国民投票で分断されたイギリス社会を示す『秋』を読む。この地獄は日本も辿る道なのか

2021.5.9
豊崎由美サムネ

文=豊崎由美 編集=アライユキコ


5月6日、憲法改正の手続きを定めた国民投票法の改正案が衆議院憲法審査会で可決された。これによって、投票「事前活動」が可能となり、財源の豊かな政党の思惑が優位に働きやすくなるのでは?など不安の声は大きい。書評家・豊崎由美が取り上げるのは、2016年、イギリスが国民投票によってEU離脱を決めたことを受けて書かれた長篇小説『秋』。国民投票によって分断されたイギリス社会は、日本も辿る道なのだろうか。

疑心は募るばかり

とうとう国民投票法改正案が衆院憲法審査会で可決されてしまいました。憲法改正のための手続きとして必要な憲法96条に定められた国民投票を、公選法に合わせたかたちにするのが目的で、平和憲法を改悪しようとしている安倍晋三の黒い野望の実現に一歩近づいたというべきでしょう。

が、しかし、2018年に改正案が提出されて以降、議論はじゅうぶんになされてきたのでしょうか。今回、自公と立憲民主党の間で修正案のすり合わせが行われたようですが、国民は事前にその詳細と展開を知らされていたでしょうか。新型コロナウイルス禍で国民の多くが健康不安と生活難を抱え、コロナ対策にこそ全力を傾けなければならない今、火事場泥棒のように可決を急ぐべき案なのでしょうか。こういう手口で行われることはたいてい悪事と相場は決まっており、疑心は募るばかりです。

とはいえ、わたしは憲法学者でも政治学者でもありません。一介の書評家です。国民投票法改正案が今国会で成立した結果、政治が、社会がどんなふうに変化してしまうのか、不安をふくらませるばかりで専門家の皆さんのように具体的なビジョンを提示することはできません。一介の書評家ができることは、良書の紹介です。

というわけで、アリ・スミスの『秋』(新潮社)を取り上げます。

国民投票によって分断されたイギリス社会

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