根本宗子が吉田豪に聞く「“演劇の流行ってなさ”をどうにかしたいんです」<岸田賞ノミネート記念対談>
根本宗子(月刊「根本宗子」)の『もっとも大いなる愛へ』が、「第65回岸田國士戯曲賞」(白水社主催)最終候補作品に選出された。それを記念し、同作品のアーカイブ映像の再配信もスタートしている。
しかし根本は演劇の現状に危機感を抱いていた。演劇がなかなか盛り上がりづらい現状をどう打破するのか? 自分の意図や考えを世の中に届けるにはどうすればいいのか?
そこでQJWebでは、彼女からの希望により吉田豪との対談をセッティング。あらゆるエンタメに精通するプロインタビュアー・吉田豪に、根本がかねてより抱いていた不安と疑問をぶつける特別対談の前編。
根本宗子
(ねもと・しゅうこ)1989年生まれ。東京都出身。19歳で劇団・月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演すべての企画、作品の脚本演出を手がけ、近年では外部のプロデュース公演の脚本、演出も手がけている。2015年に初めて岸田國士戯曲賞最終候補作品に選出。
目次
「今、演劇だ!」みたいな匂いが全然ない
──根本さんインタビューの聞き手として、なぜか演劇知識皆無のボクが指名されたことに驚いたんですけど……。
豪さんがよかったんです。
──演劇をよく知らない人に伝えるのには、ちょうどいいってことなんですかね。
さすが、そのとおりです。『もっとも大いなる愛へ』で岸田國士戯曲賞っていうのに今年もノミネートされてて、今回で4度目なんですよ。25歳のときから4度もノミネートされてまだ獲ってないんです(笑)。最初にノミネートされた年に獲らないと獲りづらいっていうなんとなくの空気があって。
それと、私の戯曲はあまり賞レース向きではなくて、戯曲だけに重きを置いてないというか、舞台にしたときにおもしろければいいと思っちゃってるんで、戯曲に力を入れてる作家が賞を獲るのは、そりゃそのとおりだよねって思ってます。戯曲には書かれていない部分を稽古場で俳優とコミュニケーションを取りながら全員で積み上げていくことが好きなので。
──演劇の世界では、すごく大きな賞なんですよね。
ただ、私が中学生高校生のころって、もっと岸田賞が盛り上がってたんですよ。自分が演劇を超好きだったからっていうのもあるんですけど、名だたる作家がもう獲り終わっちゃってて。25歳で初めてノミネートされたときに、平成生まれで初めてノミネートされたのが私だったんですけど、それも全然話題になってなくて。そういうのって人が言うもんじゃないですか。だから「平成初です」とか自分で言うタイミングもなく(笑)。
──「世代交代ですよ!」みたいな感じにもならず。
そういうのもなく。それこそ大森靖子さんと初めてやった舞台(『夏果て幸せの果て』/2015年)で初めてノミネートされたんですよ。鳥肌実さんが主演のとんでもない舞台だったから、戯曲賞なんて獲るわけない台本でノミネートされて、批評家たちにケチョンケチョンに言われたんですね。でも、ケチョンケチョンに言われるのは見えてたんで、ノミネートって辞退できるからめっちゃ迷ったんですけど。
──かなりの確率で叩かれそうだから。
そう、舞台を生で観てくれた人が感じたことがすべて、であるべきって思いが私は強くて。自分が演劇少女だった時代も毎年選評を読んでて、自分が観ておもしろかった芝居をすごくよくないみたいに書かれてると悲しい気持ちにしかならなくて。
だから自分の芝居を観てくれておもしろいと思ってる人たちが選評を読んでよかった思い出を汚されるのが嫌だなと思って、特に大森さんと作った舞台で大森さんのファンの人たちがたくさん初めて演劇を観てくれたから、それを読んで「あれはおもしろくない演劇だったんだ……」って思う人がいたら嫌だなと思って迷ったんですけど、でも辞退するようなポジションの人間でもないし、もらえるものなら肩書はもらっておこうと思って。
──ノミネートだけでも実績にはなりますからね。
そこから2年ぐらいノミネートされない時期があって、ここ3年はずっとノミネートされて今回4回目なんですけど。宮藤官九郎さんがドラマでヒット作を生み始めたぐらいの時代とか、もっと岸田賞が盛り上がってて、毎年「誰が獲るんだろう?」みたいな話が演劇界隈でもすごくされていて。私は当時年間120本観てるだけのただの演劇オタクなわけですけど(笑)。
でも年々、ツイッターのリツイート数とかが顕著なんですけど、白水社の発表のリツイート数が1000いかないぐらいなんですよね。演劇って賞がたくさんあるわけではないし、一応、演劇界の芥川賞みたいに言われてるのに全然拡散力がないのが悲しいなと思って。そもそも戯曲だけの賞って理解しづらいじゃないですか。
