モーニング娘。はなぜ夏フェスに強いのか。「体力おばけ」を育てた“根性論”や“精神論”ではないトレーニング方法とは?

文=竹中夏海 編集=菅原史稀


最新のニュースから現代のアイドル事情を紐解く。振付師・竹中夏海氏がアイドル時事を分析する本連載。

今回は、アイドルやファンにとって夏フェスを楽しむ上で欠かせない暑さ対策の重要性を考えつつ、今年も『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』で圧巻のパフォーマンスを披露し、アイドルファンのみならず多くのオーディエンスを魅了したモーニング娘。が実施する“特別トレーニング”について紹介する。


夏のアイドル現場は、なぜ危険?

今年の夏は暑かった。

毎年そう言っている気がしなくもないが、実際、平年と比較すると九州南部では18日、東海や関東甲信では22日早い梅雨明けとなり、各地で最短の梅雨期間を記録したそうだ。関東では8月に入ってから猛暑日がつづくことも多かった。

コロナ禍以降、中止を余儀なくされてきた音楽フェスも今年は決行されるケースが増えている。アイドル界でいえば世界最大級のアイドルイベント『TOKYO IDOL FESTIVAL』は2020年が中止、2021年は10月に延期されたため、夏の開催は実に3年ぶりとなった。そのためか、今年はいつも以上に熱のこもったパフォーマンスが各ステージで見受けられた気がする。

こうした環境で、感染予防対策と同じくらい留意しておきたいのが熱中症予防対策である。夏の野外で開催されるアイドルフェスは、他のイベントと比べても特に熱中症被害を耳にする機会が多いように思う。ステージの合間を縫って特典会も行われることや、出番が1日の中で何度もあることなどが理由として考えられる。つまりアイドルもファンもそしてスタッフも、息つく間がほとんどないのだ。

「急に来る」から怖い熱中症。“暑さに慣れさせる体作り”が鍵となる

そこで私の主宰する「アイドル専用ジムプロジェクト」のトレーナーが行っている配信番組の中で、アイドル自身やファンの熱中症体験談を募集したところ、以下のような声が寄せられた。

【アイドルからの声】
・野外イベントの際に熱中症になり、冷えピタをつけて特典会をした。
・ステージより熱がこもりやすいテントでの特典会がきつい。先日は暑いはずなのに寒気がした。
・病院に行ったことはないけれど、野外ライブのたびに頭痛と吐き気がする。

【ファンからの声】
・推しに会いに遠征している最中、水を飲むのを疎かにしてしまい見知らぬ土地で救急車に運ばれた。
・野外ライブから推しの生誕祭を回した際に電車の中で頭痛と吐き気、手足が痺れた。
・野外ライブで倒れる寸前に。水分補給と睡眠時間が足りてなかったことが原因かなと思われる。
・屋内だったが倒れて救急車で運ばれた。一応水分も500ml摂ってたものの、症状は思った以上に急に来る。

『アイドル専用ジムプロジェクト 特別番組』(2022年8月まで期間限定アーカイブ公開中)

熱中症は「どこからが」と判断がつかずに、対処が遅れてしまう場合も多い。「目と鼻の先に推しがいる」といった環境下ではよけいに見過ごしてしまうこともあるかもしれない。ここで今一度、熱中症の症状をさらっておきたい。

症状1:めまいや顔のほてり

症状2:筋肉痛や筋肉のけいれん

症状3:体のだるさや吐き気

症状4:汗のかき方がおかしい(ふいてもふいても汗が出る、もしくはまったく汗をかいていないなど)

症状5:体温が高い、皮ふの異常(皮ふがとても熱い、赤く乾いているなど)

症状6:呼びかけに反応しない、まっすぐ歩けない

症状7:水分補給ができない

出典:日本気象協会推進 熱中症ゼロへ

もしも熱中症かなと思った場合は、

・すぐに医療機関へ相談、または救急車を呼ぶ

・涼しい場所へ移動する

・衣服を脱がし、体を冷やして体温を下げる

・塩分や水分を補給する(おう吐の症状が出ていたり意識がない場合は、むりやり水分を飲ませない)

