寒冷地ロケのマストアイテム「SOREL『CARIBOU』」と、絶体絶命の氷上ワカサギ釣り――ハイパーハードボイルドギアリポート(3)

2020.8.13

ブーツ選びの軽視は死につながる

それから僕たちは3人で釣りをした。
1匹釣れたところで待ち切れず、登山用ガスコンロを使いさっそく油を熱し始めた。湖の水で溶いた衣に釣れたてのワカサギを潜らせ油の鍋に放る。
その瞬間、強風に煽られてテントが飛んだ。
鍋が倒れ、熱々の油が僕の股間に注がれ、衣を纏ったワカサギが氷上にべちゃりと放り出された。
僕たちは無言ですべての道具を撤収し、岸をよじ登り、湖を囲む道路をぐるりと2時間歩いてレストハウスへ戻った。
その道中、僕たちが何を話したのか覚えていないし、ひと言も発しなかったのかもしれない。
レストハウスに着くと、僕たちの惨状を慮った店主がこっそりワカサギの天ぷらを出してくれた。
涙が出るほどうまかった。
居酒屋で気まぐれに出されるような代物とはわけが違った。さっくりとした衣の中に、ふんわりときめの細かい肉が旨味を湛えている。鼻に抜けるえも言われぬ芳醇な香りは圧倒的な自然の力を感じさせた。そこに店主の善意が載っているんだからその味は至上である。1匹食べれば満たされるのに、何匹だって食べられるから罪でさえあろう。

ストーブに当たって、ようやく足の感覚が戻ってきた。実のところ、僕の防寒ブーツの防水性は皆無に等しく、瞬く間に内部に水が侵入し、足指がキンキンに冷えてしまっていたのだ。見た目こそ「CARIBOU」に似せて作られ立派だったが、素材も作りもまったくの別物。長い時間を氷上で過ごせば凍傷になるのは目に見えていた。
ふと、あのカーリングのストーンみたいな芸当はどうして可能だったのだろうとT君の足元を見れば、彼が穿いているのはテニスシューズ(に類するスニーカー)であった。体育館やテニスコートで使い勝手がいいように、極力靴底を平たくしたものである。
どうして氷の上で釣りをしようというのにその靴を選んできたのかと、僕は大変驚いた。
そして驚くと同時に、これから寒い場所へ行くときにはしっかりとしたブーツを選ぼうと心に決めたのだった。
ブーツ選びの軽視は死につながると、身をもって知ったから。

左から、前回の記事で紹介したARCTERYX「ARAKYS」、DANNER「FULLBORE DRY」、SOREL「CARIBOU」

寒冷地に行く予定のある方、もし予算に余裕があるのなら僕はSORELの「CARIBOU」を熱烈に推薦する。実際、流行りのムートンブーツを穿いたスタッフと寒冷地のロケに行ったとき、彼は底冷えに耐えられず早々にロケから離脱した。“ロケを離脱する”というのは並大抵の判断ではない。彼は死の危険を感じたのだと言った。冷えて足の感覚がなくなり、痛みが生じ、また感覚がぼやけてくる。その経験は凄まじく恐ろしいのだ。

なお、「CARIBOU」は重い。
僕はロシアで警察から逃げる際に苦労したから、逃走を繰り返すような旅をする方には勧められないことを最後に言っておく。


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    過酷な環境下で生きる人々に密着し、食事を共ににするテレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(テレビ東京)。そんな番組を手がける上出遼平が取材の持ち物にまつわるエピソードを語る連載です。
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