キャラクターづくりとしての整理整頓
YouTubeは動画をアーカイブ化する際に「公開」「限定公開」「非公開」「メンバー限定」の4種類の選択をすることができる。
たとえばピアノ演奏やカラオケの練習をする配信の場合。完成品じゃないのであまりおおっぴらにはしたくない人もいる。そこで「限定公開」にしてリストに保存し、表には出ないけど探せば見逃したファンも見ることができる、という整理ができる。
また権利確認が必要などの場合、念の為取っておいて「非公開」にすれば、あとから編集・公開することもできる。
「メンバー限定」は、収益化が通ってメンバーシップ登録(月々支払で入れるファンクラブ的なもの)を解禁すれば選べるもの。一部の作品のレアリティをあげるためにメンバー限定にして、お金を払った人が見られる付加価値にするのも重要な戦略だ。
VTuberは性質上、物語性やキャラクター性が重要だ。となると日々の配信やアップする動画のサムネイルの並びそのものが本人を表す作品になる。
たとえばにじさんじの相羽ういはは、アイドルとして熱心に活動しているVTuber。「歌ってみた♡踊ってみた」「踊ってみた」「Vlog」とがっちりリスト分けされており、動画一覧には彼女が力を入れて作った作品だけが並んでいる。新規で見た人でも、彼女がアイドル活動を主軸にしているのがすぐにわかる。ゲーム実況などの配信類は限定公開としてちゃんとリストに保存されている。整理されたホーム画面自体が、彼女のポートフォリオだ。
エルセとさめのぽきは、一段目は通常の配信、二段目以降は「official MusicVideo」「LIVE」「歌ってみた」「日常動画(編集動画)」と自身の売りを上から順に並べている。これにより、ミュージシャンとしてオリジナル曲とライブ主体の活動をしている、というのが伝わりやすい。そのあとにメンバー限定動画やコラボ動画が並んでいる。メンバー限定は外からだと見られないけれども、並べ方で「ファンサービスをも欠かさないエンターテイナー精神の持ち主」だと伝わってくる。
尾丸ポルカは、トップに「ポルカの伝説」という番組シリーズを持ってきて並べている。彼女がスタッフと共に作っている、オリジナルのバラエティ動画だ。配信頻度がものすごく多いにもかかわらず、これだけを一番に載せるあたりで、彼女が総合エンターテイナーを目指しているのが初見でもわかる。何を優先しているかを伝える、セルフプロデュースだ。
その一方で、消すことで物語を残すVTuberもいる。にじさんじ所属だった海夜叉神は現在卒業し、ひとつも動画が残っていない。海夜叉神は最後の配信で、初お披露目の衣装を公開した。その一瞬のためだけだ。海夜叉神はその儚さを大事にしたかったようだ。アーカイブを消すことで逆に、視聴者側に強烈なインパクトを残した例だ。
遠北千南も卒業時に自身のアーカイブを全部消したVTuberだ。ただひとつ、七色の声真似が得意だった彼女のカバー曲は絶賛されており、周りのにじさんじの仲間やファンからどうしても残してほしいという熱烈な声もあり、その1作品のみ残されるという異例の措置がなされた。
久遠千歳も同様に、音楽動画作品だけ残され、ほかはすべてアーカイブを消したVTuber。不死で苦しんでいた彼女が刻んだ作品のみを残し、呪いが解かれて死ねるようになり消えていった、という彼女の物語性が強調されることになった。
ファンとしては「推しの歩みをコンプリートしたい」という気持ちが湧くので、アーカイブは全部残してほしいという思いはどうしてもある。しかし配信者が意図をもって消している、という考え方自体もそのVTuberの物語として受け止めたい。アーカイブの残らないプラットフォームで配信するVTuberが、その一瞬のやり取りを大事にしたいというスタイルなのだとしたら、尊重して生のやり取りに飛び込みに行きたい。そのVTuberの選択自体が、物語となる。
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