出典:日本気象協会推進 熱中症ゼロへ

が大事だそうだが、シーズンを通して暑さに負けない体作りをつづけることは熱中症の予防対策になるという。その方法のひとつに「暑熱順化」というものがある。これは読んで字の如く、暑さに慣れさせる体づくりのことだ。具体的には気温が高い環境で体を動かしたり、入浴をする。個人差はあるがこれでだいたい、数日〜2週間程度で適切な発汗や暑い環境での体温調節ができるようになるのだそうだ。これを聞いてまっ先に思い浮かんだのは、あるアイドルたちのことだった。


ロックファンも熱狂。圧巻のパフォーマンスを支えたのは“ハロプロ流トレーニング法”

2018年、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』に初出演したモーニング娘。‘18。2010年代以降は音楽フェスにアイドル系グループの出演が増え、その手のステージにはだいぶ見慣れてきたロックファンも多かった。ところが炎天下での40分間、スタミナが一向に切れず一気に11曲たたみかけるパワフルなパフォーマンスには、そこにいた多くの人間が度肝を抜かれたという。

彼女たちが同フェスに出演するとツイッターで「モー娘。」「体力おばけ」がトレンド入りすることは、もはや夏の風物詩となりつつある。コアなファンが「モー娘。」と呼ぶことはあまりないので、いかにそれ以外の層に響いているかがよくわかる。

2年目の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』では、同フェスのメインステージとなる最大キャパ(6万人)のGRASS STAGEに出演が決まり、メンバーもより気合いが入ったのだろう。暖房をつけてリハーサルをし、本番に臨んだエピソードはファンの間では広く知られている。モーニング娘。に限らずハロー!プロジェクトはたびたびこういった体育会系なところがあり、そこが魅力でもある。私もこの話を聞いたときは「らしさ」にグッときつつも、思わずメンバーの体調を心配してしまった。でもあれは、暑熱順化だったのか……! 根性論でも精神論でもなく、至極まっとうなトレーニング方法だったのである。

ちなみにこの年は前年を上回る50分間MCなしのパフォーマンスを行ったモーニング娘。‘19だったが、「MCなし」と聞くと、職業柄どうしても水分補給はどうしているのか気になってしまう。しかし映像で確認する限り、メンバーは曲間で素早く捌けて水分を摂っているように見えたし、曲中でも自分のステージドリンクを客席のほうに掲げて「(みんなも適宜水分補給してね)」と合図する余裕まで見せていた。

入念なトレーニング&ケアで、アイドルの健康管理を

そして今年、3年ぶりにモーニング娘。は同志・アンジュルムと共に『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』のステージに帰ってきた。

再びツイッターには「体力おばけ」「アンジュルムの赤ちゃん(※アンジュルムの最年少メンバー松本わかなは、あどけないビジュアルと裏腹な力強い歌声のため、アウェイの現場ではたびたび「アンジュルムの赤ちゃんみたいな子がすごい」「アンジュルムの赤ちゃんやばかった」などとファン以外から評される)」といった「季語(暫定)」が並び、今年も両グループが爪あとを残したのだなと、在宅の身でも感じることができた。

フェスのような普段とは違う客層が集まる場では、演者もよりいっそうパフォーマンスに気合いが入るもの。「○○曲連続」「MC一切なし」など攻めたセットリスト構成は評価を受けやすい。しかしそういったステージほど、事前の入念なトレーニングやケアが必要なのだとモーニング娘。は身をもって証明してくれた。アイドル界全体にこの姿勢が浸透することを願わずにはいられない。


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竹中夏海

日本女子体育大学ダンス学科卒業後、2009年に振付師としてデビュー。その後、さまざまなアーティスト、広告、番組にて振付を担当。コメンテーターとして番組出演、書籍も出版。著書『アイドル保健体育』 (CDジャーナルムック)は「令和の保健体育の教科書」としても注目されている。

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