今年10月から配信される『PRODUCE 101 JAPAN』シーズン3は、初のガールズオーディション番組。先日、本オーディションの参加者となる練習生が発表された。その中でも特に注目を集めているのが、ハロー!プロジェクト出身の笠原桃奈だ。
ハロー!プロジェクトのファンであり、日本アイドルのサバイバル・オーディション番組の審査員を務めたこともある振付師・竹中夏海氏が、笠原桃奈の参戦が話題になっている理由、そして視聴者が番組を観る上での心得を説く。
目次
JO1とINIを輩出した「日プ」のガールズオーディション
「日プ女子」にとうとう元ハロメンが参戦──。
ハロヲタ界隈にとってのビッグニュースが飛び込んできたのは、9月2日のことだった。
世界からの注目度が高い、韓国アイドルのサバイバル・オーディション番組『PRODUCE 101』の日本版『PRODUCE 101 JAPAN』(以下、日プ)シリーズは、過去にJO1とINIを輩出している。
そして、今回初のガールズオーディション(以下、日プ女子)が開催されることが決まり、募集段階から話題になっていたが、このたび101名の練習生(5名辞退)が発表された。
その中には、LE SSERAFIMの宮脇咲良を輩出したHKT48の元メンバー、NiziUのRIOの古巣であるLDHの人気グループ・Girls2の元メンバー、韓国で人気を博すCherry Bulletの元メンバーなどのほかに、数々のサバイバル・オーディションで注目を浴びたメンバーも参加し、すでに話題となっている。
中でも、2年前までハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)内の人気グループ・アンジュルムのメンバーだった笠原桃奈の参加が判明するやいなや「笠原桃奈さん」「桃奈ちゃん」「かっさー」「KASAHARA MOMONA」が、X(旧ツイッター)で連日トレンド入りするほど。
ハロー!プロジェクトファン(以下、ハロヲタ)はもちろんのこと、アンジュルムファンを公言する著名人や、アップフロントの“中の人”ともいうべき、たいせい(シャ乱Q)からもエールを送られている。
「日プ女子に笠原参戦」が歓迎される理由
なぜ、これほどまでに「日プ女子に笠原参戦」は歓迎されているのか。そこには、ハロヲタが長年抱えつづけてきた、あるジレンマが関係していると思われる。
私自身はベリキュー(Berryz工房と℃-ute)が活動していた時代のハロヲタで、現在はそこまで熱心にハロプロを追えている自信はない。
それでもやはり、根源にはどこかあるのだ。「日本一のパフォーマンス集団は、今も昔もずっとハロプロで、世界にだってきっと通用する」という誇りが。
ハロプロは今年で25周年を迎え、今や日本を代表する老舗アイドル集団となった。
「アイドル戦国時代」と呼ばれ、何百・何千ものアイドルが生まれたり、48及び坂道グループが握手会や選抜制で世を席巻した2010年代。そのずっと前から、ハロプロは日本のアイドル界の先頭を走りつづけてきたのだ。
そのせいか彼女たちは、これだけアイドルが増えた現代においても、他界隈からどこか“孤高の”パフォーマンス集団と思われている節がある、気がする。
そこに2010年代初頭から黒船のごとく現れたのが、少女時代やKARAを筆頭とするK-POPグループだった。
1980年代におニャン子クラブが残した「アイドル=素人感」のイメージを日本がなんとなく何十年も更新し切れないでいるうちに登場した、K-POPアイドルたち。
その「アイドル」という響きからは想像もつかないほど洗練された姿やパフォーマンスに、驚く日本人が当時ほとんどだったように思う。
そして彼女たちに熱狂する層と既存の日本アイドルファン層がそこまで一致しなかったことからか、「K-POPアイドルファン=完成されたパフォーマンスや容姿が好きな層」「日本アイドルファン=原石感のあるメンバーやその成長過程を見守りたい層」とうまく棲み分けされている、と思われてきたのだ。
推しの“パフォーマンス力”に誇りを持つハロヲタ
ところがそこから10年も経たないうちにK-POP文化はさらに進化や成熟をつづけ、子どものころからそれに触れて育ってきた若年層が、次々にK-POPアイドルを目指すようになった。
一方、日本のアイドル文化はというと(一部例外はあるものの)、広い目で見れば大きく進化も退化もしていない。パフォーマンス力を向上させたいと思っているメンバーと「そこに需要はないので予算や時間を割く必要はない」と考えている運営とで考え方に溝が生まれる、という構図は残念ながらこれまでに何度も目にしてきている。
その中でずっと異質な存在だったのが、ハロプロだと思う。パフォーマンス至上主義を貫き、どんなにひときわ目を惹くビジュアルを持ったメンバーがいたとしても、歌割りの量やダンスの立ち位置は実力が物を言う。
2014年から毎年開催されているハロプロ研修生の『実力診断テスト』というイベントがそのいい例で、研修生たちは日頃のレッスンの成果をファンの前で披露し、優秀者には賞が贈られる。
いわば、韓国式の練習生制度と、日本式の「成長過程を見守りたい」需要のハイブリッドのようなイベントである。
こうした事務所とメンバーの姿勢から、ハロヲタと呼ばれる人の多くは、推しの高いパフォーマンス力に誇りを持つ層が集まりやすい。
この10年でハロプロのファンクラブの男女比は逆転したといわれていて、つまりメンバーと同性の女性たちから熱く支持されるようになったということだ。
日本のアイドル界全体で見ても比較的「ガチ恋層」が少ない、といわれているのもまたハロヲタの特徴だと思う。
そんなハロヲタだからこそ、パフォーマンスにシビアなK-POPグループに推し増し/推し変をする、という現象は私のまわりでも少なくなかった。流れを考えればごく自然ともいえる。
