南海キャンディーズ以前・以後で変わった男女コンビの歴史(てれびのスキマ)

てれびのスキマ

テレビっ子のライター“てれびのスキマ“が、昨日観た番組を記録する連載「きのうのテレビ」。バラエティやドキュメントの中で起こった名場面、名言、貴重な会話の数々を書き留めます。2020年から毎日欠かさず更新中。


『アンタウォッチマン!』

2000年代以降の男女コンビの歴史を特集。宮川大助・花子らの夫婦漫才以降、男女コンビがほぼ空白の時代に現れたのが2003年結成、翌年『M-1』準優勝でブレイクした南海キャンディーズ。恋仲ではないビジネスパートナーの男女コンビの第一人者。

コンビ解散を経験しピン芸人となっていた山里は「今からライバルの多いところで戦ってもしょうがない。ライバルの少ないフィールドはどこだ?」と考えた結果、まわりにほとんどいなかった男女コンビに辿り着いたという。当時、関西の劇場ではキングコング西野やチュート徳井などカッコいい芸人目当ての客が多かった。そこにブサイク×かわいい子で男女感を出しても勝ち目はないと思った山里は「男女なんだけど、女子のほうを得体の知れない生き物って存在にして、『気持ち悪い人と得体の知れない生き物』にしようとした」と戦略を明かす。

その一世代あとに登場したのが2016年『M-1』決勝進出でブレイクした相席スタート。2013年に結成したが、このころ、メイプル超合金(2012年)、ゆにばーす(2013年)らも同時期に結成し、男女コンビが徐々にだが増え出していた時期。

ケイは男女コンビ結成を作家から勧められ「そうか、そういう方向性があったのか」と思ったそう。「南海キャンディーズさんのように歩んだら勝てっこないから、そうじゃない(かたちで)僕らができるのはどんな関係性だろうと探していった」と恋愛ネタに活路を見出し、「ボケではなくメッセージ。言いたいことを言うのが私の芸風」というケイの言葉をボケに変換する工夫をしていったという。

さらに2020年代にブレイクしたのが蛙亭。相席スタートと同時期の2012年に結成した彼らはNSC講師に「南海キャンディーズがいるから勝てると思うなよ」とやはり南キャンを基準として常に意識させられたそう。南キャンの影を追い、女性側を目立たせるツッコミを模索していたが「コイツ(中野)に引っ張ってもらっていたら、これマジで終わるな」とイワクラがネタを書き、漫才からコントにシフトチェンジ。さらにツッコミもボケもないスタイルで、男の中野の濃いキャラを目立たせる方向に変えていったという。

そんなふうにイワクラが真剣に話している横で「救われたわけだ、俺に」「(山里になれないと)気づくのに4年くらいかかりました。かかり過ぎだな」「この人は伸びますよ」などと飄々と口を挟む中野を見て、伊集院が「中野くんは蛭子さん的だね。ヤング蛭子」と評しているのに膝を打った。

南海キャンディーズが唯一無二の存在としてブレイクしたあと、「男女コンビ枠」のようなものができ、やがて男女コンビが今や当たり前になっていったという変遷がおもしろいし、南キャンと違うことを模索しなければならなくなった。いかに南キャンという存在がお笑い史の中で大きく革命的だったかがよくわかった。若林がよく言っている「標準語ツッコミの歴史は山ちゃん以前以降に分けられる」という言葉を借りれば、「男女コンビの歴史は南キャン以前以後に分けられる」ということだろう。

伊集院は最後にこうまとめる。「男ってこういうもんだ、女ってこういうもんだって言い合いが一番作りやすいネタだった。だけどそういう世の中じゃないってなったときにこの一番作りやすかったネタが一番作りにくくなると思う。逆に才能がある人はそこでバリエーションが無限になるから、もう男女もクソもないようなことになっていくんじゃないか」。


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  • 【連載】きのうのテレビ(てれびのスキマ)

    毎夜ライフワークとしてテレビを観つづけ、テレビに関する著書やコラムを多数執筆する、てれびのスキマによる連載。昨日観た番組とそこで得た気づき、今日観たい番組などを毎日更新で綴る、2021年のテレビ鑑賞記録。

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1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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