──ボクも普通にお芝居全体の賞だと思ってました。要は脚本賞みたいなものなんですね。
そうそうそう。だから伊藤万理華ちゃんが「おめでとう」って言われてるのがおもしろくて。万理華ちゃんファンの方々から見たら、万理華ちゃん主演の舞台がノミネートされたってことですもんね。もちろん当て書きなので万理華ちゃんありきで書いてるし、私だけの力だっていうのは全然ないので、もちろん万理華ちゃんにも報告もしたし、とっても喜んでくれてたけど、賞自体はあくまで戯曲のみで審査される賞なんですよね。
でも、戯曲単体でもらう賞っていうのが理解されづらくて、岸田賞自体がもうちょっと、私みたいなのがノミネートされたからには広がるといいなって思いが毎年あったんですけど。今までずっと芝居を作ってたので岸田賞にノミネートされてるシーズンも、「今年もノミネートされてますね」みたいな次回作の舞台の取材が挟まって、気持ちはお話ししてきたんだけど、結局そういうのって演劇が好きな人しか読まないのであんまり広がりがなくて。
このインタビューを豪さんに頼もうって思ったきっかけが、こないだ「ノミネートされました」ってインスタのストーリーに書いたら、チャラン・ポ・ランタンのももちゃんからLINEが来て、「何かにノミネートされたんだね、おめでとう! すごそうってことだけはわかった!」って(笑)。ももちゃんのリアクションが正しいんですよ、まじで。
──まあ、外部から見たらそんな感じですよね(笑)。
ノミネートっていう文字しかわからなかったのか、岸田國士戯曲賞が読めなかったみたいで(笑)。「なんかすごいんでしょきっと」みたいなぼんやりしたもので、ホントにそれが世間の感想で、それがももちゃんから来たのがよかったというか。
『愛の渦』で三浦大輔さんが獲った年って長塚圭史さんが獲るってみんなが思ってたから、「三浦って誰だ?」みたいなことでポツドールが流行ったっていう流れがあって。そういう予想とちょっと違う人が獲ったり、新しい人をそれで知っていくみたいなことがおもしろいと思うんですけど、今後は賞自体がどうなっていくのかなっていうのもあるし、こないだ豪さんのSHOWROOM(猫舌SHOWROOM『豪の部屋』、2020年12月15日放送)に呼んでもらったときにお話ししたんですけど、今はセンスがある人が演劇を始めようって思わないんですよね。
センスある新しい人が集まる場所が今、確実に演劇じゃない空気は感じてるんです。三浦さんが出てきたときとか本当に衝撃だったんですよ、「こんなこと演劇でやる人いるんかーい!」って。リアル演劇と言われる現代口語劇が流行り出す火つけ役だったわけなんですけど。
コロナもありますけど、「今、演劇だ!」みたいな匂いが全然ないんで、それにもうちょっと内部が危機感を持たないと新しいものが生まれづらいよなって思ってて。お客さんの演劇離れは、実際コロナ前からちょっとずつありましたから。
怖がって正論を言えない人間にはなりたくない
──根本さんはそこにすごい危機感を持ってますよね。
そうなんですよ。まだコロナ中で、お客さんを入れられるようになって上演はしてるけど、この人たちでチケット完売してないんだっていうこともあって。やっぱり今劇場に行くのも怖いし、地方からのお客さんは来ないし、より足が重くなっちゃうよなっていう。「劇場にぜひ!」ってのも言いづらいご時世でもありますしね。
──ライブハウス以上に危険なイメージがついちゃいましたからね。
こないだZOCの武道館に行ってみて、やっぱり広い空間で観てると危険な感じはしないじゃないですか。小劇場ってなるとどうしても近いし、芝居でしゃべらないわけにいかないし。そういうのを踏まえると、今後の演劇のあり方をちゃんと考える若手がいないと危ないんじゃないかなって。そういうときにどうするか、ってことのために今までがあるようなタイプの活動を私はしてきたので。
もちろんみんな考えてるとは思うし、とにかくやりつづけてる人は自分の世代にもいるんですよ。でも、“とにかくやりつづける”だけでは解決しない、お客さんをもう一回戻さないといけないし、ベースとしてもっと演劇を観る人を増やしたいわけですから。
今まで戯曲を買ったり読んだりに興味がなかった人が、セリフを読むみたいなことで演劇に触れてくれたらうれしいし、そういう意味でも戯曲賞みたいなものが存在してるんですよっていうことが広まるといいなとは思うんですけど、私のキャラクターと作風的にあんまりそういうことを言ってもキャッチされにくいんです、「なんかまた言ってんなー」みたいな。
──演劇の世界で根本さんのポジションってそんな感じなんですか?
