『ABCお笑いグランプリ』はネタ後のトークも最高。ダウ90000のカッコよさ、“現役大学生芸人”友田オレの衝撃

文=奥森皐月 編集=高橋千里


年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、19歳・タレントの奥森皐月

今月は、大いに盛り上がった『ツギクル芸人グランプリ』『ABCお笑いグランプリ』、おもしろ過ぎる芸人YouTubeまで、直近の“お笑い事件”を振り返る。

目まぐるしく動いていた、最近のお笑い界

すっかり暑くなり、『M-1』のエントリー情報で日々が彩られる時期に。アイドル鳥越さんとパーマ大佐さんの婚約発表を筆頭に、ここ最近のお笑い界はニュースが多かった。

「竹内ズの解散ホントドッキリ」「元コウテイ・シモタと、元なにわスワンキーズ前田龍二による『シモリュウ』結成」「元スタンダップコーギー奥村うどんと、おべんとばこ中川による『オンリー2』再結成」「ガクヅケ木田の活動休止」「ガクヅケ船引の結婚」など数え切れないほどあれもこれもあった。

目まぐるしく動いている。気を抜くとすぐに置いてけぼりにされてしまう。そこで今月は、自分にとって最高だったコンテンツに絞って綴ることにする。

おもしろさと優しさにあふれた『ツギクル芸人グランプリ』

今年の『ツギクル芸人グランプリ』決勝進出メンバーは、かなり西新宿ナルゲキだったのでリラックスしながら観られた。全組がずっとおもしろくて、本当にいい番組だったと思う。

ツギクル芸人グランプリ2023開幕 ネクストブレイクを狙う15組が集結!

ネタ終わりの爆笑問題・太田光さんのコメントも素敵だった。きちんとネタの中身に触れるのに、もとのネタのおもしろさが損なわれることもなく、むしろずっといい方向に転んでいくのに圧倒される。優しさに満ちあふれていて、なんだかキュンとした。愛が大きい。

芸歴2年目のツンツクツン万博と3年目の群青団地が健闘していたことが、なによりもうれしかったかもしれない。

昨年、若手芸人さんが数十組出るネタライブをよく観に行っていた。その中で鮮烈に記憶に残るほどおもしろかったのが、ツンツクツン万博の天から階段で降りてくるネタと、群青団地のオンラインゲームのネタだった。

じきにテレビに出るのだろうなぁとぼんやり思っていたが、こんなにも早く賞レース決勝という最高の場所で観られるとは。おもしろい人がきちんと決勝に残れているという事実がうれしい。

ツギクル芸人達でピッツァマン踊ってみた

ナイチンゲールダンスがようやく優勝の肩書きを手に入れられたのも素晴らしい。まんじゅう大帝国に、ゼンモンキーに、勝敗云々以前にあらゆるおもしろさが詰まっているので、定期的に録画を見返すことになるだろう。

ネタ後のトークも凄まじかった『ABCお笑いグランプリ』

翌日には『ABCお笑いグランプリ』が放送されるという奇跡の週末。今年イチ幸せな土日だったかもしれない。

『ツギクル芸人』にもいえることだが、漫才・コント・ピン芸が混在している賞レースは、誰が一番なのかまったくわからない。会場の温度感も配信では伝わり切らないので、審査結果をそのまま受け止めながら観るしかないと思っている。

(c)ABCテレビ

その中で、サスペンダーズのネタ後のトーク部分は印象的である。

ネタはもちろんおもしろかったしウケているように見えたのに、古川彰悟さんは手応えがなかったのか「コントは作品性、コントは作品性、コントは作品性」と唱え始める。「コントは作品性、コントは芸術」と言ったところで審査員に引かれている様子が放送されていた。

これでこそ古川さんだ!と思ったが、この日披露したネタは、依藤たかゆきさんのほうがヤバい人の役のネタだったので、結果的に「本当に怖いのはこっちなのかよ」という空気になってしまっていてすごくおもしろかった。

(c)ABCテレビ

トーク部分に関していえば、ダウ90000のネタ後のアンガールズ田中卓志さんのコメントにリアクションする吉原怜那さんも凄まじかった。

「なんすか」の4文字で空気をガラッと変えられる力。8人組のうちのひとり、ではなく、ひとりの芸人さんとしての平場、という感じがした。カッコよすぎると思う。

(c)ABCテレビ

誰が『ABC』のネタ終わりのコメントのことだけを記事にするのだ。

好きだったネタでいえばヨネダ2000だが、思えば去年の『ABC』で一番心に残っているのも、ヨネダ2000の『おみこファー』のネタ。ヨネダ2000が好きだとはっきり意識することはなかったが、ただヨネダ2000が好きなだけの人だった。

(c)ABCテレビ

衝撃的だったのは、やはり友田オレさん。昨年くらいから現役の大学生芸人の筆頭ではあったが、全国で注目される大舞台でも通用する実力だとはさすがに誰も気づいていなかったのではないかと思う。

たったひとりで、ほかの芸人さんに比べて知名度が高くなく、インパクトの強い衣装や見た目でもなく、突飛なことをするフリップでもなく、ただ純粋にネタがおもしろいことでファイナリストになって、決勝でもウケている。

(c)ABCテレビ

希望がファイナリストになったのかと思った。夢がある。私もひとりで活動をしている身として勇気をもらえた。

今の時点でこれだけおもしろかったら、この先どうなってしまうのだろう。楽しみでワクワクすると同時に恐ろしさも感じる。一度思い出すとしばらくあのメロディが抜けなくなるので、注意が必要だ。どうにかできたはず〜♪

