18歳・奥森皐月が恋をした、人生初の“推し”「まるでプリキュアのような存在」

2022.12.25

文=奥森皐月 編集=高橋千里


好きな芸能人やキャラクターの中でも、特別に応援したい・大好きな人に対して使われることが多い“推し”という言葉。推しに出会ったことで、人生や価値観が変わった人は多いだろう。お笑いとラジオを偏愛するタレント・女優の奥森皐月が、生まれて初めてできた“推し”について綴る。


お笑いや音楽が好きでも“推し”がいなかった理由

推しがいる、というのは素敵なことだと思う。何かひとつに熱中して、その存在により自分の生活が豊かになる。素晴らしいことだ。推し活という言葉が普及している意味がよくわかる。

しかしながら「推し」がいない人もきっと多くいるであろう。推しがいない人からすれば自ら推しを探すというのも難しいし、何をしていたら推しができるのかもわからない。

奥森皐月

私はお笑いや音楽が好きで、週の半分かそれ以上は劇場やライブハウスに足を運んでいる。ただ特定の推しがいるわけではない。「お笑い」「音楽」という大き過ぎる箱推しとでもいうのだろうか。劇場のことを箱という人もいるのでややこしくなる。そういうことではない。

自分の好みの琴線に触れるものはあるが、だからといってそれだけを応援しようという気になれないのが推しがいない理由だと思っている。その上、好きの範囲も広いから、絞り切ることができない。

多様なコンテンツを楽しんで、その中にいくつか自分の好みに合うものも含まれていたらいいな、という気持ちで過ごしている。正直、おもしろいと思えないネタを観る日もあるし、まったく趣味に合わない音楽を聴くときもあるけれど、それもそれで楽しめてしまうからこれでよい。

強くて可愛い女の子たちが戦う『プリキュア』の魅力

さて、私にはお笑いと音楽以外にもうひとつ愛してやまない存在がある。それが『プリキュア』だ。

強く可愛い女の子たちが果敢に敵と戦うあのシリーズアニメ。ただこれに関しても、特定のキャラを推しているというわけではなく、『プリキュア』というもの全体が好きなのである。

1年ごとにシリーズは移り変わっていくので、誰かひとりを推すというのは本当に莫大なパワーがないと難しい。新しいグッズも出なければ、お笑いのように毎週ライブがあるわけでもない。出待ちも差し入れも握手もできないので、私は『プリキュア』に対して「推し」という感情を持ったことはなかった。

『デリシャスパーティ♡プリキュア』オープニング主題歌「Cheers!デリシャスパーティ♡プリキュア」

『プリキュア』が好きな理由は、現実にないものを『プリキュア』が持っているからだ。キラキラとした少女たちは地球を守る正義感を持ち、危険を冒してでも仲間とみんなの幸せを守り抜く。いつも笑顔で協力して、前向きで、必ず最後に勝つ。強くて無駄な弱音は吐かない。とにかくカッコいい。

幼少期は外見の可愛らしさや変身の美しさなど、外面的な部分に惹かれてぼんやり観ていたが、時が経つにつれその精神性やシリーズ全体の内面的な部分の魅力に気づいた。

なにより、これらが非現実世界であるからこそ受け入れられて、好きでいられるのだと思っている。ただ、私はリアリストではないのでそのうちプリキュアになれるとも思っている。


2021年、コロナ禍で出会ったガールズバンド

去年の春ごろだろうか。感染症に蝕まれた世界では、高校生として楽しいことがほとんどなかった。私生活でも落ち込むことがつづいて、少し塞ぎ込んでいたときがあった。

知っている曲より知らない曲を聴くほうが落ち着くと思い、知らないインディーズのバンドを適当に聴き流していたとき。たまたま再生された輪廻というガールズバンドの「大人になったらさ」という曲に強く心を打たれた。

輪廻「大人になったらさ」(MV)

この曲の虜になり、音楽アプリのリピートのマークを珍しく押した。UNOで出したら順番が逆になりそうなあのマーク。好きなアーティストですら同じ曲を繰り返し聴くことはしないのに。それくらいビビッときた。

