ミュージカル『薄桜鬼』でつかんだ木津つばさの原点。腱鞘炎になるまで刀を振った日のこと

文=木津つばさ 撮影=山口こすも 編集=高橋千里


舞台を中心に活動をスタートし、数々の人気シリーズ作品に出演、現在は映像でも話題作にレギュラー出演するなど多方面で注目を集める俳優・木津つばさ。28歳になった今、「国民的俳優になる」という夢の途中にいる。

広島から上京した日のこと、コロナ禍で舞台に立てなくなった日のこと、“2.5次元俳優”の肩書に悩んだことなど、自身の言葉で赤裸々に綴るエッセイ連載『舞台にさよならを言う前に』。

【第9回】初舞台

秋がやってきた。秋は、心の奥底から好きだ。スポーツ・読書・食欲とさまざまな秋があるが、僕にとっては一瞬で過ぎ去ってしまう“尊い”秋だ。少し肌寒くなってくる風や、夏から居残りして揺れている風鈴。季節の中で一番好きだ。

さて、今回書かせていただくのは、タイトルのとおり「初舞台」。

果たしてどれが“初舞台”になるのか。いろんな「舞台」と呼ばれるものがある中で、初めて板の上で芝居をした、僕を救い上げてくれたミュージカル『薄桜鬼』について、思い返しながら綴っていこうと思います。

ミュージカル『薄桜鬼』の出演が決まったきっかけは、舞台のオーディションからさかのぼること数カ月。とある映画のオーディションでした。

かの有名な映画監督の作品。人生で2回目のオーディション。会場には20分前に着いて、誰もいない控え室で、もらった台本を握りしめながら黙読をする。想像する。でも、わからない。

どうしようどうしようとひとり慌てふためく僕。続々と集まる参加者に目が点になる。多数のドラマや映画で活躍されている方々ばかりだったからである。

オーディションが始まる。声も大きく太く出ている。体を引きしめて、すべてをいい意味でそつなく大胆に表現する。かっこいい。ひとりまたひとりと終わっていく。ということは、自分に順番が回ってくる。来るな、いや来るなら来い、さぁ順番だ、勢いをつけていけ!

すぐさま間違える。なぜだ! あれだけ頭の中でイメージしただろう! 次も間違える、また間違える、間違える間違える。刀を扱うシーンでは己の足を斬ってしまう始末。まわりが笑っている、恥ずかしい。

ただ、なぜか最後に特大の拍手を送ってもらえた。「ありがとう」と優しい声で伝えてくれる審査員。全力を出した、出し尽くした。

そのとき思った。芝居は、全力でやってきたことをバカにはしない、努力として受け取ってくれるものだと。

オーディションの結果は不合格。僕の俳優人生は終わり、おとなしく当時所属していたボーイズグループの活動に専念しようと覚悟をした。

そんなとき、ひとつの連絡が届いた。「この作品はダメでしたが、そのときのオーディション会場にいらした方が、『薄桜鬼』というミュージカル作品のオーディションをぜひ受けていただきたいと言っているのですが、どうしますか?」と。

もちろん「やります」。そこからすべてが始まった。今の、芝居に全力な僕を作り上げたエピソードである。

正解がわからず苦悩した、ミュージカル『薄桜鬼』

初めて経験する、大きな劇場での芝居。稽古期間を通して、僕には到底想像のつかないほど努力を要するものだと痛感しました。

腱鞘炎(けんしょうえん)になるまで刀を振って、頭がのぼせてボーッとしすぎて怒られて、「お前は何ができるんだ?」とまで言われて……。

演出をつけてもらい、芝居するたびに「違うな」「もっとこうしてみよう」。もちろんよくするために言ってくださってるのはわかるけれど、やればやるほど正解がわからなくなってきてしまう。

「今の芝居も違う」「じゃあ次はこうしよう」「あ、これも違う」って、自分の中でどんどん選択肢がなくなっていく感覚。

そんなときに先輩に呼ばれて、本の読み方から教えてもらいました。「たくさん試すことはいいことだ」と。

そのとき初めて「あ、稽古って失敗していい場所なんだ」って思えた気がします。のちに、その先輩には「たくさん本を読め」とブックカバーをプレゼントしてもらいました、今でも大切に使っています。

ミュージカル『薄桜鬼』に限らず、一人ひとりがカッコよければ作品が成立するわけじゃなくて、そこに存在していることがすごく大事だと思うんです。

先輩方のおかげで、自然と作品に溶け込めたあの瞬間を今でも覚えています。「好き」になれたのはあなたたちのおかげです。本当にありがとうございます。

さぁ、初めての2.5次元舞台! カンパニーの皆様に支えられて、稽古から本番まで誰よりも練習をして挑んだ。挫折もした。

特に、演出・脚本・作詞の毛利(亘宏)さん、振付・ステージングの(本山)新之助さんは、僕の恩師です。あなたたちに褒めてもらえたあの日が忘れられません。

きっとあのときあきらめなかったのは毛利さんのおかげですし、もっとうまくなりたいと思ったのは新之助さんのおかげです。厳しさと愛は比例している。

僕がいる場所は想像よりも本気で熱くて涙が出るほどに、素肌で感情を感じられる場所なのだろう、と。それだけ本気になれるものに出会えることも奇跡なのだとは思うけれど。

あのときの全身全霊が、10年経った今でも僕の心と人生を設計しています。数多の試練を乗り越えて、あのとき叶わなかった夢も少しずつ手繰り寄せて。ひとりじゃないと思えたことも、すべて。

これを読んでくれたあなたの「もう少しあきらめないで続けてみよう」という一歩になればいいと、願っています。

僕が進めたように、あなたも進めるはず。だから僕は、誰かの背中を押し続ける。そんな特別なヒーローでいられたら幸せだ。

木津つばさエッセイ連載『舞台にさよならを言う前に』過去記事はこちら

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木津つばさ

(きづ・つばさ)1998年1月7日生まれ、広島県出身。舞台『刀剣乱舞』や舞台『東京リベンジャーズ』主演などを経て、2025年10月期のドラマ『良いこと悪いこと』(日本テレビ)にレギュラー出演