お笑い好きの理想を詰め込んだ『お笑いエスポワール号』

6月末に2週連続で放送された『お笑いエスポワール号』がよかった。

総勢100人の芸人がお笑いのみで戦い続ける究極のバトルに挑む!!『お笑いエスポワール号』

私は『有吉の壁』のようなお笑い濃度の高い番組と、『千原ジュニアの座王』のような大喜利要素の強い番組が好きだ。

ただ、お笑いとテレビバラエティと大喜利とライブシーンの要素がひとまとまりになることはまずない。

お笑いエスポワール号はすべての要素を持ち合わせていて、お笑い好きが「こういう番組があったらうれしいな」と思う、理想に近い番組だったのではないかと私は感じた。

MCがバナナマン設楽統さん、バカリズムさん、麒麟・川島明さんという盤石の布陣。この3人が審査をする場面もあったが、説得力と納得感しかなくて心地よかった。

総勢100名の芸人さんが生き残りをかけて戦うというコピーだったので、きっと若手の人や無名の人はすぐいなくなってしまうのだろうなと思っていたが、想像を遥かに上回る実力主義の構図で、観ていて愉快。

あくまでその瞬間に見せたものがおもしろかったかどうか、という判断なのがよい。その結果。最終ステージに残るのが、トム・ブラウン、ザ・マミィ、ななまがり、ラパルフェ、サスペンダーズという渋いメンバー。

失礼を承知で書くが、人気や知名度だけで選んでいないというのがよく伝わってくる、本当におもしろい人たちが残っている様が好きだった。どうやら続編があるような終わり方だったので、今後も楽しみにしている。

こたけ正義感「『逆転裁判』ゲーム実況」がアツい!

ここ最近アツい芸人さんのYouTubeといえば、こたけ正義感さんによる「『逆転裁判』ゲーム実況」だろう。

現役弁護士芸人がゲームの裁判にツッコんでいく、その状況だけでじゅうぶんにおもしろいし、動画で観ると当然おもしろい。再生回数も伸びていて、着実にキラーコンテンツになっている。

弁護士芸人が名作ゲーム『逆転裁判〜蘇る逆転〜』を実況プレイ #1

私はお笑いが好きなので芸人さんのYouTubeはよく観るが、ゲームにはあまり興味がないのでゲーム配信を観たことが一度もない。生まれて初めてまじまじと観るゲーム配信が、まさか『逆転裁判』になるとは思わなかった。当然、『逆転裁判』をプレイしたこともない。

『ABC』決勝で披露していたのもリーガルチェックのネタだったが、弁護士の観点から見てツッコミどころのあるものは無限にありそうな気がする。

文字媒体の連載とかでもおもしろそうだし、昼間のワイドショーでコメンテーターの立ち位置で法的な観点から指摘をする役割でもおもしろそう。世の中はもっと、こたけ正義感さんのよさを柔軟に捉えるべきだと思う。ギルティー。

未知の体感を覚える、鈴木ジェロニモ「説明する」動画

もうひとつ、いま勢いのある芸人さんのYouTube動画といえば、鈴木ジェロニモさんの「説明する」シリーズだ。

今年の『R-1グランプリ』で準決勝に進み、短歌の方面でも活躍する鈴木ジェロニモさんだが、この動画がとにかくすごい。

まずは一番初めの「水道水の味を説明する」の動画を観てほしい。3分程度の動画の中で水道水の味をさまざまな表現を用いて説明するというシンプルな内容だが、無限の可能性と広がりを感じられる。

水道水の味を説明する

冷静に考えて、3分間絶え間なく水道水の味を説明できるだろうか。そもそも、水の感想というのが難しい。進めば進むほど遠くに行ってしまう、それなのに心のどこかで共感している自分もいる、という今まで体感したことのないおもしろさがある。

そのあと公開された「造花の匂いを説明する」「1円玉の重さを説明する」もそれぞれ観応えがあった。3分弱の中に美しさも儚さも発見もある。哲学かと思う場面もある。

造花の匂いを説明する

お笑い好きではない人にも注目されるべき動画。今後もこのシリーズがつづくといいなと思う。万物を説明し尽くしてほしい。

毎日、お笑いを吸って生きている

毎月お笑いについてだけを書くとなると、発信できることが尽きてしまうのではないか、とうっすら不安を抱いていた数カ月前の自分を殴ってやりたい。

お笑い界の変動が激しいおかげで書くことには困らず、むしろどこを削るべきか考えているくらいだ。

「お笑いに助けられた」なんてきれいな表現をするつもりはないけれど、確実にお笑いに生かされている。お笑いは空気。お笑いを吸って生きている。なくなったらどうなるか、と考えられないくらいにはお笑いと共に生きているのだ。

まもなくこの文章が書き終わり、その次の瞬間にはお笑いを摂取しているのだろうなと思うとなんだか笑える。ずっと笑わせてもらっているのに。

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奥森皐月

(おくもり・さつき)女優・タレント。2004年生まれ、東京都出身。3歳で芸能界入り。『おはスタ』(テレビ東京)の「おはガール」、『りぼん』(集英社)の「りぼんガール」としても活動していた。現在は『にほんごであそぼ』(Eテレ)にレギュラー出演中。多彩な趣味の中でも特にお笑いを偏愛し、毎月150本のネタ..

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