年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、22歳・タレントの奥森皐月。今回は、7月26日(日)に決勝戦が放送された『第47回ABCお笑いグランプリ2026』を振り返る。
目次
「芸歴10年以内」フレッシュな新世代が決勝に
夏になったということは『ABCお笑いグランプリ』の時期ということ。『第47回ABCお笑いグランプリ2026 presented by SCOグループ』決勝戦が7月26日(日)に放送された。
かつては『ABC漫才・落語新人コンクール』『ABCお笑い新人グランプリ』という大会名で、宮川大助・花子、ダウンタウン、ナインティナイン、ますだおかだ、中川家、フットボールアワー、キングコング、千鳥、かまいたちなどが最優秀新人賞を勝ち取ってきた、関西伝統の賞レース。
現在の『ABCお笑いグランプリ』は、結成年ではなく「芸歴10年以内」であることが出場資格のため、出場者の年齢が全体的に若く、フレッシュで実力のある芸人さんが集まる大会である。
今回大会は、エグい速さ、金魚番長、ぎょねこ、三遊間、ゼロカラン、江戸川ジャンクジャンク、センチネル、ダウ90000、ソマオ・ミートボール、生姜猫、ヨネダ2000、豆鉄砲の12組が決勝戦に勝ち上がった。
近年のファイナリストと比べると、世代交代した印象を受ける。準決勝ではほかの賞レースで結果を残している芸人さんが何組も敗退しており、芸歴4年目のエグい速さ、生姜猫、江戸川ジャンクジャンクなどの新世代が決勝に残った。
『ABC』史上初のオリジナルテーマ曲「我が栄光よ」
決勝の番組冒頭で、まず驚いたことがある。芸人さんたちの予選の様子などがまとまったオープニング映像で使われていた楽曲が、『ABCお笑いグランプリ』のことを歌っていた。
これまで『ABC』に独自のテーマ曲があった覚えがなく「なんだこの曲は」と思った。調べてみたところ「我が栄光よ」という楽曲で、かねてより「お笑いの賞レースの楽曲を手がけたい」と公言していたアーティストのsyudouさんが『ABCお笑いグランプリ2026』のテーマソングとして書き下ろした曲だそう。
『ABCお笑いグランプリ“2026”』のテーマソングということは、来年以降は使われないのだろうか。「お笑い」ではなく『ABCお笑いグランプリ』を歌っているのがよかったので、今後も使われてほしい。
異ジャンルを比べるには? 審査員と審査方法にも変化が
昨年は、審査員に変化があったのが印象的だ。ハイヒールのリンゴさんや矢野・兵動の兵動大樹さんが審査を離れ、新たにハナコの秋山寛貴さんとミルクボーイの駒場孝さんが加わった。
今回、秋山さんは続投で、駒場さんに代わって新たにニッポンの社長の辻クラシックさんが審査員に就任。
辻さんといえば、『ABCお笑いグランプリ』の1週間前に放送された『ダブルインパクト2026』でも審査員を務めていた。「先週ぶりだ」と思って観ていたら、本人も「『ダブルインパクト』から中5日で審査します」と話していた。
さて、今年からは審査方法が大きく変わった。昨年までは、ファーストステージはブロックごとに審査員が1位から4位までの順位を決め、その順位によるポイントを集計して、1位のみが勝ち上がるシステムだった。
しかし、今回は「ノックアウト・サバイバル」という審査方式になった。ファイナリストは4組ずつA・B・Cブロックに分かれ、ブロックごとに勝ち残り方式で勝者を決めていく。
1組目vs2組目、勝ち上がった組vs3組目、さらに勝ち上がった組vs4組目と進んでいき、最終的に勝利したほうがファイナルステージに出場できるシステムだ。『THE W』とまったく同じである。
これまでの審査は、1位から4位の順位が同じになることは少なく、審査員ごとに個性が出るのが好きだった。しかし今回は「どちらかを選ぶ」という構造になったので、以前よりも個性は出にくい。
その中で、かもめんたるの岩崎う大さんはほかの審査員とは違う審査をしていて、個性が出すぎていておもしろかった。「なぜその組を選んだのか」という基準も、コメントを聞くと納得できる。
