狂気と哲学性をミックスさせた蛙亭のコントについて
観た人の心をざわざわさせる独特の世界観のコントを繰り広げる男女お笑いコンビ・蛙亭。『ゴッドタン』の「ネタギリッシュNIGHT」にも登場し、9月25日(金)に発売となる『芸人雑誌 volume1(クイックジャパン別冊)』(太田出版)にもインタビューが掲載予定となっている、注目の芸人。いったい蛙亭のネタの何が人々の心を惹きつけるのか。
狂気的なのに生々しい
今、最もネタを楽しみにしているお笑い芸人、蛙亭。中野周平と岩倉美里からなる2012年に結成された吉本興業所属の男女コンビで、ここ数年メキメキと頭角を現している最注目の若手芸人だ。
東京03の飯塚悟志も高く評価しており、蛙亭のネタをひと言で言えば「異質」。ネタによってボケツッコミが変わり(ツッコミという概念がないときすらある)そのテイストもまったく異なる。「ピザの配達へ行った先の客が爆乳吸血鬼だった」「マッチングアプリで出会った男がすこぶるキモいのにめちゃくちゃヤリ手」「スポブラ見られると思ったら腹にダイナマイト仕込んでた」など猟奇的かつコミカルで、人間の欲望をくすぐる生々しい狂気と1ミリも予想できない展開が圧倒的な中毒性を生み出している。
中でも蛙亭が『ゴッドタン』(テレビ東京)の人気企画「ネタギリッシュNIGHT」(2020年8月29日放送)にて披露したネタが本当に衝撃的だった。ネタを作った岩倉美里曰く「(ライブで)1回も笑い声が聞こえなくて」と言っていたのだが、披露後MCの劇団ひとりに「これがウケないっていうのは日本のお笑いを悲観するよ」と言わしめたほどの怪作。ここ数年で観たネタの中でもダントツのインパクトだった。
内容を簡単に説明する。あるひとりの女警官が交番勤務をしていると、突然男がやってきて、
「僕を逮捕してください、自首しに来ました」
と言い出す。困惑した女警官が男にどんな罪を犯したのかと聞くと男は
「花とセックスをしてしまいました」
「僕は白い紫陽花にひと目惚れをした」
と言い出し、
「でも彼女は僕に振り向いてくれなかった」
「だから隣に咲いていた紫の紫陽花とした」
「白い紫陽花は謝ったら許してくれた」
「その後も紫の紫陽花の誘いを断れず何度もした」
と自分が本命の花がいながらにして別の花と体を重ねてしまった罪を告白し、「だから僕を逮捕してください」と懇願する、というネタ。
……こうして書いていても、「頭がおかしい」「どうやって考えた」としか言えないのだが、蛙亭のすごさは、このカオスなネタを「あり得ること」として具現化させてしまうパワーにある。
「逮捕してほしい」と訴えかける男を演じた中野周平の演技力は凄まじく、狂ったキャラクターの狂ったセリフを狂ったままに「自分の言葉」で言うことができる、まさに「心」の演技。その絶妙なルックスと相まって荒唐無稽な設定にとてつもないリアリティを持たせることができる。たとえるなら、押見修造の描いたマンガに出てくるキャラクターのような生々しさを感じる。
そして、真に恐ろしいのがこのネタを1から10まですべて書き上げた岩倉美里。彼女の脚本力は恐ろしく、前述した「爆乳吸血鬼」など一瞬で観客の心を掴むわかりやすさと、何回も繰り返し観ることでさらにおもしろさが増していく深さを兼ね備えている。笑いと同時に切なさや優しさや怖さなどさまざまな感情が波のように押し寄せてくる。
このネタでも岩倉が語った裏テーマに震えた。ネタ中に「白い紫陽花の花言葉ってご存知ですか? 『寛容』です」というセリフがあるのだが、曰く
「紫陽花の花言葉はもうひとつあって『浮気』。フッたけどその人は当てつけで浮気などはせず待ってて許してあげたのにまた裏切った」
そう、このコントは単にいきなり交番にやってきて意味不明なことを叫びつづける異常者を笑うだけのネタでなく、花のモチーフをあえて真逆の花言葉を持つ「紫陽花」にすることで、「言葉では許していても気持ちはわからない」「人間は何度でも裏切る」という世の中の不条理を描いたコントなのかもしれないと思った瞬間、その狂気の中に潜む哲学性に、お笑いのネタを観ていたはずが上質な純文学を読んだような読後感に包まれた。控えめに言って「革命」だと思った。
「蛙亭」、その名前を知っていて絶対に損はしないコンビ。ぜひチェックしてみてください。
蛙亭のインタビューが、9月25日(金)発売の『芸人雑誌 volume1(クイックジャパン別冊)』に掲載!
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