「トランプ劇場」が露わにした“中央”の空虚さと二大政党制の無意味さ(粉川哲夫)
大統領選挙での敗北をなかなか認めなかったドナルド・トランプ。1月7日(日本時間)、そんな彼の扇動を受けたトランプ支持者らが米議会議事堂を占拠し、警官隊と衝突。双方に死者を出す惨事となった。
『メディアの牢獄』(1982年)や『もしインターネットが世界を変えるとしたら』(1996年)などの著書を持つメディア論の先駆者として知られ、かつてニューヨークに居を構えていたメディア批評家の粉川哲夫。
「2016年の選挙の少し前から、ずっとトランプの動向を観察し」つづけてきたという彼は、この「トランプ劇場」の終焉をどう見たのか──。
空転に終わったトランプの「クーデター」
アメリカの大統領選挙は、1月7日(日本時間)の上下両院の認証式を経て、有権者による投票どおりにジョー・バイデンが第46代の大統領に決まり、終結した。が、今回は、これで1月20日の「就任式」へ向かうというわけには行きそうになく、米国大統領選挙史上類を見ない事態に直面している。要するに「トランプ劇場」が続演になったのである。
日本時間の1月7日の午前4時過ぎ、YouTubeの『C-SPAN』(アメリカのニュース専門ケーブルテレビ)で認証式のライブを見ていて、トランプ支持者のテッド・クルーズが、パッショネイトな身振りで「選挙に不正があった」ことを説いていたが、この人、牧師の息子のせいか、しゃべりが説教調になるので、ちょっとコーヒーを淹れに席を外して戻って来ると、画面に「休憩」のテロップが出ていた。
全米50州の代表が5分ずつ発言するので休憩を入れながらやるのかと思い、ほかのサイトに切り替えたら、リポーターが切羽詰まった口調で議事堂内に「暴徒」が乱入したと報告し、やがて、彼らが窓を破り、次々と議事堂内に入っていく映像が見えた。ほかのサイトでは、すでに、ロビーで警備官と揉み合っている映像も流れている。なるほど、トランプがやるのではないかと言われていた「クー(COUP)」とはこれかと合点した。英語の「クー」は、通常、軍部などが起こす「クーデター」の意味だが、民衆を動員して起こす「クー」もあることを知ったのである。
こういう騒動は、「左翼」の間では「革命」と呼ばれる。共和党のマルコ・ルビオは、「これは第三世界スタイルの反米アナキーだ」とツイートしたが、実際、これまで権力に反発する人々が憧れる「革命」はおおむねこのスタイルで始まった。
大統領の邸宅や議事堂にデモ隊が乱入し、権力が終焉したのである。おそらく、トランプはそういう例を意識していたのだろう。軍によるクーデターができなければ「民衆」を煽る手だ。が、この手法は、もう「第三世界」でも古過ぎる。
発端は1月7日(日本時間)の朝、トランプがワシントンで「セイブ・アメリカ」集会を行い、「議事堂に行き、わが共和党員を元気づけよう」と煽ったことにある。
やがて、それを聞いたトランプ派の聴衆だけでなく、ツイッターやフェイスブックで情報を得た者たちが続々と議事堂の周囲に集まった。その映像は、認証式が始まる前からSNSのライブで流されていた。それが乱入にまで進むようには思えなかったが、かなり周到な準備をしていた者もいたようで、窓ガラスを破る道具、上階から吊るすロープ、拳銃や爆発物まで用意されていたことがわかった。
結果は、議事堂の警備官に撃たれた4名の犠牲者(※編集部注:原稿執筆時点。のちに警官1名の死亡も確認された)には気の毒だが、他愛のない「革命ごっこ」に終わり、あとには、扇動者トランプへの批判と不審が高まり、トランプが狙った「認証式」の阻止にはまったくつながらなかった。最後まで盲従者に徹すると思われていた副大統領のマイク・ペンスですら、「あなたは勝てなかったのです。暴力は勝てません。自由が勝つのです。そして、ここは依然として人民の家なのです」と語り、明らかにトランプを批判した。
目下一挙に高まっているのは、トランプを弾劾裁判にかけるという案である。あと2週間足らずの就任期間しかないにもかかわらず、今あえて裁判にかけるのは、この調子では今後トランプが何をやらかすかわからないという不安からである。移動のときには常時(係官が)携行している核爆弾の起動装置を、押せなどという大統領命令でも下すようなことがあったら大変だというわけである。憲法修正第25条に基づいて辞任を求めるという案もあるが、この場合はペンスが超短期の大統領になる。 むろん、トランプは辞任しはしないだろう。とすると逮捕もありか?
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