「漫才」「コント」「ピン芸」とジャンルの異なるお笑いを比べるには、この方式のほうがわかりやすいのかもしれない。
【Aブロック】金魚番長、今大会最高レベルのネタを披露
大会全体のトップバッターとなるAブロック1番目のエグい速さは、2025年3月結成のコンビらしい。結成2年目にしてABCの決勝に進めるのは、その名のとおり“エグい速さ”だ。
結成2年目とは思えない堂々としたコントで、大会全体が勢いづいたように見えた。ネタ披露後にろまんさんが「優勝するまで喜ばない」と言いながら、野田クリスタルさんや辻さんに褒められて喜びを隠しきれない姿がとてもよかった。本当にうれしそうで、こちらまでうれしくなってしまう。
Aブロックのほかのメンバーは、3度目の決勝の金魚番長、2年ぶり2回目の決勝のぎょねこ、そして昨年の予選会で13位となりギリギリ決勝に残れなかった三遊間の3組であった。
金魚番長といえば、2年前の決勝のエンディングで「ワンピース歌舞伎」の格好をし、昨年のエンディングで古市勇介さんがゆってぃさんの格好で登場したのが印象深い。
どちらもファーストステージで負けてしまったことで発生した展開だったが、今年は初めてブロック勝利を収めたため、コスプレはお預けとなった。
ファーストステージで金魚番長が披露した『格安航空』の漫才は、今大会最高レベルのおもしろいネタだったと思う。
「スケベなB列の仲間たち」というフレーズは、大会が終わったあとに改めて思い出して笑ってしまった。審査員からの評価も高く、ぎょねこのコントも三遊間の漫才ももちろんよかったが、大差をつけて勝ち上がった。
【Bブロック】全国ツアー真っ最中のダウ90000が賞レースにも
Bブロックは、賞レース初決勝進出のゼロカランにはじまり、芸歴4年目の江戸川ジャンクジャンク、昨年ファイナリストのセンチネル、4度目の決勝のダウ90000という異色の戦いであった。
所属事務所も吉本興業・ワタナベエンターテインメント・太田プロダクション・オフィスカニバブルとバラバラだ。
このブロックで注目していたのは、やはりダウ90000だ。今回大会ファイナリストの中で『ABC』決勝進出回数は最多。岸田國士戯曲賞を受賞した同じ年に『ABC』も優勝してしまうのではないかと思っていた。
ただ、現在ダウ90000は、単独ライブ『40000』のツアー中。7月から12月まで全国10都市を回るツアーで、計63公演あるらしい。
先日私も東京公演を観に行ったが、ダウ90000でしか味わえないおもしろさを堪能できる素晴らしい単独だった。
大満足だった反面、1本10分以上あるコントを何本も披露する公演をこなしながら、賞レースに挑んでいることの恐ろしさも感じた。もはや、まったくの別競技だ。
テレビでしかダウ90000のネタを観たことがなくて、本気で「人数が多い」とだけ思っている人がいるなら、長尺のコントも観てほしい。
やはり8人全員が輝くネタはおもしろい。もちろん今回の決勝で披露していた、園田祥太さん大活躍のコントもおもしろかったが。
江戸川ジャンクジャンクのダイナミックなコントも、センチネルの「大食い大会」の漫才も、それぞれのトリオ・コンビの魅力が詰まっていて最高だった。
ただ、1番目に登場したゼロカランの凄まじい漫才の勢いは、ブロックの最後まで続いた。う大さん以外の審査員6人はBブロックでゼロカランにだけ票を入れていて、文句なしのファイナルステージ進出という結果だった。
逆にいえばう、大さんは一度もゼロカランに投票していなかったというわけだ。なぜなのかすごく気になってしまい、う大さんの有料noteを読んだらすべての選評が書かれていた。その解説を読んだら「なるほど」と納得できた。
【Cブロック】生姜猫vs豆鉄砲、ドラマティックな展開に
Cブロックは、ファイナリスト唯一のピン芸人、ソマオ・ミートボールさんで始まる最高の幕開け。
昨年の『大きなカブ』のネタも印象的だが、今回の『海賊船長』のネタも耳に残るメロディで忘れられない。
「腕がヴィーガン」「お腹インフル」「お尻が燃えるゴミの日」など強烈なフレーズの連発に、大笑いしてしまった。実際に劇場で生で観たら笑いすぎて危険かもしれない。会場でもウケているのが画面越しに伝わってきた。
