「ラジオだけが友達だった私の恩返し」奥森皐月が振り返る『99人の壁』|奥森皐月は傍若無人 #5

2021.8.17

文=奥森皐月 編集=田島太陽


お笑いマニアであり、“ラジオ変態”を自称するほどのヘビーリスナーである17歳のタレント・女優の奥森皐月

8月14日放送の『99人の壁』(フジテレビ)では、お笑い芸人99人の最強の壁が出現。そんな壁に、週に30時間ラジオを聴く奥森が挑戦した。ラジオを愛するからこそのプレッシャーや、収録の裏側など、彼女が改めて考えるラジオへの思いをお届けする。

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ひとりの“ラジオ変態”として、99人のお笑い芸人に挑んだ日

奥森皐月

8月14日放送の『99人の壁』は、お笑いにまつわるクイズだけで構成されるお笑いSP。お笑い好きにはたまらない2時間だった。お笑いフリーク女子高生という奇妙な肩書をいただく機会が増えてきた私は、このクイズに挑戦者として参加させていただいた。

私はお笑いが好きで好きで仕方がない。狂おしいほど好きだ。お笑いのテレビを観て、ラジオを聴いて、動画を観て、本を読んで、ライブに通う。基本的に毎日お笑いにまつわることしか考えていない。生活の中でお笑いは、主食・水分・酸素・友達・恋人のすべてを担当してくれている。要するにお笑いがなくなると何もできない、すぐに息絶える。生きている時間こそまだ短いが、お笑いに費やしている時間の割合にはかなり自信がある。

オファーをいただいた時点で、お笑いクイズはできるであろうと思った。家族の影響で1歳のときには東京ダイナマイトの単独ライブDVDを観ていた私なのだから。しかし、挑戦ジャンルが「芸人ラジオ」だと聞かされたときに、ある重大なことに気がついた。

これまで深夜ラジオリスナーであることを、さまざまな場所で公言してきた。時にラジオのよさを語り、ラジオ好きとして番組やイベントに出演させてもらう。月に1回のこの連載ではラジオ番組の魅力や愛をこれでもかというほど綴っている。

このように「ラジオ好き」という看板を掲げてお仕事をさせていただいている手前、絶対に絶対に失敗ができない。

何より、同じラジオ好きから「ニワカ」だと思われたら終わりだと直感した。前提として、私はどのような世界においてもにわかファンの存在が不可欠だと考えている。ライトな層が増えることが、その世界の裾野を広げ発展につながると考えるからだ。だからこそ「どれだけ好きの対象に費やしているか」を他人と比較する必要はまったくないと思う。

それぞれの大きさで愛情を持って好きなことに向き合えるのが一番だろう。

TBSラジオのイベント『ラジフェス』にも足を運んでいた奥森

しかしながら、私は平気で「週に30時間・何十本以上もラジオを聴いています」などと口にしている。本当は少し恥ずかしい。単純に暇な人間だと思われないかドキドキする。多くの人の前で好きなものを発表するときにはその大きさも共に開示しなくてはならないことがある。「好き」は見やすい形にしないとなかなか人に伝わらないようだ。

この一文でハッとした人は、今すぐ好きな人に好きとLINEしてほしい。ハッとしなかった人は、ごめんなさい。

全員が好きな人で全員が対戦相手、あり得ない状況

私はお笑いやラジオに時間や労力を割いていることを誇ろうとは思わない。むしろ変だし気味が悪いと思う。仕事や学校の合間に時間を捻出して、一般の方のネットラジオまで聴いている。こうなってしまうと「ラジオファン」「ラジオオタク」なんてキレイな言葉がどうも似合わない。

消去法で“ラジオ変態”という表現を使わざるを得なくなった。少なくともひとりでラジオを聴いてニマニマしている人は、広い社会の中の小さなバグのような存在だと思う。ただ、このバグが結集すると危険なほど楽しい時間が繰り広げられてしまう。

街が寝静まったころから、朝が訪れるまでラジオに耳を傾けているなんておかしい。伊集院光さんがよくリスナーにかけてくださる言葉だ。おかしいと言われて安心できる人が集まっているのだろう。最高に気持ちが悪くて最高に愉快な場所だ。私よりもっと長く・深くラジオを愛している素敵な変態が大勢いるなか、たったひとりの挑戦者として出演できたことを幸せに思う。だからこその責任感とプレッシャーも同時に感じていた。

『99人の壁』収録時の様子

収録の数日前からは、緊張でずっとソワソワしていた。1問目で不正解する夢もしっかりと見た。あまりにも怖い夢だ。ラジオを聴くことが逆にプレッシャーになるので、あまり聴かなくなっていたことも今思い出した。子役から15年ほどこの仕事をしているが、ここまで気持ちが落ち着かなかったのは初めてのことだ。

けれども、収録当日は案外緊張しなかった。それよりも楽しさが大きく上回ったからだと思う。大好きなお笑い芸人さんに囲まれて、大好きなお笑いやラジオのことを考えられる。宝くじの1等を当てるよりもうれしい事件だ。7億円でさえ霞む喜ばしい出来事。

同じスタジオにいる25名の芸人さんは日常的にテレビで観ていた方ばかりで、「私がテレビの中に入ったみたいだな」なんてアホらしいことしか頭に浮かばなかった。リモートで参加している芸人さんの中には、日頃通っているお笑いライブに出演している芸人さんもたくさんいた。全員が好きな人で全員が対戦相手。一歩間違えていたら発狂していたと思う。それだけあり得ない状況だった。

アドレナリンが大量に出てしまっていたのか「『他力本願ライブ』に漫才のネタを送ったことがある」という誰にも言うつもりがなかったことも思わず口に出してしまった。自分だけの秘密にして一生を終える予定だったのに。興奮した人間は思ってもみない言動をする。脳内が混乱していたため「私もゲスナーです」などと意味不明な発言もしていた。ゲスナーとはなんのことなのだろうか、まったく理解できない。一度も聴いたことのない番組だ。

ラジオだけが友達だった私に、ラジオのおかげで友達ができた

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