お笑いマニアである17歳のタレント・女優の奥森皐月が、共に過去最多のエントリー数となった『女芸人No.1決定戦 THE W 2021』と『M-1グランプリ2021』を振り返る。そこから見えてくるお笑い界と世間の変遷とは。
お笑い税を納めなくていいの?
『女芸人No.1決定戦 THE W』『M-1グランプリ』と立てつづけにふたつのお笑い賞レースが終了することで、毎年1年の終わりを告げられるように感じる。けれども2021年に関しては、同時に新たな“はじまり”も告げられたように思えるのだ。今確実に、お笑いの世界は大きな進化を遂げている。
「前年よりもおもしろかった」「年々おもしろくなっている」といった声を賞レース後のSNS上で見かけると、とてもうれしい。私が出場していたわけでも、制作に携わっていたわけでもないがうれしい。そのように感じる人がいるということは、大勢の芸人さんたちの努力が実りお笑い界全体がさらにレベルアップしているということなのであろう。
これほど幸せなことがあるだろうか。こちらはただお笑いを見させていただいているだけなのに、どんどんお笑い自体がおもしろくなっていくのだ。お笑い税を納めたりお笑い募金をしたりしないといけないと思う。
賞レースが放送されたあとに批判や否定の意見があふれるのはけっしていい気持ちにはなれないが、それだけ熱を持ってお笑いを見ている人がたくさんいるということだろう。視聴者が減って廃れていってしまうことを考えれば、注目度は高いに越したことはない。昨年のお笑いに対する世間の目はかなりよかったのではないだろうか。
そして何より、ここ数年で日本全体のお笑いに対する度量が広がっているように感じる。
地下芸人からテレビスターへ。変わったのは芸人ではなく世間か
たとえば、『THE W』で惜しくも優勝を逃したAマッソは、多くの視聴者から支持を得ていた。最終決戦で披露したネタは前回の大会同様、プロジェクションマッピングを利用した革新的なネタ「映像漫才」であった。一見するとかなり攻めているが、幅広い視聴者にもきちんと届く、難し過ぎず新しい、おもしろいネタであった。結果、優勝のオダウエダに1票届かず、不満の意見が散見されたのは記憶に新しい。
この点に私は大きな感動を覚えている。たった数年前まで、Aマッソといえば「トガり芸人」などと呼ばれる代表格だった。他の追随を許さないセンスあふれたネタでライブ界では一目置かれ、お笑いファンに熱狂的人気がある。そのような存在だったと思う。私もそのAマッソに魅了されたうちのひとりだ。
ただ、「ライブ界でカルト的人気がある=テレビでは活躍しづらい」という等式が存在しているのも事実。ところがその式は年を追うごとに崩れていった。遡ればいくらでも挙げられるだろうが、最近話題の「SMA芸人」はその代表格のように思える。バイきんぐやハリウッドザコシショウは、地下芸人からいつの間にかテレビで活躍するスターになっていた。
2017年、『M-1グランプリ』敗者復活戦での国民投票で、Aマッソは20位中19位だった。それが今や、日本中から優勝できなかったことを惜しまれる存在になるのだから、何が起こるかわからない。もちろん、それは当人の絶え間ない努力の結果ではあると思うのだが、お笑い自体のスタイルが180度変わったわけではない。
この4年で世間が受け入れられるお笑いの幅が広がっていることは明らかだと思う。
2022年はランジャタイの年になるか?
Aマッソが19位だった『M-1グランプリ2017』敗者復活戦。この年の20位、つまり最下位が誰だったか覚えているだろうか。『M-1グランプリ2021』で決勝進出を果たしたランジャタイである。2020年の敗者復活戦でも最下位だった。ひと言で片づけてしまえば、おととしまでは世間が追いつけていなかったお笑いなのである。
つい最近まで、地下ライブの皇帝のような存在だったランジャタイはこの1年でテレビに多数出演し、『M-1グランプリ』で決勝に進出するまでとなった。あのランジャタイが、だ。5分程度のネタ尺のお笑いライブで15分近くネタをしていたランジャタイだ。板橋区の施設で自主ライブをしていたところ、隣の部屋から声が大きいと苦情が来ていったん休憩を挟んだランジャタイだ。自粛中のインスタライブでオムライスを作ると言い放ったあと、1時間ずっとカラスの人形に邪魔をされて配信が終了したランジャタイだ。
それが年末の日曜のゴールデンタイムに、日本中から注目されながら「強風が吹いて猫が耳から入り身体を乗っ取られるネタ」を堂々と披露している現実。どこまで控えめに言っても異常でしかない。ずっと夢を見ているようだ。これも、もちろん好みや賛否はあるのだろうが、ここまで日本中の視線を集めた今、無敵だと思う。
2022年はランジャタイにすべてをぶち壊してほしい。そして新しいお笑いの世界をあぁ〜しらき・モダンタイムスと共に築いてほしいと願う。今がこれだけ夢の中にいるようなのだから、この先も今では見当のつかない未来が待ち受けているに違いない。
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