アニメよるマイナースポーツ振興が起こる?男子新体操アニメ『バクテン!!』から考える
1月はスケートボードアニメ『SK∞(エスケーエイト)』、4月はカバディアニメ『灼熱カバディ』、さらに7月からは水球をテーマにした『RE-MAIN(リメイン)』と、2021年はマイナースポーツが立てつづけにアニメ化されている。
これまでもマイナースポーツを描いたアニメ作品がなかったわけではない。社交ダンスをテーマにした『ボールルームへようこそ』や、水泳の飛び込み競技を題材にした『DIVE!!』、高校弓道部を描いた『ツルネ ―風舞高校弓道部―』などだ。
とはいえ、年に4本もマイナースポーツが題材として取り上げられるのは稀である。そんな勢いを感じるマイナースポーツアニメの中でも私が視聴後、「この競技を生で観たい!」とすぐに大会日程を調べるほど注目している作品が、4月から始まった日本発祥のスポーツ“男子新体操”アニメ『バクテン!!』だ。
実際の演技をモーションキャプチャーでアニメ化
『バクテン!!』第1話で放送された、私立蒼秀館高等学校(通称・アオ高)の4選手による約3分間の新体操シーンを観終わった私は、気づけば真夜中のテレビの前でひとり、スタンディングオベーションをしていた。競技シーンに魅了されていたのだ。
たとえば、自分の上を選手が飛び越えていくかのような、迫力満点のバク転や交差するタンブリング。それでいて花がゆっくりと開いていくような、指先までしなやかな美しさも共存する演技。
プルプルと震え全身に神経が行き渡っていることがわかる倒立やバランス技。一人ひとり異なる回転技の着地タイミングや腕を振り下ろす速度、バク転の身体の反り具合。息の合った演技の中に描かれる選手の個性と完全にそろわないリアル。
思わずスタンディングオベーションをするほどに惹きつけられた理由は、競技シーンのリアリティへの徹底したこだわりではないか。『バクテン!!』の競技シーンは、男子新体操アスリートが結成したアクロバットプロパフォーマンスユニット「BLUE TOKYO」や男子新体操の強豪、青森山田高校男子新体操部、国士舘大学男子新体操部の演技をモーションキャプチャーでアニメ化しているという。
実は、競技シーン“だけ”を描くスポーツアニメは多くない。スポーツアニメではしばしば技巧の難しさやキャラクターたちの競技にかける想いを描くのに、競技をする人物以外のセリフや止め絵の表情、モノローグなど、プレー以外のカットが用いられる。
もちろん、そうしたカットは「競技のわかりやすさ」「キャラクターたちへの感情移入を促す」といった、視聴者と作り手のコミュニケーションとして必要な場合も多い。スポーツに詳しくない私が、その競技の知識を少し深めることができたり、目の前で活躍する選手たちを観客席やベンチで待機するキャラクターたちと一緒に見守っては、チームメイトになった気分を味わえたりしてきたのも、そうした描写のおかげだ。
だが、やはりアニメを通してそのスポーツを「生で観たい!」と思うに至るには、「どう? このスポーツ、おもしろいでしょ?」という競技シーンの魅力やリアリティを魅せることが重要なのだと、『バクテン!!』の3分間を通して実感した。
「ああ、この子たちは今、この時を、新体操にかけているんだ」
ただただ「すごい……!」と感嘆のため息がこぼれまくる競技シーンからは、アオ高男子新体操部の4選手がこのスポーツに費やしてきた時間や練習風景までもが思い浮かんだ。
効果的な脚色で、魅力にクローズアップする演出
リアリティだけではない。競技シーンを効果的に魅せるための工夫が随所に散りばめられている。
たとえば、カメラワークがそれだ。普通に競技を観戦するだけでは観られない、下からのアングルや選手のタンブリングのスピードに合わせて動くカメラワークにも、興奮させられっぱなしだった。
カメラがグッと寄った瞬間、選手たちからは「ハッ……」と呼吸が漏れ、汗が弾けきらめく。テレビ越しにもかかわらず、彼らの緊張感や体温が伝わってきた。そしてその張り詰めた空気を揺らす豪快なマットの音もまた、観戦しているという実感を与えてくれる。選手たちの真剣な眼差しを間近に浴びたことで、恋にも似た胸の高鳴りさえも感じた。
会場を照らすライティングにも見惚れた。「神秘」という言葉が似合う、暗転した会場の中に浮かび上がる青い縁取りの新体操マット。その上をスポットライトを浴びながら縦横無尽に動き回る選手たちには、神々しさすら宿っている。
『バクテン!!』の制作会社ゼクシズがアニメの放送に合わせて実施している『ZEXCSラジオ』によると、カメラワークもライティングも現実の大会にはないアニメならではの演出・脚色だという。私はこの脚色が現実の大会でも観られたらきっと、選手たちの演技の美しさやダイナミックさがもっと際立って、観戦したい気持ちが高まるのではないかと感じた。
というのも実は、私はこのアニメを観るまでに、コミカルな演技が特徴的な鹿児島実業高校新体操部の映像を観たことがある。失礼を承知の上で言うと、そのときは「生で観たい!」とまではならなかった。殺風景な体育館とおそらく競技関係者しかいないんだろうなと思える光景を目にして、どこか「一見様お断り」的な雰囲気を感じ取ったからだと思う。
採点競技なのだから、アニメのような演出は必要ないのかもしれない。カメラワークの工夫や美しいライティングがなくたって、選手たちがいかに人間業とは思えない技を披露しているかは素人目にもわかる。
ただ、アニメから伝わってきたのは「こんなに見どころがあるスポーツなんだよ」、そして選手たちがとにかくこの競技を好きでやっている、というシンプルなメッセージだった。そこには競技を詳しく知っている必要すらない。
だからこそ、たとえ脚色であったとしても選手たちの演技をクローズアップして、有無を言わさず「かっこいい」「すごい」「きれいだ」と思わせるアニメは、そのスポーツになじみがない人と競技との距離を縮めるきっかけになり得ると感じた。
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