『機動警察パトレイバー2』が示した「平和という言葉がウソつきたちの正義」にならないために必要なこと
2月26日。1936年、陸軍青年将校たちが、天皇中心の軍事政権を目指し、1400人余りの軍人を率いて起こしたクーデターを企てた日である(29日未明、未遂に終わる)。時の大蔵大臣・高橋是清ら閣僚9人が殺害された「二・二六事件」を設定に組み込む『機動警察パトレイバー2 the Movie』を端緒に、『アニメと戦争』を上梓したアニメ評論家・藤津亮太が考える「戦争と現実」。
アニメ映画史上に残るマスターピースのひとつ
先週金曜日が2月26日だったので「理想」と「現実」についてアレコレ考えた。
といっても二・二六事件について考えたわけではない。入り口は『機動警察パトレイバー2 the Movie』。「戦争」と「平和」を主題にしたこの映画のクライマックスが、2002年2月26日という設定なのである。『パトレイバー2』は1993年の公開だが、ちょうど2月から4DXでのリバイバル上映も始まっていることもあり、改めてこの作品について考えてみたくなったのだ。
本作の監督は、映画『花束みたいな恋をした』の作中で言及され、当人が本人役で出演したことで(一部で)話題になった押井守。ストーリーも押井のアイデアによるもので、押井濃度がとりわけ高い一作になっている。日本のアニメ映画史上に残るマスターピースのひとつといってよい。
本題に入る前に、本作がどうしてマスターピースなのかを説明しておこう。本作は、単に現代日本を舞台にしたポリティカルフィクションとしておもしろいだけではなく、「アニメで“映画”を作るにはどうしたらよいか」という問いに対し、ひとつの回答を出し、のちの作品に大きな影響を与えたからだ。
ここでひとつの目標あるいは理想として語られている“映画”とは、単純に映画館の大きなスクリーンにかかる映像作品を指すわけではない。ここでいう“映画”とは、フレームで切り取られた映像の中の情報量と、それぞれの映像のつながり(編集)をコントロールすることで、その作品固有の時間と空間を表現することに成功した作品のことだ。
アニメは、すべてが絵であるため、実写より情報量が少なく、放っておくと人間も背景も“書き割り”にしかならない。そんなアニメでいかに“映画”らしい時間と空間を獲得するのか。押井監督は、先人のさまざまな挑戦を踏まえた上で最終的に、レイアウト(フレームの中に何をどのように描くかを決める設計図)の段階で、画面の中の空間感と情報量をコントロールするという方法論を確立したのだ。押井監督自身、のちに、自分の映画の作り方は本作で確立されており、次作である『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)はそのシステムに則って作っただけだという趣旨の発言をしている。
そして、本作のレイアウトをまとめた書籍『Methods 押井守「パトレイバー2」演出ノート』は、アニメ制作の現場でも一種の教科書的に広く読まれることになり、1990年代後半に普及する「カメラレンズを意識した画面作り」を底支えすることになった(ちなみに実際にレイアウトを描いたスタッフのひとりとして、のちに『千年女優』『パプリカ』などを監督する今敏が参加している)。
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