届く層にはめちゃくちゃ届くけれど、まったく届かない層には1ミリも届かない。今まで私は自分の劇団公演って自分のお金で公演を打つことしかやってなくて、ヴィレッヂっていう会社にいるときはヴィレッヂの興行として公演が打たれてて、外部の仕事、たとえばジャニーズの舞台をやりますとかになったらお仕事としていただいてプロデュース会社が出資してるわけじゃないですか。自腹、所属事務所、完全依頼型、この3パターンしか公演を打ったことがなくて。
すっごいざっくり言うと、自腹、所属事務所、の興行は自分のやりたいことが100できる場所、完全依頼型ってのはオーダーがあるので、オーダーに応える本を書いてお金をいただく、っていうものですね。中でも私はどんなときもやりたいようにやらせてもらえてきた幸せなタイプではあるし、自由度が低いものをやることを自分が楽しめないのはわかっていたし、自由度が低い場で力を100発揮できないのが嫌だったから、そういうものは受けてこなかった。
で、ほかにどんなやり方があるかっていうと、企画を制作会社に持っていって、「これ一緒にやらんですか?」と相談するってパターンを30代で知るわけです。「うわ、それあたしやったことない!」ってなりまして。普通はそれってマネージャーさんだったり、劇団制作の人がやるんだけど、私はずっとセルフプロデュースでやってきたのでいわゆる「売り込み」って誰かがしてくれたことって今までないんですよ。マネージャーがいるときは基本的に窓口になってくれて、めんどくさいことから守ってくれるって感じで。
事務所を離れてどんな形態で公演を打っていこうかなと思ったときに、今までは組んでこなかった制作会社の人と積極的にしゃべってみるようにしたんです、年末から今まで。で、こういう思ってることを6時間ぐらい話したりしたんですけど、「そんなに考えてる人だと思ってなかった」みたいなことを言われて、「あー、やっぱり考えなしに衝動で動いているやつ」に見えてたんだなぁ〜って思って。
──ちゃんと考えているってことが伝わってなかった。
表向きは自分でもあえてそういうイメージにしてたところもあるんですけど、演劇界の内側の人にもそれが届いてなかったのかー、むしろ内側に勘違いされてんなーって(笑)。
それは20代の自分の賢さの足りてなかったところなんですよね。「おもしろい企画を考えて、お客さんが喜んでくれて、それ以外に何が必要なの?」って思っていたというか。でも規模が大きくなればもちろん関わる人数も増えて、気心知れた人たちではない人が座組に加わるじゃないですか、そうするとその人数が増えたチーム全体からリスペクトされてなくちゃいけないし、ある程度「この人のために」と思ってもらえる部分を私がきちんと持っていないと、私にムカつく人が座組に生まれてしまう。
「絶対私悪くない!」ってときも山ほどあるし、昔はそういうとき「悪くなーい!!!」ってやってたんですけど、なんでそうなったのかをしっかり考えて、意見の違う人とも話ができなくてはいけない、ってことに年々気がつくわけですよね。「悪くなーい!!!」していたときの私が勘違いを生み始めた主役でもあるなと。
あと、本当に自分の公演はすべて把握してないと嫌っていう、性格の私ですね。心配性なんで、組織で動いてるときにうまく公演が運んでほしいからいろんなことに口出すタイプなんですよ。まあ、自分が主宰をやってるからなんですけど。
みんなが「そこよくない」ってわかってるけど組織的には目をつぶらなきゃいけなくて、プロデューサーは見て見ぬ振りしてるところとかあるじゃないですか。そういうところを普通に、「これはなんでなんですか?」ってことごとく聞いちゃうから。
大人からしたら「黙っとけ小娘」と(笑)。今となってはそちら側の気持ちもわかります。でも私は怖がって正論を言えない人間にはなりたくない。だってそういう演劇を自分が描きつづけているから、書いてる私がそうなってしまったら説得力ないし、なんでずっとそこ描きつづけてんだかわからないから。そのへんの違和感なくなったら私本書かなくなる気もしますし。なので、言い方、やり方だなと。そこは本当に25〜29歳でいくつもプロデュース公演やらせてもらって学んだことです。
ある程度言われたことに従って舞台を作っていくのは全然嫌じゃないし、むしろ「この人を唸らせたい!」って思って作品作るから楽しさもあるんですけど、「一緒にやってみて根本さんってどうでした?」って誰かに聞かれたときに、「面倒だった」って言うのがたぶん一番楽なんですよ。
私が面倒だったっていうのわかりやすいでしょ? キャラクター的にも(笑)。ここまで話していて豪さんには伝わってると思いますが、細かいんですよ私、ちょっとでも真実じゃないことが伝わるのが嫌だし。だから私って人間をめんどくさいと感じる人はたくさんいるはずで、全然いいんだけど、「わ! その文脈でめんどくさいって説明すると全然違うふうに伝わる! やめて!」って相手に思うときはあります。
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