Netflix配信中の『アンという名の少女』は、原作『赤毛のアン』の世界を守りながら、大胆に現代的解釈を加えた作品として注目されている。NHKで先週放送された第2話「運命は自分で決める(後編)」(Netflix版1話後半)では、「そうさのう」と温厚なイメージのマシューの思い切った行動に驚く。『日本翻訳大賞』運営委員も務めるゲーム作家・米光一成が考察する。
マシュー、だいじょうぶ!?
『アンという名の少女』は、カナダCBCとNetflixの共同制作で、Netflix配信中。NHKでシーズン1が全8回に編集されて放送しているのに合わせて各話レビューを展開しています。
第2話「運命は自分で決める(後編)」で、『赤毛のアン』原作ファンが絶叫したのは、マシューの大活躍でしょう。馬で疾走しまくるマシュー!!! プリンスエドワード島の美しい景観をたっぷり観せましょうタイムなのか、引きの画を挟み込んで、たっぷり疾走する姿は、原作や高畑勲版アニメでなじんでるマシューの100倍機敏で元気で活発なジェントルマン。ハイヤーッ!
ちょっと前に苦しそうに胸を押さえるシーンがあり、展開を知っている人にとっては体が心配なキャラだから、「だ、だいじょうぶ!?」とハラハラしながらも、疾走っぷりを応援せずにはいられない場面だった。
第1回レビューで、マシューの口癖「そうさのう」の翻訳が変わってて寂しいと書いたけど、第2話の機敏なマシュー馬を駆って大疾走を観ると、のんびり癒し系キャラの「そうさのう」はさすがに合わないからかーと納得。
紫水晶ブローチ事件の顛末
第1話のラストで、孤児院に送り返されるのは見送られたアン、ひとまずグリーン・ゲイブルズに戻ってきます。
「5日間置いて様子を見ましょう」ということになるのですが、服は脱ぎっぱなし、お祈りをしたこともない。
農場の手伝いはフランスの少年ジェリー・ベイナードがやっている。アンは、ジェリー・ベイナードに突っかかって邪魔してるだけ。
アンは「役に立ってない」。
それどころか、リンド夫人に「やせすぎだし」で「器量もよくない」で「にんじんみたいな赤毛」と言われて、かんしゃくを爆発させて、「肥ってて、不器量で、想像力のかけらもなさそうだ」と言い返してしまう。
ちゃんと謝りなさいと言われても、「絶対にイヤ。地下牢に閉じ込めてお仕置きされても平気」と言うことを聞かない。
役に立つどころか、アンはトラブルメーカーなのです。そして、紫水晶(アメジスト)のブローチ事件が起こります。
原作では第14章。アンがグリーン・ゲイブルズにやってきてもう少し経ってからのエピソードが前倒しに描かれます。
ブローチがなくなったことをアンのせいだと勘違いしたマリラはアンを追い詰めます。アンは「孤児院に返すわよ」という言葉に負けて、作り話をしてしまいます。
アンが馬車で送り返されたあとに、マリラは椅子の隙間にブローチを発見し、アンを誤解していたことに気づきます。
そして、アンを追いかけるマシューが馬で大疾走のシーンに!
現代にモンゴメリがもしいたら
原作を大きくアレンジしたドラマは「なんで改変しちゃったんだよー」と落胆させられることが多いのですが、『アンという名の少女』は、大きくアレンジしているにもかかわらず「うれしい!」のはなぜでしょう。
尺の関係で変更したり、ターゲットの年齢層が若いからわかりやすく説明しようとか、この俳優を使いたいから変えよう、そういったドラマの本質ではない部分の外的要因でアレンジしているのではなく、製作者が「こういうアンが観たい!」と主体的にアレンジしているからでしょう。
「こういうマシューが観たい」「現代にモンゴメリがいたらこう書いていたに違いない」そう考えて、アレンジしたことが伝わってくる作品になっているのです。
マシューのカッコいいシーンを観たい。(ネタバレになるのでぼかしますが)マシューのあの重要なシーンがもしこうだったら。そういった『赤毛のアン』を愛した先にあるアレンジだと伝わってくるところが『アンという名の少女』のすごいところだと思います。良質な二次創作が持つ愉悦がここにあります。
もちろんファン心理は複雑です。「許せない許せない」と声を荒らげるファンもいるでしょう。そういったことも覚悟しての現代版アレンジだと思います。
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