西寺郷太『Funkvision』:PR

西寺郷太が混迷する時代に生み出した『Funkvision』というイメージ。異能なミュージシャンが見通した未来とは

2020.7.25

パンデミックで変化した日常の風景が反映された歌

アルバム冒頭を飾るのはタイトルトラックの「Funkvision」。林幸治(TRICERATOPS)の奏でるベースラインが存在感を放つ、ニュー・ジャック・スウィング直系の1曲だ。

「これは最後に作った曲なんです。『Funkvision』というタイトルも最後につけたもので、今の自分、これからの自分の音楽も含めたひとつのスローガンになるようなシンプルな言葉を探しているときにふと思いついた言葉ですね。
僕の作る音楽、目指してきたのはいわゆるイメージとしての『シティ・ポップ』よりは、グルーヴ重視のものなので。それで共同プロデューサーの宮川弾さんに、メロディと歌詞は自分が書くから『Funkvision』という曲名でトラックを作ってほしいとお願いした。そうしたら上がってきたのがほぼ完成形のトラックだった。それを聴いた瞬間に『これはいける』と思って、10分後くらいにメロディと歌を入れて送り返した記憶があります。
ただ、打ち込みだけで完成させたくなかったんで、弾さんにピアノを弾いてもらったり林幸治にベースを弾いてもらったりして、生演奏的な要素も織り交ぜて完成させました」

撮影は初夏の下北沢で行われた

キラキラとしたゴージャスな光沢感というよりも、全般的にシンプルで親密な響きを持ったサウンドが貫かれているのも『Funkvision』のひとつの特徴と言っていいだろう。ブルー・アイド・ソウルをベースにした「BLUEJEAN」にも、シンプルな「Love Me Do」や「Heavy Day」も、けっしてノスタルジーではなく今の時代の質感が感じられる。

「『BLUEJEAN』は最後のほうに作った曲で、ハイハットのない、キックとスネアしかない音世界に、歌い上げないヴォーカルが伸びていく。限りなく打ち込みに近いドラムに、三連符のラップが入る。それもスペイン語と英語と日本語のミックスなんです。そういうマシンリズムありきの作り方はNONA REEVESではやはりできないんでやってみた感じですね。
『Love Me Do』は、コード進行もパーツも少なくして、それでもきっちりポップであるということを考えて作った曲。『Heavy Day』はサンダーキャットを意識した感じですね。彼の音楽の純粋なファンなんですけど、路線としてはこの曲が一番NONA REEVES的です。僕が好きだった70年代のソウルやAOR的なノリを、彼はハードコアやジャズも好きな上でやっている。
今回、ホーンもすべてフルート、フリューゲル、サックス各種、トランペットも共同プロデューサー宮川弾さんの生演奏で。1曲だけ谷口尚久くんがトランペットで、彼のスタジオでのリモートで手伝ってくれました。あの人たち、鍵盤やギターが本職なのになぜ管楽器が吹けるのか不思議なんですけど、全体的にメタリックでコンピューター的なイメージでありながら、ホーン隊は完全ヒューマニックな生というこのアルバムならではのサウンドで構築した曲です」

中でも耳が惹きつけられるのが「Decade」だ。リリックの中に「バンクシー」や「高輪ゲートウェイ」や「予防接種」という言葉も登場するこの曲は、パンデミックによってがらりと日常が変わった2020年のドキュメントのような1曲になっている。

「この曲は作曲が弾さんで、作詞が僕、演奏に関してはドラム、ベース、アコースティック・ギターが軸になるんですが、弾さんの緻密なプログラミングを彼に言われるままにほとんど僕が生で演奏し直した感じで。だから、宮川弾さんによってプロデュースされた西寺郷太感が一番強いですね。
弾さんは今回のこのレコーディングにものすごい情熱と時間をかけてくれて。僕は3月までめちゃくちゃ忙しくしていたんですけれど、その間に手ぐすね引いて待っていて、最初に渡してくれたのがこの『Decade』だったんです。
それまでに作っていた曲もいくつかありましたけれど、実質的にこの曲からアルバムの制作がスタートした感じですね。コロナの感染が広がって、ライブも中止になり、オリンピックも延期になったころに歌詞を書き始めたので、ある種ポリティカルなことも書いた。
バンクシーらしいけど実際はどうかわからないネズミの絵が見つかって小池百合子都知事がはしゃいでいるニュースだとか、高輪ゲートウェイ駅が完成してオリンピックに向けてイベント会場も作ったけれどいざ開業したら誰もいないとか、いろんなことが歌に使えるなって。結果的に強い曲になりましたね」

頭の中で渦巻いていたプリンスの言葉があと押しに


この記事の画像(全17枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

Written by

柴 那典

(しば・とものり)1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は『AERA』『ナタリー』『CINRA』『MUSICA』『リアルサウンド』『ミュージック・マガジン』『婦人公論』など。『日..

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森⽥美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太