西寺郷太『Funkvision』:PR

西寺郷太が混迷する時代に生み出した『Funkvision』というイメージ。異能なミュージシャンが見通した未来とは

2020.7.25

“ちょっと前の自分”を否定しつつ、自分の持ち味を活かす

新作は、NONA REEVESがタワーレコード内に設立したレーベル「daydream park」からの第1弾リリースとなる。ソロアルバムを制作するという計画、そしてそのレコーディングを自宅スタジオ「GOTOWN STUDIO」で行うという予定は、去年の段階から決まっていたことのようだ。

「昨年の12月くらいに、2020年の夏までは東京オリンピックもあるからツアーするのは難しいだろうという話をしていたんです。奥田や小松もそれぞれサポートの予定が入っていた。だから、移籍第1弾は西寺郷太のソロにしよう、と。3月から5月くらいの2カ月間でレコーディングして7月くらいに出そうと決まっていた。それが結果的にコロナ禍でステイホームと言われた期間に重なった感じです。
なので、今回はすべての楽器を自宅スタジオで録音しました。10年前に自宅スタジオを充実させたんですけれど、防音もちゃんとして、ドラムやピアノも置いて、ほぼすべての楽器を録音できるようにしてきた。いろいろやってきたことが実になっている感じはありますね」

「daydream park」のロゴを手がけた北山雅和(help!)は「LIVE HAUS」のロゴも担当している

こうして、コロナ禍の自粛期間中に、共同プロデューサーの宮川弾、エンジニアの兼重哲哉、そして数名のゲスト・ミュージシャンのみを自宅スタジオに招いた密室的な体制で制作された本作。まず印象的なのはサウンドの質感だ。これまでのキャリアから80年代的なイメージも強い西寺だが、アルバムには現行の海外のポップミュージックのトレンドとリンクするような曲調の楽曲も多く収録されている。マスタリングはドレイクやザ・ウィークエンド、フランク・オーシャンなどを手がけたマスタリング・エンジニアのジョー・ラポルタが担当。深みのある低音が響いている。

「サウンドとしては、今までの自分が作ってきたものをいったん否定してみようというのが今回のスタート地点でした。これまでの自分、特にNONA REEVESで『未来』というアルバムを作った去年の自分が選ばない道をあえて選ぼう、ということをすごく意識して作った。
参照したのはポスト・マローン、ザ・ウィークエンド、ドレイク、フランク・オーシャン、あとはドージャ・キャットのような、本当にここ最近のアーティスト。ジャスティン・ティンバーレイクにしても、SZAとやった『The Other Side』みたいなここ半年から1年くらいの曲。そういうサウンドと、もともとの自分の持ち味みたいなものの融合を目指そうと思った。
ジョー・ラポルタにマスタリングを頼んだ理由もそれですね。何より本物を作っている人に頼もうと思った。ああいうミュージシャンたちの動きをちゃんと見ようということを意識したアルバムです。迷ったら、ちょっと前の自分が選ばなかったことを選ぼう、と」

西寺が言う“ちょっと前の自分”というのは、まさにNONA REEVESが長いキャリアを経て築いてきた音楽性の魅力の真髄でもある。

97年にNONA REEVESとしてデビューして以来、途切れることなく音楽活動をつづけている

「NONA REEVESは“変わらないこと”をモチベーションにしていたんです。90年代の同時期にデビューした仲のよいバンドが2000年代に入って打ち込みのリズムを導入したときも、あえて完全にその方向だけには行かなかった。生演奏と打ち込みのナチュラルな融合を目指したんです。
時代が変わっても同じことをやりつづけてきた。メンバーの演奏がうまかったから、それで成り立っていた。あえてシーンのトレンドを無視していたのが2000年代だったと思います。実際、当時の流行に僕が感動できる、好きな音楽も少なくて。
ただ、ダフト・パンクが『ランダム・アクセス・メモリーズ』をリリースして、グラミー賞を獲った2013年あたりから風向きがちょっと変わってきた。マイケル・ジャクソンの『オフ・ザ・ウォール』が再評価されて、ある程度の演奏力がないとできないグルーヴがトレンドになった。そのあたりからNONA REEVESにも勝ち目が出てくると思ってたし、2013年ぐらいから今に至るまで僕がやってきたことも基本的にそういうことなんです。たとえばヒプノシスマイクに書いた『Break the wall』もまさにそういう曲ですね」

ヒプノシスマイク「Break the wall」/ 山田一郎 Trailer

パンデミックで変化した日常の風景が反映された歌


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