【『Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)』#3:Daniel MillerとMute Records】ミュートにハズレなし


ミュートにハズレなし

 ダニエル・ミラーの音楽って、すっごい好きでちょうどいい感じなんだけど、ミュージシャンとしてはけっこう謎めいてるよね。

石野 これはミュートのビジュアル本(※20)なんだけど、ここにダニエル・ミラーの言葉があって。エレクトロニックミュージックの可能性、エレクトロニックミュージックはどこがいいのかっていうと……。たとえば、ギターを買ってスリーコードを覚えれば、誰でもバンドで曲を演奏できる、っていうのがパンクバンドだよね。エレクトロニックミュージックは、それよりももっと簡単で、コードを覚えることもなく指1本で鍵盤を押せば、もう音は鳴るんだと。

 確かに。

石野 パンクバンドのスリーコードよりもよっぽどシンプルで、誰でもすぐに始められるのがエレクトロニックミュージックだ、ってダニエル・ミラーが言っていて。エレクトロニックミュージックというのは、高尚なものもあるけども、我々にとってのエレクトロニックミュージックはかなり、非常に身近なもので。

 そうね。エレクトロニックミュージックって突き詰めれば、音色がどうとか、音像がどうとか、シーケンスがどうとか、色んなとこにいけちゃうけど、そうじゃなくて、「押せば音が鳴る」っていう。

石野 見た目から想像がつかない音が鳴る、っていうのが好きなんだよね。管楽器が悪いわけじゃないけど、管楽器って、見たままの「あっ、管楽器の音だな」っていう音が鳴るっていうかさ、鳴る前にある程度の予想ができるわけじゃん。なんだけども、シンセサイザーっていうのは、どんな音が鳴るかわらかない。

 リズムマシーンとかもね。

石野 そうそう。それがね、やっぱいいところで、我々が好きなところ。(『Mute: A Visual Document from 1978』を見せながら)ちなみに、初期のミュートのフォントもあるんだよね。

 当時、レタリングシートってあったじゃん。その中に、これが普通にあったんだよね。だから、これはミュートのオリジナルのフォントっていうか、すでにあったものを使ったんじゃないかなって俺は思ってるんだけど。

石野 で、ミュートは、今日話したのは初期なんだけど、次回話すデペッシュ・モードが一番の出世株っていうかね。シリコン・ティーンズとかは、プレ・デペッシュ・モードみたいな感じ。

 あと、最近になっていろんな大物バンドがミュートの所属になったりしてるもんね。

石野 今もあんのかな、「グレー・エリア」(※21)ってサブレーベルがあって、あと「ノヴァミュート」(※22)ね。グレー・エリアっていうのは、ノイズ、インダストリアルとかの再発専門のレーベルで、スロッビング・グリッスル(※23)とかキャバレー・ヴォルテール(※24)とか、いわゆる伝説的なアバンギャルド、インダストリアルの元祖みたいなグループとかもミュートのカタログになってて。のちにカン(※25)とかもそうだし、あと最近だとクラフトワークとかもそうだし、ニュー・オーダーもそう。

石野 たぶん、ダニエル・ミラーは自分のカタログに入れたいんだよね(笑)。「あれ入ってねえ!」って。ほかだと、この(石野が着ているTシャツの)ニック・ケイヴ(※26)とかもそうだし、ロックというか、エレクトロニックミュージックじゃない部分もいっぱいあって。

 新人とかも、けっこう出してるしね。

石野 当時だとファクトリー(※27)とか、ほかのレーベルもあったけど、インディーとはいえアメリカの拠点があったりとか。

 ちょっと特殊だよね、やっぱね。

石野 もう、信頼のレーベル。ミュートにハズレなしっていうか。

※20 Mute: A Visual Document from 1978:2017年にイギリスの出版社「Thames & Hudson」から刊行された、ミュートのアートワークや写真をアーカイブした書籍。著者はテリー・バロウズとダニエル・ミラー。

※21 ザ・グレー・エリア(The Grey Area):1980年代後半にスタートしたミュートのリイシューレーベル。スロッビング・グリッスル、キャバレー・ヴォルテール、カン、スウェル・マップス、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンなどの作品を再発している。

※22 ノヴァミュート(Novamute):1992年にスタートしたミュートのダンスミュージックレーベル。他国のレーベルのライセンシングに始まり、リッチー・ホウティンやルーク・スレーターの作品をリリース。

※23 スロッビング・グリッスル(Throbbing Gristle):1977年、イギリスのキングストン・アポン・ハルにてアート集団「クーム・トランスミッションズ」から発展したバンド。インダストリアルミュージックのパイオニアとして知られている。1981年に解散後、2004年に再結成。

※24 キャバレー・ヴォルテール(Cabaret Voltaire):1973年、イギリスのシェフィールドで結成されたバンド。インダストリアルミュージックのパイオニアとして知られている。1994年に活動休止後、2014年に再始動。2020年に26年ぶりのアルバム『Shadow of Fear』をミュートからリリースした。

※25 カン(CAN):1968年、ドイツ・ケルンで結成されたバンド。いわゆるクラウトロックの代表的なバンドとして知られる。ミュートは1980年代からカンのカタログをリイシューしつづけている。

※26 ニック・ケイヴ(Nick Cave):1957年、オーストラリア生まれのミュージシャン。ミュートからはニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズとして、『From Her to Eternity』(1984年)から『Dig, Lazarus, Dig!!!』(2008年)まで14作をリリース。

※27 ファクトリー・レコード:「【『Roots of 電気グルーヴ 〜俺っちの音故郷〜(仮)』#1:New Order】「Blue Monday」には忘れられない思い出がある」を参照。

ダニエル・ミラーとの邂逅

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