長い時間稼ぎを「堅実」「丁寧」に置き換えている
平川は第8話で、50万円で岸本に情報を売ったが、肝心な写真を抜いていたことが判明する。さらに、岸本に脅迫されたと訴えるが、もしかしたら、最初から岸本をハメようと考えていたのではないだろうか。

真実を明るみにしたいだけなのに、岸本は孤立無援となり社会から弾き飛ばされそうになる。この複雑でやり切れない状態を、岸本が女ごころがわからない話と重ねるところもまた『エルピス』のおもしろいところだ。謎の本城彰には女性だけが感じてしまう不思議な魅力があると聞き及んでも、まったく理解できない岸本。浅川も、本城に会ったとき、見つめられて身動きできなくなっていた。危ないと思いながらもついていくことが女にはあるものだと、首都新聞政治部記者・笹岡まゆみ(池津祥子)も言う。これは、浅川が斎藤に惹かれてしまうことにも当てはまるだろう。
理屈では解き明かせない奇妙な心理が働く人間の神秘に、岸本はまだ気づかない。だんだんと理解できなくなっていく浅川の言動に悩む岸本。
「浅川さんという人は簡単に思えた」「その簡単さに、僕はずっと救われてきたのだと、そうじゃなくなってから、やっと気づいた」
8話より
というセリフは人間の本質を鋭く突いている。本当は簡単なはずなのだ。正しいことはシンプルで、誰にでもわかる簡単なことのはずなのに、なぜか、そこに辿り着くために茨が複雑に絡み合い、近づく人を傷つける。傷つくのは苦しいから、みんなそこに近づかなくなっていく。近づかない弱気を「堅実で丁寧」と呼ぶようになるのなら、「堅実」も「丁寧」も使うことがためらわれる。確かに、物事の決定に対して、やたら時間をかけて何段階も確認を取らないといけないようなことがある。その長い時間稼ぎを「堅実」や「丁寧」に置き換えていることはありがちだ。本来、丁寧にすべきということは、できるだけ的確に真実に近づくための心得のはずだが、通用しないのが現代社会である。
まったく予想がつかないところがおもしろい
「あなたの知りたいにまっすぐ。」という『ニュース8』のキャッチコピーどおりに浅川は簡単さを取り戻すのか。斎藤の出方もまだわからないし、第8話は、話は動いたけれど結論はまだ見えない。まったく予想がつかないところがおもしろい。そのなかで、ぼろぼろに傷つきながら、でもシンプルな正しさや真実を守り抜きたい岸本に、第1話で説教していたベテラン俳優・桂木信太郎(松尾スズキ)が「一流のジャーナリストだ」と労う場面は救いになる。正しいことをしていたら、必ず誰かが見ていてくれる。と思っていないとやっていられないのがこの世の中である。

『エルピス ―希望、あるいは災い―』
毎週月曜22時から放送中
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、岡部たかし、筒井真理子、鈴木亮平 ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
音楽:大友良英
プロデューサー:佐野亜裕美、稲垣護
写真提供=カンテレ
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