「たりない」ことこそが「たりる」ことだった──山里亮太、若林正恭『明日のたりないふたり』に寄せて
「お……俺は何を観ていたんだ……?」
それが、『明日のたりないふたり』を観たあとの感想だった。無観客ということもあり、山里亮太と若林正恭の声だけが響き渡る2時間は、まるでふたりだけの精神世界に迷い込んだかのようだった。まさに「夜の公園でしている漫才」をのぞき見している感覚。いや、そもそもあれは本当に漫才だったのか? 2週間経った今でもよくわからない。ただひとつ言えることは、Creepy Nutsとは俺たちの「鏡」だったということ。そして観た人間全員の顔がDJ松永になるということだけ。
大人のくせに人見知り、社交性ゼロ、恋愛ヘタクソ、大人数の飲み会で黙り、ハロウィンを「くだらねぇ」と吐き捨てる、プライドこじらせダサ野郎どもの地獄の叫び、それが「たりないふたり」の真骨頂だとするのなら、グラデーションで振る舞い方を変えながらそこから脱却しようとする若林と、自分の環境がどれだけ変わろうが頑としてそこに居つづけようとする山里、どっちが正しいんだろうとずっと思っていた。
『さよなら たりないふたり』『たりないふたり2020 ~春夏秋冬~』を経て、良くも悪くもその差が浮き彫りになっていたからこそ、若林が言った「ライオンがウサギに噛みつく」が刺さってしまったからこそ、今回の『明日のたりないふたり』に対する期待と不安はものすごく大きかった。
もしかしたら、ふたりは完全に「たりる」側に行ってしまったんじゃないかと。だとすれば、たりない俺が好きだった山里の自らガソリンを被り火をつけて回るようなツッコミ、若林の笑いながら近づいてきていきなり脇腹をナイフで刺すようなボケは観られないんじゃないかという思いもあった。
たりないの輪廻からは永遠に逃れられない
でも違った。山里亮太と若林正恭、いやヤマモトリョウスケとカトウミツハルはどこまで行っても「たりない」ままだった。アップデートアップデートだとうわ言のように繰り返しても、良くも悪くも人間の芯の部分は悲しいくらいに変われない。いくつものレギュラー番組を持とうが、アイドルと絶妙な距離感で仕事しようが、有名女優と結婚しようが、ひとつたりれば、ひとつたりなくなる。たりないの輪廻からは永遠に逃れられることはできないとふたりはその命をもって体現していた。
むしろ、富も名声もパートナーも得たからからこそ、たりないものが浮き彫りになっていた。ふたりは笑いながら仲間を傷つけ、ファンを傷つけ、自分自身をも傷つけて、抱きしめた。見栄、プライド、着ている服を脱ぎ捨て、魂ごと全裸になり、心のチンチンを見せ合った。脳みそを引きずり出し、あらゆる感情を言語化し、暴れ回っていた。
「嫉妬、憎悪、自虐、うしろ向きよくないよ! ポジティブに行こうよ!」と、たりてる人間がヘリの中で声高らかに叫びながら笑顔で手を差し伸べている。自分のたりなさから目を背けそれに乗ろうとしていた俺たちをふたりは竹槍とモデルガンで爆破して地上に引きずり降ろしてくれた。そして気づいた、ネガティブこそがポジティブ、うしろだと思っていた方向こそ前、「たりない」ことこそが「たりる」ことだったのだと。
40過ぎのいい大人がズタボロになりながら言う。
「たりなくて、よかったぁ」
変わらなくたっていい。いや、変わろうが変わるまいがそんなことはどうだっていい。どうせたりないんだから。ある意味で究極の「開き直り」。傍から見ればどこまでもダサい。でもそれが死ぬほどカッコよく見えた。そんなふたりをカッコいいと思える自分でよかった。
「ないもんねだりしてるほどヒマじゃねえ あるもんで最強の闘い方探ってくんだよ 一生な」/漫画『アイシールド21』より
これからもふたりは手持ちの最弱カードを最強と見せながら戦っていくのだろう。こんなことを偉そうに書くと、ふたりから「わかった気になってんじゃねぇよ」と言われそうだが、そのときは「すいませんファンの戯言なんで……」と下から関節決めようとして逆にボコボコにされたい。
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『明日のたりないふたり』
【主催】「明日のたりないふたり」製作委員会(日本テレビ、吉本興業、ケイダッシュステージ)
【企画・制作】日本テレビ
【後援】TBSラジオ、ニッポン放送
【出演】山里亮太(南海キャンディーズ)若林正恭(オードリー)
<6月13日(日)19:00まで見逃し配信チケット販売 延長決定!>
※視聴は6月13日(日)23:59まで
一般視聴チケット:3000円(税込)
Go Toイベント適用チケット:2400円(税込)関連リンク
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