率直に言うと、そのとき悩んでいたことにZOZOスーツくらいピッタリと密着したのだった。自分の未熟さが浮き彫りになって、大人になるときが果てしなく遠くに感じられて、苦しかったときに「大人になったらさ」に出会った。

音楽を聴いて「私のことを歌っている!」と感じることは野暮だと思っていたが、そう思いたくなるほどには刺さっていた。包丁だとしたら確実に息絶えていたほどの刺さり具合。でも包丁ではなかったのでラッキー。元気いっぱい。

そのころの輪廻はまだ数曲しかリリースしておらず、私もバンドについてよく知らないまま楽曲を繰り返し聴いていた。

余談ではあるが、今年私が初めて務めた冠ラジオではジングルに「大人になったらさ」を使ってもらった。ラジオをする日が来たら絶対に流したいと思いながら聴いていたので、未成年のうちにパーソナリティとしてラジオで流すことができたのは本当にうれしい。

ガールズバンド・輪廻は限りなくプリキュアに近い!

今年に入り、たまたまツイッターで見かけた好きなバンドのライブ出演告知画像に「輪廻」の文字があった。なぜ今までライブに行っていなかったのだろうと、このときハッとしてすぐに予約。女性3人のバンドということしか知らないままライブに行った。

結果的に、このライブを境に、私の“推しなし人生”は別のレールの上を走ることとなった。

初めて観た生の輪廻の演奏は、度肝を抜くほどの素晴らしさだった。音源よりもカッコよくて、スリーピースとは思えないほどの迫力を感じる。演奏中の3人がとにかく可愛らしい。今まで観てきたものとは違う、新しい魅力を知ることができたような感覚。

そして、メンバーが全員今年で20歳ということもその日にわかり、驚いた。若い人が作った歌に若い自分が感銘を受けている。自分は若い人だと気づけてうれしい。

輪廻

あまりにもよすぎるライブで、終わってからしばらく何がよかったのかを考えた。すると少しずつ理由がわかった。

それは3人のキャラクターの雰囲気が見事にバラバラであること。Gt/Vo.双葉さんの安定感とリーダー的カリスマ性。アイドルでいえば完全に担当カラーが赤だ。誰に似てるとも形容できない、歌の透明感と可愛らしさとかっこよさ。

Ba.リノさんのクール系の目を惹く美しさと躍動感のある演奏。そしてMCで判明するおっとりほんわかとしたしゃべり方。ギャップ萌えそのもので、一瞬で好きになってしまう。アイドルだったら青担当だろうなと思う。

そして、Dr.りぃこさんの圧倒的なパフォーマンス。私が今まで見たすべての笑顔の中で一番の笑顔だと思った。一度見たらしばらく釘づけになってしまう。彼女のハッピーオーラで私もみるみる笑顔になってしまった。弾ける笑顔は黄色担当っぽい。あとコーラスがきれいで最高。

キャラクターが際立っていてアイドルのようではあるが、輪廻のライブを観たときはアイドルライブとはまったく違う熱を感じた。

音楽に対する気持ちが3人を集め、自分たちでひとつの楽曲を作り、心の底から楽しんでいるように見える。本当の気持ちは知る由もないが、少なくともその姿に私は強く胸を打たれた。

スリーピースバンド特有の誰ひとり欠けてはいけない感。どの構成だろうが誰かが欠けてはならないだろうが、3人という構成は特にそう感じさせられる。三脚、三権分立、「3」のバランスのよさに惹かれるのかもしれない。

ここまでで私は確信した。現実にある存在で、限りなくプリキュアに近いのかもしれないと。プリキュアはアイドルのようなものだと思っている人も多いだろうが、私は違うと思っている。しかしこれで完全にわかった。輪廻がプリキュアに一番近い。

バカバカしいかもしれないがこれは私の中の小さな革命で、その日の帰り道の下北沢はいつもよりピンクで妖精もまぁまぁ飛んでいた。

「自分に恋する」という超絶ポジティブな歌詞

今年8月、輪廻は1st mini Album『自分にずっと恋して生きたい』をリリース。全国のタワーレコードで発売され、全国ツアーやリリースイベントを開催。

このアルバムも本当によい。タイトルの『自分にずっと恋して生きたい』はアルバム1曲目「バンドマンきらいかも」の歌詞の一部なのだが、最高のフレーズだと思う。

輪廻「バンドマンきらいかも」(MV)

