年収1000万を捨て芸人になり、24年売れないまま「つらいときは俺を見て安心してください」|神宮寺しし丸の“生き方説明書” #2


芸人→社長→そして芸人へ

「東京NSC」を卒業しても当然芸人の仕事がある訳もなく、月一回の新人コーナーの舞台のみ。ネタは全くウケず。あとはバイトをする日々。ほぼほぼフリーターです。その時に見付けたバイトが「キャンペーンバイト」。華やかな響きと募集広告の楽しそうな写真。「キャンギャルと仲良くなれるんじゃね?」NSCの時に童貞を捨てたばかりで、童貞同然だったしし丸青年(21歳)は飛びつきました。

このバイトは新商品をPRする為にスーパーや電器店等の店頭に僕らキャンペーンスタッフが派遣されるシステムで、僕が派遣されたのは衛星放送や携帯電話の加入促進の現場でした。

のぼりを立てて、蛍光色のジャンパーを着て「今ご契約された方にはこちらのチューナーが無料で付いて来ま~す!」的なバイトです。そこで僕は思わぬ才能を発揮します。

契約めちゃくちゃ取るのです。営業成績は毎月トップクラス。現場に直行直帰を許され、給料もバイト最高額の日給1万2000円を貰う好待遇。人生で初めて褒められその快感を知った僕は今日も褒められようと毎日せっせと契約を取りまくりました。

しかし、人間とは欲深いもので褒められ慣れて来るのです。するとあの快感は無くなりモチベーションも下がり始めます。

そんなある日、とんでもない情報が耳に入って来ました。「俺たちが取っている契約、会社にはメーカーから1件1万3000円くらい入って来てるらしいぜ」と。驚愕の事実でした。僕の平均契約数が一日約8件ほど。つまり会社には一日約10万円が入って来ている計算になります。「バイト最高額の日給12000円」が急に色褪せて見えて来ました。そうして僕はバイト仲間にある計画を打ち明けました「独立しようぜ」。

「独立計画」が動き出してからは早かったです。知り合いの小さな会社の社長さんから会社の創り方を学び、税理士を付け、僕を含めた営業成績トップクラスのバイト3人で会社を設立しました。メーカーとの交渉も「あぁ、あの会社から独立したんだ。なら即戦力だね」と交渉成立。こうして、しし丸社長は誕生しました。

会社は順調に業績を伸ばし、古巣からバイトを引き抜き人数も増えていきました。古巣にも一年後くらいに挨拶に行き、「独立したの知ってたよ~、〇〇くん引き抜いたでしょ~! ガハハハッ!」と笑い飛ばして貰える程の関係に。その頃の僕の年収は1000万円ほどで、アメ車に乗り、仕事が終わるとバイトを引き連れ飲み歩く。高校を4年かけて卒業した身としては上出来です。

社長時代の神宮寺しし丸

そんな社長生活が7年ほど続いた頃、ふと思ったんです。「俺は何をやっているんだ? 俺の夢はキャンギャルを抱くことだろ! ……違う違う! 芸人だ! 芸人になる夢はどこいった?」と。

社長になってすぐに吉本興業は辞めていました。辞めるといっても所属でも何でもなかったのでフェードアウトのような形でした。芸人になる為に上京し、今はキャンギャル目当てで入ったバイトから独立し社長をしている。これでいいのか?

それから僕は、バイトとの飲み会でギャグを言うようになりました。失っていた芸人の勘を取り戻すように。そのギャグに毎回大ウケするバイト達。「まだ錆びてないな」とほくそ笑む僕。錆びるもなにも、新人コーナーに数回出ただけの素人のお笑い刀です。その斬れ味の悪い刀で毎回斬られてくれるバイト。社長への忖度の塊です。しかし、しし丸社長は止まりません。ここからは先月にも書いた地獄の流れです。

バイト「アハハー!(嘘笑い)社長、昔芸人やってたんすよね? まだまだいけますよ!(大嘘)」

しし丸「俺、社長辞めて、もう一回芸人やるわ!」

バイト「……え?(ドン引き)」

気付いたら僕は太田プロのお笑い養成所「太田プロセミナー」へ願書を送っていました。憧れの芸人欄に書いたのは「ダウンタウン松本人志」。

こうして芸人復帰となり、会社は部下に譲り、社長だった僕は自分で創った会社にバイトとして雇って貰うという恥ずかしさの極地のような生活が始まりました。

【教訓】

・明るい光には罠がある!

「テレビスタッフ」や「キャンペーンバイト」と華やかそうな世界に憧れを抱くしし丸。まるで明るい光に引き寄せられる虫のようです。しかし、コンビニの入り口を思い出して欲しいのです。明るく青い光を放つアレに虫達は群がり「ビリッ!」と瞬殺されていくのです。このように明るい光には罠があると思っていいでしょう。

皆さんいかがだったでしょうか。「つらい時は下の者を見て安心する」是非お試し下さい。ただし、即効性はありますが持続性がなく、冷静になると自己嫌悪で現状の80倍ほどつらくなりますので過度の服用はご注意を。

ちなみに、憧れの芸人欄にダウンタウンの松本人志さんと二度にわたり書いた、現在の僕の代表ネタは『ダニ男』です。

神宮寺しし丸のネタ『ダニ男』

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