年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、21歳・タレントの奥森皐月。
今回は、6月29日(日)に放送された『第46回ABCお笑いグランプリ2025』決勝戦を徹底解説。
目次
今年の『ABC』は賞レースの優勝経験者が勢ぞろい!
『第46回ABCお笑いグランプリ2025』の決勝戦が6月29日(日)に放送された。
芸歴10年以内の実力者たちが集まる関西伝統の賞レース。今年もハイレベルで白熱した戦いが繰り広げられた。
今回のファイナリストは金の国、家族チャーハン、センチネル、天才ピアニスト、Gパンパンダ、ザ・マミィ、エバース、金魚番長、ソマオ・ミートボール、フースーヤ、かが屋、ハマノとヘンミの12組。
『NHK新人お笑い大賞』、『NHK上方漫才コンテスト』、『女芸人No.1決定戦 THE W』、『上方漫才協会大賞』、『関西演芸しゃべくり話芸大賞』、『ツギクル芸人グランプリ』、『ワタナベお笑いNo.1決定戦』、『UNDER5 AWARD』、『マイナビ Laughter Night チャンピオン大会』、『ytv漫才新人賞』、『ビートたけし杯』の優勝経験者が勢ぞろい。
もちろん『M-1グランプリ』や『キングオブコント』のファイナリストもいる。お笑いの賞レースが増えているとはいえ、大半がタイトルホルダーというのはすごい。安定感のある顔ぶれだ。
それゆえに優勝予想も難しく、どの組が優勝してもおかしくない猛者ぞろいの大会であった。
ハナコの秋山も参戦! 審査員メンバーの刷新
今大会での注目ポイントのひとつは、審査員の大幅な変化だ。
毎年、ハイヒールのリンゴさんと矢野・兵動の兵動(大樹)さんが固定メンバーのような印象だったが、今大会は不在。昨年、初審査員となった立川志らくさんもいなかった。
今回はこれまでも審査員を務めていた、かまいたちの山内健司さん、ダイアンのユースケさん、陣内智則さん、かもめんたるの岩崎う大さんに加え、新たに『M-1』チャンピオンのミルクボーイの駒場孝さんと、マヂカルラブリーの野田クリスタルさん、さらに『キングオブコント』チャンピオンのハナコの秋山寛貴さんが名を連ねた。
駒場さんと野田さんは過去にほかの賞レースで審査員をする姿を見たことがあるが、秋山さんは一度もない。この中で圧倒的に若く、ファイナリストと芸歴や年齢が最も近い存在なので、どのような審査をされるのか楽しみに思っていた。
昨年チャンピオン・令和ロマン不在で大会スタート
『ABCお笑いグランプリ』は毎回、前年チャンピオンをはじめとしたゲストの漫才が冒頭にある。ところが今年はゲストがひと組もおらず、いきなり審査が始まった。
昨年のチャンピオンは令和ロマン。高比良くるまさんの事務所退所があったからかと邪推してしまったが、単純に『M-1』ツアーの広島公演と日程が被っていたからのようだ。
今回の『ABC』ファイナリストであるエバースとフースーヤもツアーに出演予定だったそうなので、それ以上の穴はさすがに空けられなかったのではないかと思った。あとは単純に放送時間の問題のよう。
個人的には『ABC』の賞レースでありながらお祭り感もある雰囲気が好きなので、いつかまた優勝者のネタ披露が復活するとうれしい。
吉本芸人以外の優勝歴に、すごさを思い知る
今年のファイナリストは半分が初決勝で、半分がリベンジ組。そして半分が吉本興業所属で、半分がそれ以外のお笑い事務所所属者だ。
また、コントと漫才の割合も半々くらいという、バランスのいいラインナップだった。
ここ5年の結果はすべて吉本興業所属の漫才師が優勝している。ここ10年で見ても、いわゆる“他事務所”が優勝したのは2018年のファイヤーサンダーだけだ。毎年この記録を見て、ファイヤーサンダーのすごさを思い知らされている。
ちなみに、さらにその前に吉本興業以外の事務所の芸人さんが優勝したのは、さらに15年前の2003年でチョップリンらしい。やはり記録としてすごいので、そろそろ2018年の『ABC』を視聴しようと思う。
Aブロック:金の国、家族チャーハン、センチネル、天才ピアニスト
ゲストによるネタの披露がない状態で、正真正銘のトップバッターとなったのは金の国。
つい2週間前に『ワタナベお笑いNo.1決定戦2025』で優勝したばかりという勢いのある組だ。実際、一番手とは思えない会場の盛り上がりで、一気に今年の大会へのワクワクが高まった。
ネタが終わるとさっそく審査員コメントの時間が始まる。
金の国のネタに対し、う大さんと秋山さんがそれぞれ「こんなリアクションのパターンも見てみたい」「こんな続きの物語もできそう」という、コントを作りすぎている人の意見を言っていたのがおもしろかった。審査員でありながらも、同じ作り手として提案をするようなコメントは新鮮味がある。
う大さんは番組冒頭で「3回目の審査員で余裕が出てきた」というようなことを話していた。実際、毎回まっすぐな意見や感想を述べていて、『しくじり先生』での恒例企画「キングオブう大」を彷彿させる振る舞いだった。
Aブロックの中で最も優勝に近いのではないかと思っていたのが、天才ピアニストだ。
ブロック唯一の決勝経験者で、今回が4年連続4回目のラストイヤー。数々の賞レースで優勝し、「趣味:賞レース、特技:勝つこと」という最高にカッコいいコンビ。
昨年のタクシーのネタもおもしろかったが、今年のテレビのネタもすごく笑った。明転した瞬間から、ますみさんのお母さん感と、竹内(知咲)さんの学生感が生み出すリアルな食卓がおもしろい。