ここに対抗するのが生姜猫。この1年くらいで一気に頭角を現した印象のトリオだ。2002年生まれの最年少とは思えない落ち着いた振る舞いと、カンサイさんの貫禄がおもしろい。
昨年の『M-1』ではセミファイナリストになり、今年の『ytv漫才新人賞』でも決勝に進んでいたため漫才のイメージが強かったが、今回の『ABC』で披露したコントは、これまで観た生姜猫のネタで一番おもしろいと感じた。
写真撮影が何度も繰り返されるネタなのに、最後までまったく飽きることなく夢中で観られた。3人いて明確なツッコミが存在しないこのコントは新しさもあり、とにかくおもしろい。このまま優勝するのではないかとすら思わされた。
実際、ソマオ・ミートボールさんにも、過去3度決勝に進んでいるヨネダ2000にも、満票で勝利。生姜猫は、あと一歩でファイナルステージに進出できるところまで進んだ。
そのようななかで、Cブロックの最後に現れたのが豆鉄砲。『M-1』準々決勝に2度進出し、昨年は『ツギクル芸人グランプリ』でも優勝した、まごうことなき実力派漫才師だ。
ここで披露した『新幹線弁当』のネタは、豆鉄砲の漫才の中でも傑作のネタで、生姜猫とどちらが勝ち上がるのかはまったく想像できなかった。
審査は向かって左側の山内健司さんから順番に投票した組が発表されるのだが、「生姜猫」「生姜猫」「生姜猫」と3票入り、生姜猫がファイナルへ進出すると確信した。
ところが、残りの4人は全員「豆鉄砲」に投票。というわけで、ファイナルに進んだのは豆鉄砲であった。
それまでの試合はわかりやすく票が分かれていたのに、最後の最後にここまで僅差の戦いが生まれるとは。なんともドラマティックな展開だ。
ゼロカランが優勝! 『健康診断』のネタが爆発
今大会のブロック勝者は3組とも漫才師。間違いなくこれからの世代を担う3組が並ぶ、非常に見応えのあるファイナルステージとなった。
ファイナルステージは各審査員がそれぞれ100点満点で点数をつけて、最終的に3組の点数が同時に発表される。金魚番長・ゼロカラン・豆鉄砲の順番にネタが披露されたが、本当にどの組が優勝するかわからないほど、3組ともおもしろかった。
点数も接戦になるかと思いきや、金魚番長651点、豆鉄砲656点、ゼロカラン668点と意外と差がついて、ゼロカランが優勝に輝いた。
審査員ひとりあたりの平均点にすると、金魚番長が93点なのに対し、ゼロカランは95.4点とかなり高い。審査員それぞれの点数は出ないため実際のところはわからないが、多くの審査員がゼロカランに最も高い点数をつけたのではないかと想像できる。
確かにファイナルで披露した『健康診断』のネタは、すべてのボケとツッコミがハマっていて、3組の中で一番爆発していた。
ここから『キングオブコント』『M-1』王者が生まれる可能性も
近年の『ABCお笑いグランプリ』は、何度か決勝進出していたコンビが「今年こそ」という姿勢で優勝している印象だったが、ゼロカランは初決勝でいきなり優勝。これは2019年のエンペラー(現・華山)ぶりのようだ。
ついでに気になって調べてみたところ、コントだけで優勝したのは2018年のファイヤーサンダーが最後だった。吉本興業以外で優勝したのもファイヤーサンダー以来いない。
「この記録がいつ塗り替えられるのだろう」というのもひとつの楽しみにしているのだが、今年も塗り替えられることはなかった。
テーマソングの「我が栄光よ」の歌詞にも「MKRの前にABC」とあったが、今回のファイナリストから『キングオブコント』王者や『M-1』チャンピオンが生まれる可能性もじゅうぶんにある。
特にゼロカランは、ワキさんが『ツッコミ芸人No.1決定戦 ツッコミスター』でも準優勝を収めており、年末にもチャンピオンになるかもしれない。
改めて、『ABCお笑いグランプリ』は若手お笑い界の現在地を示してくれる重要な大会だと感じた。『ABC』、ありがとう。
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