくいかない”を乗り越え、ようやく新たな未来を切り開いた。
大プロジェクトになった“meiyo”
ワタナベタカシ名義でやっていた音楽を引き継ぎ、ワナタベタカシのソロプロジェクトとして始まったmeiyo。活動を始めた当初は、バンドサウンドを基調としたロックやポップが多かったが、ファンだったバンド「桂田5」の解散をきっかけに作った「いつまであるか」により、自身の中で「ベストは出た」と新たな表現への挑戦を決意。2020年の頭から打ち込みメインの曲作りを始めた。
ツイッター上で前澤友作が“日本を元気にしそうな歌”を募集した際には「KonichiwaTempraSushiNatto」で参加し楽曲が拡散されたり、『ヒルナンデス!』(日本テレビ)のオープニングテーマ公募に向けて作った「ヒルナンデス」をYouTubeに公開したら視聴回数が伸びたり。打ち込みを基調とした楽曲に転換してから、SNS上での高い評価を得るようになったが、今ひとつうまくいかなかった。
そんな彼の現状を打開したのが、一念発起して始めたTikTokだったのである。2021年の頭にアカウントを開設すると、「うろちょろ」や「KonichiwaTempraSushiNatto」といった既存の楽曲の周知に励むと共に新曲の断片を先行公開。ようやくうまくいったのが、半ば自暴自棄になって作った「なにやってもうまくいかない」だったのだ。
@octo_uneune
@naenano クセになる曲〜😵💫振付作ってみた🙂 ##なにやってもうまくいかない
この楽曲のブレイクに、オクトやなえなのといったインフルエンサーの存在が大きいのは間違いない。しかし、それ以上に語るべきなのは、meiyo自身が見つかる努力をコツコツとつづけてきたという事実だろう。
動画が伸びやすくなるように、いいね・シェア・リンクコピー・動画保存・コメントの協力をオンライン・オフライン問わず積極的にお願いしたり、曲で遊びやすいようにカラオケ音源やコード解説動画を投稿したり。時には歌詞募集やUGC(ユーザー作成コンテンツ)紹介なども行い、能動的にリスナーとの接点を作ってきたのである。
もはや今の“meiyo”は、ワタナベタカシの単なるソロプロジェクトではない。彼の音楽に魅了されたすべての人が関わっている大型プロジェクトなのだ。
アラサー世代にも刺さる「なにやってもうまくいかない」
さて、肝心の「なにやってもうまくいかない」はというと、meiyoの経歴(ワタナベタカシ期も含む)全部盛りのポップチューンに仕上がった。一度聴いたら耳に残る「な~にやってもうまくいかな~い」のメロディーに、「同化したって」と「どうかしたって」をかけるような言葉遊び、徹底した日本語のリリックはまさしくmeiyo節炸裂といったところ。さすが、マジでうまくいかなかった男が絞り出した瀕死パンチである。
淡泊でありながらキャッチーなトラックは、リズムの一つひとつに思わずワクワクさせられる。自身がドラマーとして確固たるキャリアを持っていることに加えて、音楽のルーツにゲーム『スーパードンキーコング2 ディクシー&ディディー』のBGMがあったり、小学3年生のころから『pop’n music』など音楽ゲームに没頭していた影響もあるのだろう。わずかなズレが絶妙なグルーブを生み、リスナーを惹きつけてやまないことを彼は身をもって知っているのだ。
そして、歌詞に散りばめられた12年分の本気のボヤキである。<何歳下かもわかんないおこちゃまが評価されてんだ どうかしてるよな>という僻みに、<心配してるフリしてんの?もう気付いてるよ>という嘲笑。極めつけは<愛して、愛して>という心の叫びが、愛される恐怖に直面し<愛して、愛さないで>へと転ぶ生々しいラストだ。
表現者としての苦悩をリアルに吐露したナンバーでありながら、アラサー世代の生きにくさにもリンクする一曲となっている。現在はTikTokユーザーの若い世代を中心に流行っている「なにやってもうまくいかない」だが、何をやってもうまくいかないmeiyo世代のアンセムになる日もそう遠くはないだろう。
“30歳でメジャーデビュー”と掲げると、「遅咲きすぎじゃないか?」と思う人もいるかもしれない。しかし、王道ストーリーのお作法では“いつだってヒーローは遅れてやってくる”もの。クリープハイプが渋谷クラブクアトロでワンマンライブをしたとき尾崎世界観は26歳だった。[Champagne](現[Alexandros])がリキッドルームでワンマンライブをしたとき川上洋平は28歳だった。meiyoのデビューも、けっして遅すぎるなんてことはない。中毒ポップを操りながら、いくつも先の世代へも残る名曲を引きつづき生み出してほしい。
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