「にじさんじ」の性別不詳ライバー
はっきりした思想のもと「性別不詳」のバーチャルアバターで活動するVTuberも存在する。特にVTuber事務所である「にじさんじ」のライバーはその傾向が顕著で、人数も多い。何人か例を挙げてみたい。
緑仙は「性別は実際はある」とまずは明言した上で「性別不詳」を名乗っている。ファンからはどっちなんだろうという意見は当然上がる。それに対し緑仙は、バーチャルなのに性別に縛られるのはもったいない、という見方を発言している。そもそも「緑仙」という名前は偽名だとしている。
男女の制服どちらを着るか選んでいるMVが特徴的なオリジナル曲「イツライ」は緑仙の性別とコミュニケーションへの考え方がはっきり出た作品。バーチャルであるということは、自由気ままなことのはずだ。性別という色眼鏡を通さず自身を見てほしいという主張は、「緑仙」という存在を形作る芯の通った思想だ。
メリッサ・キンレンカは「無性」と公表して活動しているVTuberだ。自身について「女でも無ければ男でも無いし、女であり男でもあります」「多分『無』が正解なのかなと感じてる」と述べている。「かわいいものが好き」と言ったら「女の子だね」という声が上がる状況に対しても、自身の気持ちと噛み合わずもやもやがあるとの発言をしている。
理想の姿なのに周囲から「〜ぽい」で性別を押しつけられる状況は、悪意なく発生しがち。最初は長い髪の毛で活動していたがゆえに「女性」と思われがちだったが、今はばっさりとショートカットにしたビジュアルでも活動している。
弦月藤士郎はデザイン・肉体は男性として描かれている。しかし性別を「弦月」と発表。これはファンに性別で活動や作品にバイアスをかけて見るのではなく、弦月藤士郎自身と作品を見てほしい、という思いからだ。弦月はかわいいものやコスメが大好きで、登録者数15万人記念では性別不詳のバンド女王蜂の「デスコ」のカバーMVを披露している。
女子制服姿でMV「全力ブーメラン」を出したとき、弦月藤士郎は「女の子じゃなくてもワンピース着ていいんだよ」と発言(右が緑仙、左が弦月藤士郎。中央は女性アイドルとして活動している相羽ういは)。自身の生き方を通じて、「こうあるべき」はない、という思想をファンに届けられているかのようだ。
男性が女性になっても、女性が男性になっても、性別がなくても、両性でも、どんな形であれバーチャルアバターはその人が本来持っている性質の一部だ。個性なので理解できないこともあるかもしれない。だからこそ興味を惹かれるし、新しい表現もできる。
バーチャルな活動の個性をそのまま受け取れるようになると、視野は一気に広がる。固まった価値観に捉われないVTuberの表現は、視聴者の把握力が必須だ(といっても「テレビの中に人はいない」と同じ程度の簡単なもの)。VTuberと視聴者が一緒に盛り上げることで世界観が構築されるのが、バーチャルのおもしろいところだ。
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