岸本の欲望に流れがちなリアリティ
浅川は首都新聞・政治部記者の笹岡まゆみ(池津祥子)に連絡し、大門の経歴を細かく調べてほしいと頼む。八飛市出身で事件に興味を持って取材していた政治部記者だったら、すでに行き着いていそうな気もするが、ここにも作り手のなんらかの意図があるのだろうかとか、松本良夫死刑囚(片岡正二郎)どうなった?とか、ノイズがちらついて、渡辺あやの作品にしては珍しく集中し切れないのは、8話が10話に延びたからではないかと思ったのだが、気のせいだろうか。
斎藤が、5話まではものすごくクールに振る舞っていて、浅川はクールなモノローグで
「この人は大事なことを絶対に言葉にしない」
第6話より
うんぬんと語っていたのが、問題が表面化すると、浅川の『ニュース8』出演前にLINEを刻んで大量に送ってくるという冷静さを欠いた行為に出るのは、まあ微笑ましいし、経理部になった岸本とボンボンガールから外れた篠山あさみ(華村あすか)が、なし崩し的に付き合っちゃっている感じも、欲望に流れがちなリアリティがあるとは思うけれど。
村井はなぜネットで強く支持されるのか
第5話のレビューで、ノブレス・オブリージュへの希望(期待)があると書いたが、『エルピス』は徹底して小市民の話であり、誰もが汚れも弱さも持ちグダグダしながら、それでも美しく正しいものを追い求めていく物語なのかなと思い直した。村井がネットで強く支持される理由は、小市民的なところを一身に背負っているからだろう。缶コーヒーを飲んで、カラオケに興じ、煙草を吸い、組織に媚びず、自分を貫き、口は悪いが、意外と人をよく見ている。
おしゃれな部屋やペントハウス的な、古いがカッコいい部屋に住む描写もないし、おしゃれな服も着ていないし、太い実家も、素敵な恋人や妻も出てこない(もしかしたら、依存する妻や子や恋人がいるかもしれないし、そもそもテレビ局のチーフプロデューサーだからエリートではあるのだが、それはそれ)。村井の善意はけっして真っ白でパリッとアイロンのかかったシャツのようではなく、少しシワになったシャツのようではあるが、それが愛されたのだと思う。そうじゃない部分が今後出てきたら、また見られ方は変わるだろうけれど。
『エルピス ―希望、あるいは災い―』
毎週月曜22時から放送中
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、岡部たかし、筒井真理子、鈴木亮平 ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
音楽:大友良英
プロデューサー:佐野亜裕美、稲垣護
写真提供=カンテレ
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