皆、この世で一番好きな4文字って何だい?
恋人?睡眠?朝飯?
朝飯が一番好きな人間って何だよ。
私はというと、タクチケ!!!
そりゃあもう圧倒的にタクチケが好き。
テレビに出させて貰う前までは存在すら知らなかったのだが、この世にはタクシーチケットなるものがある。
タクシーの乗車料金を、指定した口座から後日引き落とし出来るチケット。
終電のない時間帯に終わる収録なんかでは、よくこの魔法のチケットが局から貰えたりする。
このタクチケを貰う機会が増えた事もあり、最近はタクシーに乗せてもらう事がグンと増えた。
仕事も金も無かった少し前までは、タクシーは政治家と秘書が乗る物だ!と決めつけていた私だったが、ここ最近は身近な物になりつつある。
どうやらタクシーって、芸人が乗っても怒られないっぽいわ。
幸版・タクシー運転手実録
よくテレビで芸能人が「この前こんなタクシーの運転手がいて~」と、嘘みたいな話をする事がある。
以前までは嘘こけよ!と思っていたが、実際タクシーに乗る機会が増えると、本当に癖のある運転手さんが多い。
もちろんほとんどの運転手さんは良い人だが、15回に1回位、その前までの14人の良い運転手さん一人一人に手土産を渡しに行きたいと、心から願う程の奇人運転手に巡り合う。
先日中野から豊洲の方までタクシーを利用させて貰った。
その時の運転手さんはめちゃくちゃ店に詳しい人だった。
「この店ね、珍しいもずくの天ぷらっての出してんだよ。でも接客が酷いの」
「この店お通しが凄い豪華なんだよ。でもトイレがきったないの」
「ここはね、いつも行列出来る位の人気ラーメン店なんだよ。でもクーラー弱いのに何で人気あんだって不思議なの」
最後に、凄く嫌な紹介入れてくる人だった。
前半までは最高なんだけど。
中野から豊洲まで約30分。
数え切れない程行きたくない店が増えた一日だった。
本の化け物に取り憑かれた運転手もいた。
仕事終わり、タクシーに乗車して目的地である自宅の住所を伝えると、ナビも入れずに彼は口を開いた。
「お嬢ちゃん、本は、読むかい?」
そう私に問い掛け、発進した。
私はこう思った。
“ナビを入れんかい”
読書家か非読書家かを問う前に、ナビを入れんかいと思いつつも、本を読まない私はとりあえず”いいえ”と答えた。
そこで彼のスイッチが入ってしまった。
「駄目だよ! 本読まないと! 本は記憶力を上げる一番の近道。私は毎日本を読むよ。仕事にも役立つ。ほら、私ナビ入れてないでしょう? お嬢ちゃんが言った住所をスッ!と記憶した。都内の道も全部記憶してる。ナビなんかに頼らず、頭よ、頭!」
“何か言ってんな、放っておこう”
そう判断した私は何も言わず、その後もナビを入れる事なく終始本の話をしながら車を走らせる彼に、適当に相槌を打っていた。
「はーい、目的地着きましたー」
そう彼は言って、車を止めた。
ぜんっぜん違う所だった。
ちっとも合ってやしない。
本の化け物に取り憑かれた彼のプライドを傷付けたら、何をされるか分からない。
本にされてしまうかもしれない。
もしくは、本の逆。
アニメにされてしまうかもしれない。
恐怖を感じた私は素直に降りて、トボトボと徒歩20分かけて、やっとの思いで自宅に帰れた。
そういった風変わりな運転手さんも中には居るけど、大抵は良い人だ。
一年程前。女性の運転手さんだった。
その日は朝から夜まで仕事で、クタクタだった。
その上最後の仕事はスベるしで、心身共に疲れていたのだろう。
テレビ局からタクシーに乗り、自宅の住所を伝えると、すぐに寝てしまった。
パッと目を覚ますと、既に自宅の前に着いていた。
目を覚ました事に気付いた運転手さんが言う。
「ごめんなさいね。声を掛けたけど起きなくて。無理矢理起こすのも可哀想で」
時刻を見ると、自宅に到着してから恐らく15分以上経っていただろう。
次のお客さんを乗せないと稼げないのに、ずっとそのままにしてくれた優しさが嬉しいのと同時に、凄く申し訳なかった。
お礼と謝罪をして降りようとすると、その運転手さんが最後にこう言った。
「娘が貴方の事大好きなの。お疲れ様。応援してますよ」
一気に疲れが吹っ飛んだ。
スベった傷を癒やしてくれた、あの運転手さん。
あの運転手さんの顔はきっと忘れる事はないだろう。
タクシーに乗ってる時間なんてたかが知れているし、二度同じ運転手さんに当たる事も滅多に無い。
でもその短い時間の中でも、素敵な運転手さんの事は覚えているし、逆に嫌な運転手さんの事も覚えている。
きっと運転手さんも、そういうお客さんの事は覚えているんじゃないかと思う。
タクシーに限らず、短い時間だから、もう会う事も無いからといって、相手を嫌な気分にさせる様な人間にはなりたくない。
どんな立場の相手にも、一生謙虚な気持ちを持って生きていきたいと思う。
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