小説に作者がいるように、ゲームにもいる、著作権もある。なぜ認識されないのか
ゲームは紹介してもらえるのに、作者名は表記されない。お願いしたら断られた。「ゲームに作者がいることになじみがないので名前を入れると意味がわかりにくい」そうだ。ゲーム作家・米光一成が、ゲーム、ひいてはすべての著作物の署名性を問う。教育現場の例外規定の扱いはこのままでいいのか。
教育の現場と『はぁって言うゲーム』
ゲーム『はぁって言うゲーム』がたくさんの人に遊んでもらっている。ゲーム作家としてこれほどうれしいことはない。
わいわい楽しいゲームなので、テレビ番組や、ラジオ、YouTube、イベント、教育現場などでも、たくさん遊んでもらっている。ありがたい。
いろいろ遊んでもらうなかで、問題点が見え始めた。
『はぁって言うゲーム』は、与えられたお題を、声と表情だけで演じて当て合うカードゲームである。たとえば「はぁ」のお題カードには、8種類の「はぁ」が書かれている。
プレイヤーそれぞれが、AからHのカードをこっそり引いて、自分が演じる「はぁ」を決める。
演じるとき、身振り手振りは禁止。「はぁ」だけを言って、声と表情だけ(首から上だけ)で表現するのだ。
ほかのプレイヤーが当てれば、当てた人・当てられた人、双方に得点が入る。
お題は「はぁ」「好き」「なんで」「ウインク」「自己紹介」など、30種類ある。
いろんな表情で瞬間的に演技をして、その人の個性が発揮されるのが楽しいコミュニケーションゲームだ。
2017年に米光一成がインディーズで『はぁって言うゲーム』を頒布し、JELLY JELLY GAMESから『ベストアクト』として商業流通版、そのあと幻冬舎から『はぁって言うゲーム』というタイトルに戻してリリース、『はぁって言うゲーム2』も出た。
『はぁって言うゲーム』は、教育現場でも使われている。アイスブレイク、自己紹介、コミュニケーションの授業などで活用してもらっている。
そのとき、商品を使わず、プリントに書いてプレイしている現場もある。
実は、学校教育の現場では、著作物を複製できる例外規定が設けられている。
著作権法第35条第1項 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
著作権法第35条第1項
教育の現場などで使われるのはうれしい。
さらに簡単に遊ぶために得点方法を簡略化したり、オリジナルのお題で遊んでもらうのも歓迎だ(アナログゲームは、その場で簡単に変えられるのもいいところ)。
ただ、先生が考えたオリジナルゲームだと勘違いさせる使い方はやめたほうがいいと思う。
ゲームに詳しくゲーム愛がある生徒は、ゲーム制作者をないがしろにしてパクっている先生だと思うだろう。先生をリスペクトすることができなくなる。
また、教育の現場での例外規定だということを説明せずに使えば、生徒たちは真似をする。自分たちも著作者に断りなく勝手にコピーして使っていいのだと勘違いする。これは、ゲームだけに限らない。
実際に、配られたプリントを使ってプレイしている配信動画を観たことがある。
悪気があってそうしているというよりも、何も知らない様子だった。
学校の先生は、授業方法のシラバスを共有する。
ゲームがシラバスに組み込まれて広まると、本来のゲーム作者ではなく、シラバスを組み立てた先生が「ゲーム」すらも考えたかのように広がっていくケースもある。
ゲームタイトルを言わない番組も
番組の中で『はぁって言うゲーム』であることを隠して遊んでいることも、稀にある。
『はぁって言うゲーム』とまったく同じ「お題」と「選択肢」でプレイしているのに、ゲームタイトルも言わず「演技ゲーム」と言ってプレイしている番組があった。
おそらく何も知らない視聴者は、その番組で考えた企画だと勘違いしただろう。「あれ、はぁって言うゲームだよね?」とツイートしている人がいなければ、ぼくも気づかなかったかもしれない。
ほとんどの番組や動画は、『はぁって言うゲーム』というゲーム作品があることをちゃんと言ってくれる。人気YouTuberは、たいていパッケージを見せて、このゲームを遊びますよと紹介してくれる。作者が米光一成であることを写真つきで紹介してくれる番組もあった。ありがたい。
ただ、本当に稀だけど、隠してプレイしているものを見かける機会がある。
これは『はぁって言うゲーム』だけの問題ではない。
いま、アナログゲームがブームだ。
ゲームカフェがたくさんできて遊ぶ場所が増えた。ゲームは子供のものだという偏見もなくなってきた。遊ぶ層が広がってきた。時間のかかるマニアックなものだけではなく、軽く遊べるものも増えてきている。
「ゲームを作っている人がいる」ということを気にしない層も、たくさん遊ぶようになってきた。
ゲーム作品には、ゲームを作っている人間がいる。おもしろいゲームにするために、細かい工夫を積み重ねている。
パッケージデザインや、カードをデザインする人もいる。流通させたり、広めたりするために、がんばっている人がいる。
そうやって、ゲームを「ゲーム作品」として流通させている。
たとえば、小説なら、それを書いた作者がいること、出版社が存在することを、たいていの人が意識する。
本に出てくる名言を、自分の言葉のようにしゃべって、それがバレると恥ずかしい。小説のタイトルと作者を明記して、この本に出てきたと紹介するだろう。
同じように、ゲームを使ったコンテンツを使うときには、そのゲーム作品を隠さないでほしいのだ。
ゲームにも、作者がいることを、ちょっとでいいので思い出してほしい。
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