ぺこぱ独占インタビュー【後編】優しいからではない。受け入れるツッコミの原点

2020.2.6

これまでの試行錯誤が走馬灯のように

──それにしても、M-1モードになってネタ作りに打ち込んで、それで実際にM-1のファイナリストになって、しかも3位になって爪痕を残しまくったのは本当にすごいことですよね。

シュウペイ 「これで今年もM-1落ちたら、来年も本当になんもないんだろうな」ってめちゃくちゃ不安ではあったんですよ。僕らも30代に入って年齢的なものもありますし、M-1目指してネタ作りはがんばってたけど、相方は葬儀屋のバイトでメンタル相当やられてたんで、落ちたらコンビ解散まであるかもなって。

松陰寺 葬儀という悲しみの最前線にいたんで……。棺桶を運んだあと、ライブに行って「はいどうも〜」ってやるわけですから。わけがわからなかったですね。

シュウペイ あと、ネタ的に今年落ちたら来年はかなりキツくなるって話もしてたよね。

松陰寺 システムの物珍しさが売りだったので、手の内がバレるとインパクトが薄くなるじゃないですか。準決勝で敗退すると敗者復活でネタを見せるわけで、それもキツい。決勝に行くなら今年しかないって思いはありました。

シュウペイ 僕はサッカーも途中で辞めてしまったし、これまで何かひとつを成し遂げたことってなかったんですよ。同級生は仕事で出世して家買ったり結婚したり、それこそサッカーで日本代表になったりしてるのに、こっちは居酒屋のバイトで千切りだけがうまくなるばかりで(笑)。だから今年はまわりに「絶対にM-1決勝行く」って宣言して自分にプレッシャーをかけて、気持ちを高く保つことを意識してました。

松陰寺 ネタ合わせしようって言ってるのにアプリのゲームやってたじゃねえか!

シュウペイ それは、クリアしてからやろうってことじゃん(笑)。

ぺこぱ独占インタビュー【後編】優しいからではない。受け入れるツッコミの原点
走るぺこぱ

──それでも宣言通り決勝に進みました。

松陰寺 決勝戦の前に師匠のTAIGAさんと3人で飲みに行ったんですよ。TAIGAさんも「R-1ぐらんぷり2014」で決勝に行ってたんで、「俺の失敗をお前らに伝える。同じ失敗を絶対してほしくないから」って。

シュウペイ 安い居酒屋に連れて行ってもらったよね。

松陰寺 そこは「高級なお店で」とかでいいだろ……。そのときにTAIGAさんから、「優勝できたらいいな」とか「爪痕残そう」とかじゃなくて「絶対に優勝する」って気持ちで行けとアドバイスをいただきました。それくらい前のめりでなきゃダメだから、とすごい言われて。

シュウペイ あははは。

松陰寺 笑うなよ! お前が笑ってどうすんだよ、師匠だろ。

──師弟愛が伝わるエピソードですね。

松陰寺 それはさておき、あの日M-1決勝の舞台で「キャラ芸人になるしかなかったんだ!」ってセリフを叫んだとき、ヒップホップやボーイズラブ、着物やローラーシューズなど、これまで模索してきたさまざまなものが走馬灯のようによみがえってきたんですよ。あのセリフはM-1のわりと直前にできたもので、伝わるかわからないからやめようか迷ってたんですが、お客さんがすごく笑ってくれて、「ああ……俺たちの歴史がちょっとでも伝わったのかな」って、軽くジーンとしてしまった。

シュウペイ 僕はM-1の取材のときに「1日で人生を変えたい」みたいなことを言ったんですけど、それまで何も成し遂げたことのなかった自分たちが結果を残すことができて、バイトをせずに毎日芸人の仕事をやれるようになったんで、一応は人生を変えることができたのかなと。

──ギャル男時代にイメージしていた「伝説」も充分に作れたのでは?

シュウペイ 理想は「SHIBUYA109」のデカい看板に載ることだったので、これからですね。あと「東京ガールズコレクション」のランウェイも歩きたいです。

松陰寺 悪くないだろう。僕らは「一番遠回りな近道」を歩んできたので、これまでのことはすべて必要なプロセスだったと思ってます。これからも油断せず、目の前のお仕事を全力でやるだけですね……決まった(ピューウ♪)。

ぺこぱ独占インタビュー【後編】優しいからではない。受け入れるツッコミの原点
振り返るぺこぱ

漫才さながらの掛け合いを織り交ぜつつ、12年の歴史と紆余曲折を楽しく語ってくれたふたり。ぺこぱの漫才は「優しいのにおもしろい」という奇跡を実現しており、そこには鋭い批評性が宿っているような気がする。

この取材を通して感じたぺこぱの革新性は、掲載中の「クイックジャーナル」(ぺこぱ“NEO優しい”の衝撃「優しいのにおもしろい」という革命)で改めて論じている。

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清田隆之

(きよた・たかゆき)1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。 『cakes』『すばる』『現代思想』など幅広いメディアに寄稿するほか、朝日新聞..

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