うしろ向きで、卑下して、つらいことを吐露する。SNSを見ればこんな人ばかりの世界で「自分に恋する」という超絶ポジティブな表現が生まれたことに、ありがたさすら感じる。

2曲目の「あいらぶみー」に至っては、サビで「自分が良ければそれでOK! やっぱり自分1番可愛いの」とまで歌っている。他人と容姿を比べて落ち込む若者がたくさんいるというのに。

可愛くなれない自分が嫌いという考えを真っ向から変えてくれる「間違えてる 間違えてる みんな可愛いを間違えてる」という歌詞に感動した。

「自分が嫌い」とか「可愛くなれない」という言葉のほうが共感を集めやすいであろう世の中に放たれた光のような楽曲。すごい。

音楽のよさは聴けばすぐわかるのでみんな一度聴いてほしい。メロディがキャッチーなのですぐ口ずさんでしまうし、カッコいい曲も可愛い曲もノスタルジックな曲もある。最初から最後までこのアルバムが好きだ。

人生初の“推し”が私に教えてくれたこと

すっかりファンになってしまった私はタワーレコード渋谷店へ行き、大きなビジョンで輪廻のMVが流れるのを待ち、動画を撮った。

奥森皐月

ツアー東京公演にも、もちろん足を運んだ。そのライブは運動会がテーマで、体操服風の衣装のメンバーが体操をしたりプログラムが読み上げられながら進行したりしていて楽しかった。

仲よしなのだろうなと思わせる、3人だけのキャピキャピが微笑ましい。見ているだけで幸せな気分になる。クラスで楽しそうにしている子たちを冷ややかな目で見てひとりで過ごしていた私はいなくなった。彼女たちを見ていると元気が出る。

インディーズバンドのライブをたまに観に行くが、MCでゆっくりとつらい過去を話したり未来への不安を話したりしていると、こっちまでげんなりしてしまう。共感できればよいのだろうが、あまり共感できないままテンションだけ下がったことが何度かある。

ところが、輪廻のMCは基本的にずっとニコニコしているし、前向きな言葉ばかり。運動会がテーマのこの日は、「みんなで優勝しようねー!」と言っていて感動した。

優劣を決めるのをやめようと、順位のない運動会をする学校があるというニュースを見たことがある。その考えにはあまり納得できていなかったが、輪廻のライブが答えだ。全員が優勝すればいいだけの話。順位をなくす必要なんてない、みんなが1位。それがいい。

プリキュアだ。精神性がまさにプリキュア。絶対に負けない、私たちが一番強い、止まらない。これがプリキュアなのだ。

奥森皐月

またある日はリリースイベントにも行き、人生で初めて「サイン会」に参加した。列に並んでいる間ずっとソワソワしていて、これが推し活なのか……と実感が湧いた。

いざ自分の番になると、3人が次々と話しかけてくれてただただうれしい。個人的にファッションが好みのベース担当リノちゃんが、私のネイルと指輪と服装を褒めてくれた。照れて溶けた。可愛いと思っている人たちに可愛いと言われてしまい、パニックで溺れていたので何を言っているかわからなかったと思う。

デレデレ過ぎて最悪のお客さんだった気もするが、それほど愛があふれていたのだとなんとか自分を納得させた。だってやっぱり自分が一番可愛いからね。

奥森皐月

“キラキラな瞬間をあなたに。”

輪廻のキャッチフレーズがすべてだ。
もともと自己肯定感は低くないつもりだが、前よりもっと自分が好きになれている気がする。

生まれて初めてできた「推し」は、結果的に自分のことも推しにしてくれたのではないかと思う。

これからもずっと自分と輪廻に恋していきたい。

連載「奥森皐月は傍若無人」は、毎月1回の更新予定です。


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(おくもり・さつき)女優・タレント。2004年生まれ、東京都出身。3歳で芸能界入りし、現在は『にほんごであそぼ』『すイエんサー』(共にEテレ)にレギュラー出演中。『りぼん』(集英社)の「りぼんガール」としても活動している。『おはスタ』(テレビ東京)に「おはガール」としても出演していた。多彩な趣味の中..

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