西寺郷太が混迷する時代に生み出した『Funkvision』というイメージ。異能なミュージシャンが見通した未来とは
バンド「NONA REEVES」のシンガー、メイン・ソングライターとして20年以上のキャリアを誇り、作詞・作曲家としても少年隊やSMAP、ヒプノシスマイクなど数多くの楽曲を手がけ、『プリンス論』などの著書を持つ音楽研究家でもある西寺郷太。
獅子奮迅の活躍を見せる彼の6年ぶり2枚目のソロアルバム『Funkvision』は、緊急事態宣言が発令された今春に自宅スタジオ「GOTOWN STUDIO」でレコーディングされ、2020年7月22日にリリースされた。
『ヒットの崩壊』などの著者として知られる音楽ジャーナリスト・柴那典が、稀代の“ベッドルーム・ファンク”『Funkvision』を生み出した西寺郷太のミュージシャンとしての特異性に迫る――。
目次
“ポップミュージックの伝道師”による純度の高いパーソナルな2ndソロアルバム
今、日本において最も“異能の持ち主”と言えるミュージシャンのひとりが西寺郷太だろう。
NONA REEVESとしての音楽活動はもちろん、作曲家・作詞家・音楽プロデューサーとしても幅広く活躍。さらにここ数年は著述家としても引っ張りだこの存在となっている。数々の書籍も書き下ろし、抱える連載は10本以上。その内容もマイケル・ジャクソンやプリンスなど数々のポップレジェンドの解説から、90年代の下北沢を舞台にした小説「’90s ナインティーズ」、さらには『始めるノートメソッド』のような“ノート術”まで幅広い。さらにはテレビやラジオ出演、ポッドキャスト番組のパーソナリティとしてもカルチャー全般にわたる精力的な発信を繰り広げている。
そんな彼による6年ぶり2作目のソロアルバムが『Funkvision』だ。共同プロデューサーに宮川弾を迎え、自宅スタジオ「GOTOWN STUDIO」ですべての楽曲制作と録音を行った1枚。いまや“ポップミュージックの伝道師”として活躍する西寺にとっても、最もパーソナルな純度の高い1枚といえるのではないだろうか。
彼がソロアルバムで何を表現しようとしたのか。そこに映し出された2020年の時代性とは。インタビューにて話を聞いた。
「僕にとって、ソロアルバムは人生のご褒美ですね。僕は10歳のころからひとりでずっとデモテープを作っているような宅録少年だったんです。もともとバンドはやりたかったけれど、中学や高校のときにはまわりの連中と好きな音楽が完全にズレていた。マイケル・ジャクソンやプリンス、スクリッティ・ポリッティやティアーズ・フォー・フィアーズが好きで、60年代のビートルズ、70年代のスティーヴィー(・ワンダー)やマーヴィン(・ゲイ)、ボズ・スキャッグスなどのAOR。
逆に日本では当時の若い世代がハマっていたメッセージ性の強いパンクやロック的な音楽にはほとんど興味がなく、むしろジャニーズ音楽、アイドル・ポップの完成度の高い細やかなアレンジが好きで。そんな人間はまわりにいなかった。それが21歳くらいまでの僕。
で、92年に早稲田大学に入って小松シゲルや奥田健介と出会って、そのころはアシッド・ジャズ全盛。そこでも結局うまくいかなくて。ドラムの小松シゲルがいつも笑って言うんですが、ゴータ不遇の時代。東京でもダメなのか、万事休すかと思った95年、ギター・ポップ、ブリット・ポップ現象が爆発していた下北沢に出入りするようになって、NONA REEVESを始めて、そこからバンドがずっとうまくいっている。小松と奥田が本当に優秀なミュージシャンなんで、ひょっとしたら2000年代に終わっていたかもしれなかったバンドがちゃんとつづいている。レーベルもちゃんとあるし、特にここ5、6年はNONA REEVESがワーナーに復帰したりと、いい意味でバンドとしてチャンスをもらうことが多かった。
だから、ソロをやるというのはすごく贅沢なことなんですよ。6年前に『Temple St.(テンプル・ストリート)』というアルバムを作ったときにも、(元ジャクソン5のメンバー)ティト・ジャクソンと一緒にレコーディングしたり、コーラスを入れてもらったりして、まるでパラダイスみたいだという感想でした」