年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、22歳・タレントの奥森皐月。今回は、9月6日に決勝戦が放送された『MXグランプリ2026〜異端芸人決定戦〜』を振り返る。
目次
完全“他薦”のヤバすぎる異端芸人が大集結!
『MXグランプリ2026〜異端芸人決定戦〜』の決勝大会が、9月6日にTOKYO MXにて生放送された。
『MXグランプリ』とは、昨年TOKYO MXが開局30周年を記念して立ち上げたお笑い賞レースである。昨年チャンピオンの池城どんぐしさんの活躍もあってか、今年も無事に開催となった。
普段地下のライブに出演している芸人さんや、型破りで地上波ギリギリの芸人さんなどを「異端芸人」と名づけ、その中のトップを決める前代未聞の大会。『MXグランプリ』を観ているときは「“おもしろい”とはなんなのか」と今一度自分に問いたくなる。
出場者はキワモノぞろいだが、番組の出演者はやたら豪華。MCはケンドーコバヤシさんで、審査員にはハリウッドザコシショウさん、野性爆弾のくっきー!さん、FUJIWARAの藤本(敏史)さん、マヂカルラブリーのおふたりなどが並ぶ。
全国区の賞レースでも審査員を務めるような面々が、点数のつけようがないネタを観てヤジを飛ばすまでがこの番組の見どころである。
『MXグランプリ』の特徴として「出場するためには他薦されなければならない」という点がある。
『M-1グランプリ』や『キングオブコント』に対して「自薦だなぁ」と思ったことはこれまで一度もなかったが、『MXグランプリ』は自薦ではなく他薦。芸人さんやマネージャーさんから「この人はヤバい」とお墨つきをもらった人だけが予選に挑めるというシステムだ。
今年から新たに推薦者にも報奨金10万円が贈られることになり、エントリー数は昨年を大きく上回る244組となった。
とはいえエントリー数が244組というのは、お笑い賞レースにしてはかなり少ない。元手もなしに244分の1の確率で10万円が手に入ると考えると、なかなかすごい。来年以降は10万円狙いでの推薦がもっと増えるかもしれない。
昨年は月に1度の予選ステージが4回開催され、そこから勝ち上がった組が決勝に進んだ。しかし今年の予選は7月と8月の2回に集約されたのだった。
7月の予選ブロックでは1組しか勝ち上がらなかったので「今年は決勝をふたりでやるのか?」と戦々恐々としたが、8月の予選ブロックでは勝利した1組に加えて3組が追加合格し、5組で決勝を行うことに。
この世には、追加合格で決勝戦に進めるお笑い賞レースなど存在しない。「異端芸人決定戦」というサブタイトルがついているが、そもそもこの大会自体が異端なのだ。ゆるすぎるルールがこの大会の醍醐味である。
【予選Aブロック】2点から90点まで! まさかのパクリ芸も!?
今年の予選も、いい意味でひどかった。この大会において「ひどい」は最高の褒め言葉だということを念頭に置いていてほしい。
7月の予選Aブロックのひとり目で出てきたバチョフさんに、ハリウッドザコシショウさんは2点をつけ、マヂカルラブリー野田(クリスタル)さんは90点をつけた。
これだけで、いかにメチャクチャかがわかる。たいていのお笑い賞レースでは80点より低い点数がつくことはないが、『MXグランプリ』は1桁の点数が平気でつけられる。
次にネタを披露したけんじるさんは「ネタがパクリである」と審査員から口々に指摘され、5人の審査員による500点満点で155点というさんざんな結果となった。
しかし藤本さんからは「堂々とパクる心意気」を評価される意外な展開が。パクリもアリなら、もう本当になんでもアリだ。この寛容さこそが『MXグランプリ』である(これを寛容としていいのだろうか)。
そのようなカオスの極みの戦場でも、場を掌握するような素晴らしいネタが出てくる。2019年の『M-1グランプリ』におけるミルクボーイのような、きらめいて輝く瞬間がある。
昨年惜しくも準優勝だったふとっちょ⭐︎カウボーイさんが予選で披露した『キングコングvs箱の中身はなんでしょうゲーム』のネタは満場一致の高評価で、野田さんが「こういう人が『R-1』決勝に来てほしい」と言うほど。点数も500点満点で488点という、『キングオブコント』なら優勝確定の高得点を記録した。
ただ、『MXグランプリ』は「ネタの点数がすべてではない」という画期的なシステムを確立している。フリータイム審査という時間があり、そこでのアピール次第ではネタが0点でも決勝に進める可能性がある。もちろんそのアピールがマイナスになることもあるのだが。
今回の予選でふとっちょ⭐︎カウボーイさんは「ネタが高評価だったので、よけいなことをしない」という決断をし、そのまま見事決勝へ進んだ。つくづく変な大会だ。
【予選Bブロック】「サウナにヤクザが来る」ネタの圧倒的な爆発力
8月に放送された予選Bブロックでは、MCのケンドーコバヤシさんが体調不良で欠席。ハリウッドザコシショウさんが急遽MCになったことで審査員席が1枠空き、前日にオファーされたというツートライブの周平魂さんが審査員を務めた。
同じくこの予選の審査員だったウエストランド井口(浩之)さんが「審査員が急遽決まるってことは、誰でもいいんじゃないですか」と核心を突いていて笑ってしまった。
予選Bブロックでは、イチキップリンさんが『ひとり海賊団ソロ』というネタで爪あとを残した。
踊りながら「仲間になってくれ〜」というフレーズが繰り返されるリズムネタだったのだが、ネタが進むにつれどんどん疲れて息切れしていく様は苦しくなるほど笑ってしまった。