ハロプロとK-POPの「パフォーマンスの違い」
そしてK-POPには明るくないハロヲタの知人たちからよく聞かれたのは、こんな質問だ。
「ハロメン(ハロプロメンバーの略)がやっているダンスって、K-POPとどっちが難しいの?」
この返しが絶妙に難しく、なぜかといえば、振り付けにおける「考え方」が両者で微妙に違うからなのである。
ハロプロのパフォーマンスにおいて最もプライオリティが高いのは、やはり「歌」なのだ。
基本的にハンドマイク(現状の技術では一番声が入りやすいといわれている)を持ち、「歌うための振り」が付けられているように思う。
もちろんあれだけ激しいダンスをしながらも、一人ひとりの歌声が生の歌唱でほとんどブレないメンバーは“体力おばけ”なことに間違いはないのだが、ソロパートで本当の本当にめちゃくちゃな振りが付いているところは、実はあまり見かけない。
一方でK-POPアイドルのパフォーマンスは、まず「ダンスを見せる」ことに重きを置いているように感じる。
数多くの練習生の中から勝ち抜き、デビューするメンバーの歌唱力が高いことは周知の事実ではあるものの、グループとしてはまずダンスで魅せることを最優先しているパターンが多い。
そのためヘッドセットで両手の振り付けをするのが基本だし、ソロパートでこそ上体をのけ反ったり、開脚したりヘッドロールするといった、いわば“ムチャな”振りを付けることで歌唱メンバーに華を持たせ、目が行くような工夫が施されていることがよくある。
日本とは逆に、例外的にバラードのような「歌声をしっかり聴かせたい」曲ではハンドマイクに持ち替え、これを持つことで観客もまた「お、これは歌が中心のパフォーマンスなのだな」と観るスタンスを変えることができる合図になっているのだ。
これはいうまでもなく「何を一番優先的に見せたいか」の考え方の違いなだけで、どちらが優れているかと議論するだけナンセンスだと個人的には思っている。
でも、だからこそ一部ジレンマを抱えるハロヲタは生まれやすいのかもしれない。
プロデュースやクリエイティブが大きく影響する動画のPV数や興行の動員数ではなく、純粋に彼女たちの実力という面で、「世界でも通用するレベルを持っていると証明できる何か」はどこかにあるはずなのに、それが具体的になんなのかははっきり示しようがなかったからだ。
待ち望んでいた「世界で勝負する元ハロメン」
そこに来て、今回の「日プ女子に笠原桃奈参戦」のニュースである。
実際のところ、日プ出身の先輩グループにあたるJO1とINIを見ると、活動拠点の中心はしばらくは日本になる可能性が高い。それでも世界中から注目されているオーディションに変わりはないのだ。
12歳でハロプロ研修生となり、その後アンジュルムのメンバーとなってからは5年以上活動してきた、いわば“ハロプロ純粋培養”の笠原。
そんな次世代エースともいわれていた彼女が2年前、「ずっと自分の中で秘めていた夢」を叶えるべくグループ卒業を決めた。
こうしたサバイバルオーディションが開催されるたび、笠原の名前を探すファンは少なくなかったはずだ。
ハロヲタはよく「ハロプロから抜けた元メンバーの活動には興味を示さない」と揶揄されることがある。
しかしこの連日の盛り上がりぶりを見る限り、いつか世界の土俵に立って勝負してくれる人物が現れることを待ち望んでいたファンは想像以上に多かったのではないかと思われる。
「生身の人間を推す」ことの責任と危うさ
とはいえ、どんなに注目されていたり、すでに経歴のある候補者でも「最後まで何が起きるかわからない」のがサバイバル・オーディション番組の恐ろしいところ。
ゆえに候補者の精神的負担は計り知れず、実際にオーディションの審査員を何度も務めている私ですら、いつまで経ってもこうした番組はなかなか直視することができない。
ぜひ、候補者には然るべきメンタル及びフィジカルのケアが施されていると信じたい。
そしてまた“国民プロデューサー”と呼ばれる視聴者にも、備えておくべきリテラシーは必ずある。
そうでなくとも候補者はオーディション期間中、自分の人生を懸けて戦う姿を世界中に晒しつづけることになるのだ。ネットを介してリアルタイムで届く声に、文字どおり、生かしも殺されもする可能性があることを、視聴者全員が自覚しなくてはならない。
さらにはこうしたサバイバルオーディションでは往々にして、オーディション期間中が活動の盛り上がりのピークだった、ということがある。
「持続可能なアイドル活動」を日々願う立場としては、こうした現象も、番組を心からは楽しみづらい理由のひとつなのだ。
スタートダッシュで最大風力を出すことは、確かにその後の活動を円滑に進めるにあたって重要なことではある。しかしあくまでそれは彼女ら/彼らにとって、キャリアの出発地点でしかない。
その後何年もつづくアイドル人生を、同じ熱量で共に歩みつづけてくれるようなファンの獲得を願わずにはいられない。
サバイバル・オーディション番組を視聴する際は特に、「生身の人間を推す」という行為の責任と危うさを忘れないでいたいのだ。
【連載】PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS REPORT
『Lemino(レミノ)』にて独占無料配信されている『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』(日プガールズ、日プ女子)の練習生プロフィールや順位発表式の結果など、定期的なレポートを連載中。
- 【連載】竹中夏海のアイドル現代学
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