駒場さんによる「漫才もやっているからこそ、中身の言葉も強さがある」というコメントのとおり、設定だけでなく短い会話の中にも笑えるところがたくさんあって、特に好きなネタだった。
会場の笑い声も大きかったので勝ち上がったと思ったが、Aブロックは家族チャーハンが勝ち上がり。結成からの期間が最も短い組ではあったが、ふたりのキャラクターを感じられる漫才が審査員から好評で、7人中5人から1位に選ばれた。
Bブロック:Gパンパンダ、ザ・マミィ、エバース、金魚番長
ファーストステージBブロックはGパンパンダとザ・マミィという実力派コント師と、エバースと金魚番長という劇場で大活躍の勢いのある漫才師によるバトル。
どの組が1位になっても納得できるくらいそれぞれのベクトルのおもしろさを感じた対決で、コントと漫才が同時に披露される賞レースの審査の難しさを感じた。
私としてはザ・マミィの『パワハラ』のネタが刺さって、大会が終わってからも数回観返した。ザ・マミィの共感できない“ヤバさ”のようなものが好きで、このネタもその魅力をたっぷり感じられてうれしかった。
これは今年の単独ライブのネタで、ザ・マミィのYouTubeチャンネルにフルバージョンが公開されたので、今後もありがたく観ようと思う。
金魚番長の『ロボットコンテスト』のネタもおもしろかった。審査コメントの際に、駒場さんが「箕輪(智征)さんの動きが仕上がっている、古市(勇介)さんのだらしなさも仕上がっている」と言っていたのが印象的だった。
そこですかさず、野田クリスタルさんが「浮気野郎」とつぶやいていて大笑いした。
金魚番長といえば、今年5月に古市さんが「浮気をして彼女に振られて仕事を飛ばした」というエピソードを、自身のPodcast番組『金魚番長のデメキング』で話し、話題になっていた。逃すことなく小さな声でそれを差し込んだ野田さんに、私は小さく拍手をした。
熱い戦いだったが、実力はもちろんのこと、審査員が口々に「ミスがない」「完璧」「無駄がない」と称したエバースがファイナルに進出。
『M-1』ファイナリストから勢いを止めることなく活躍するエバース。審査員全員がブロック1位に選び、満場一致の結果となった。
Cブロック:ソマオ・ミートボール、フースーヤ、かが屋、ハマノとヘンミ
Cブロックは、今大会唯一のピン芸に、コントのフースーヤ。最も異種格闘感のあるブロックだった。
ソマオ・ミートボールさんの『大きなカブ』のネタはとにかく耳心地がよくて、繰り返し聴いていたら口ずさめるようになるような中毒性のある音ネタだった。
後半の複雑な言葉のパートは覚えて言いたくなるようなフレーズで、TikTokに音源があれば学生がこぞってまねをしそうだと感じた。審査コメントでユースケさんに「音なしでもいける」と言われ、すかさず音なしバージョンを見せていたところも最高だった。
かが屋の『占い』のコントは衝撃的なおもしろさだった。近年のお笑いのネタの中でも一番好きかもしれない。
ふたりのキャラクターも展開もいいし、心を揺さぶられる終わり方に思わず声を出してしまった。う大さん、秋山さんともに「いいもの、いいコントを観た」というようなコメントをしていて、ストレートな褒め方が素敵だった。
このネタができた約2年前から、女性役のために加賀(翔)さんはずっと髪を伸ばしているらしい。かが屋のネタでは加賀さんも賀屋(壮也)さんも女性役をされることがあるが、どちらもあまり化粧っ気がなく地毛なのに、女の人にしか見えなくてすごい。
フースーヤはフースーヤらしさを爆発させているネタで、ファイナルに進む可能性がじゅうぶんにあった。結果は7人中4人がかが屋を1位にし、唯一のコントでファイナルに勝ち上がった。
ほかの3人がどの組を1位にしていたのか気になるが、それが開示されないのもABCのよさだとも思う。
ファイナルステージ:かが屋、エバース、家族チャーハン
ファイナルステージはかが屋、エバース、家族チャーハンによる三つ巴の戦い。ファーストの順位などは関係なく、審査員ひとり100点満点で点数をつけた合計点による勝負となる。
かが屋とエバースは昨年どちらもファーストステージで敗退していて、今年がラストイヤーだった。
放送内でも話されていたが、この1年でふた組はたびたび戦っている。エバースも出場した『マイナビ Laughter Night』第10回チャンピオンライブではかが屋が優勝。一方で同じく2024年の『NHK新人お笑い大賞』ではかが屋も出場し、エバースが大賞に選ばれていた。
3組ともそれぞれのカラーを感じるネタで、これまた白熱の闘い。どれだけ点差がつくか想像もつかず、もしかしたら同点なんてこともあるかもとよぎるほどのファイナルだった。
最終的にかが屋649点、家族チャーハン652点、エバース667点で、エバースが堂々の優勝。ファーストステージの勢いそのままにチャンピオンの座に輝いた。
町田(和樹)さんがチャンピオンベルトを肩にかけていたのが妙に似合っていて、さっそく王者の風格が漂っていた。
『ABC』ファイナリストが、今年の賞レースの中心に立つ
昨年『ABC』で優勝したあとに令和ロマンは『M-1グランプリ』2連覇を達成している。
勢いづいたエバースの今年の『M-1グランプリ』はもちろん、今大会のファイナリストが今年の賞レースの中心に立つことは間違いないであろう。
本格的な夏に差しかかる直前にこの『ABCお笑いグランプリ』があることで、下半期のお笑いがより楽しみになる。この時期に開催してくれていることに感謝したい。
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