審査員のくっきー!さんが「今までの人生で一番おもしろかった」「『M-1』獲れるよ」とコメントしていたのは印象深い。
最後に登場した昨年のファイナリストの虹の黄昏は、「サウナにヤクザが来てしまう」という凄まじい題材のネタでその圧倒的な実力を見せつけた。圧倒的な、異端芸人力。『MXグランプリ』に向けて21年間刀を研ぎ続けていたのではないかとすら感じる。
ネタ終わりに井口さんが「正直、レベルが違います」「格が違う」とコメントしていたのには驚いた。近しい間柄の芸人さんを褒めなさそうな井口さんですら、まっすぐ評価するだけの爆発力があった。
しかし、間髪入れずに「虹の黄昏が“格が違う”感じがする大会ってなんだよ」と自らにツッコんでいた。虹の黄昏が輝ける大会ができたこと、私は心底うれしく思っている。
Bブロックは虹の黄昏が優勝したものの、さらに審議の上で歩子さん、大嶋の一番弟子さん、イチキップリンさんの3組も決勝へ進出。このシステムの杜撰(ずさん)さがおもしろい。ここまで自由でもいいのか、と思わせてくれる。
【決勝戦】ネタの時間よりも長い「感謝の手紙」で人間力を競う
最終的に5組が進出した決勝戦は「ネタブロック」と人間性を競う「人間力ブロック」の2ブロックで対戦。ネタと人間力の合計点が高かった2組が2本目のネタを披露し、最後は審査員による「合議制」で優勝を決める。
「合議制」という言葉を、お笑いの大会で初めて耳にした。最後の最後に点数で決めないというスタイルはなかなか革新的である。
ネタ時間は2分30秒。多くの賞レースの決勝戦が4分だというのに、この短さはすごい。ちなみに、最後に残った2組の最終決戦は、ネタ時間が2分となぜか短くなる。
2分というのは、『R-1グランプリ』や『M-1グランプリ』の1回戦の分数だ。たった2分で優勝が決まる。カップ麺ができるより速いなんて信じられない。
番組の生放送は2時間あるのに、ネタ時間は3分もなく、たった5組しか決勝に残っていない。なぜならば、先ほども記したとおり「人間力ブロック」があるからだ。ネタの時間よりもこちらのほうが長いくらい。
このブロックでは「異端芸人から感謝の手紙」ということで、各芸人さんたちがお世話になった人へ感謝の手紙を読み上げる。
このコーナーでふざけてボケることこそが「異端芸人」と思うかもしれないが、そうではない。昨年このコーナーで承子クラーケンさんが手紙を読まないで暴れたところ、ハリウッドザコシショウさんに「ここはまじめにやるところでしょう?」と諭されていた。
その甲斐もあってか、今年のファイナリストは5人とも真摯に感謝の手紙を書いて読んでいた。思わず涙があふれるくらいの温かな手紙で、番組が変わったのかと思うくらいの急ハンドル。感動する気持ちと「何を見せられているのだろう」という気持ちが同時に押し寄せてくる新感覚。
ちなみに、ネタブロックでかなりの点差がついてしまっていたため、この手紙によって誰かが逆転することはなかった。審査員の藤本さんが「人間力ブロック、いらないだろ」と元も子もないことを言っていて大笑いしてしまった。本当になんの時間だったんだ。
【最終決戦】安定した実力の異端芸人・虹の黄昏が優勝!
最終的に、ネタブロックで高得点を獲得していた虹の黄昏と、歩子さんが最終決戦に進出した。
『MXグランプリ』は決勝の生放送でもテレビ向けのネタにせず、インディーズライブと同じようなネタを披露したほうが高得点を獲得できる傾向にある。
虹の黄昏は昨年の反省を活かしてか、らしさ全開のネタで勝ち上がっていてカッコよかった。歩子さんも同様に、生放送とは思えないネタで、見事に最終決戦まで進んだ。
ちなみに私は2年連続で決勝を会場で観覧しているのだが、現場で観る異端芸人はひと味もふた味も違う。声量がすごいし、圧もすごい。
大会自体は審査ボードが手書きだったり、各審査員の点数の計算をスタッフさんが人力でしていたりと、とにかく「手作りの賞レース」という印象だ。
今年も審査員が本来書くべきでない欄に点数を書いてしまったり、CM中に点数の計算が終わらずスタジオが慌てふためいていたりと、小さなアクシデントが多発していた。全部含めて『MXグランプリ』という大会が愛おしい。
優勝者が決まる直前に、2組が「どれくらい優勝したいのか叫ぶ」という謎のコーナーがあった。
ここで笑いを取るのは難しいのでは?と思っていたが、歩子さんが「インドの人口くらい!」と絶叫したあと、酸欠なのか貧血なのかでふらついて倒れるアクシデントが発生。
これが、この日イチバンくらいにウケていた。心配する反面、まさに笑いの神が降りたような展開に感動してしまった。
合議制の結果、安定して圧倒的な実力を見せつけた虹の黄昏が、見事優勝を果たした。
お笑いが好きな人からすれば、虹の黄昏が「チャンピオン」になる日が来るなんて信じられないだろう。ヤバいけれどおもしろい人が評価される大会が設立されて本当によかった。
「おもしろさとは何か」なんて、わからなくていい
改めて決勝大会を配信で見ると、番組冒頭で流れていたVTRに心をつかまれた。
数多の異端芸人の映像が流れる中の「SNSでごちゃごちゃ分析してるんじゃねぇ」「脳ミソカラにしてただ笑え」というナレーションこそが“すべて”なのだと感じる。
「おもしろさとは何か」の答えなんて、わからなくていいのだ。
「なんかおもしろい」「なんか笑っちゃう」それだけでいい。これに気づかせてくれる『MXグランプリ』は今のお笑いに必要だ。来年も再来年も、いつまでも続いてほしい。
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