年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、20歳・タレントの奥森皐月。
今回は、2025年3月まで配信されていたPodcast番組『NON STYLE石田の漫才を問う』を紹介し、「裏側系コンテンツ」がお笑い界のトレンドとなっている理由を紐解く。
目次
赤裸々な「裏側系コンテンツ」の広がり
コロナ禍以降のここ数年、お笑い界のトレンドのキーワードといえば「裏側」だと思う。芸人さんの世界の裏側や苦労について、赤裸々に語る番組やコンテンツが圧倒的に増えている。
『あちこちオードリー』での出演者の発言が話題になったり、『M-1グランプリ』では『アナザーストーリー』の密着映像が注目を浴びたり、明確な始まりはわからないが「裏側系コンテンツ」は今や定番ジャンルといえるほど広がりを見せている。
テレビ番組だけではない。『M-1グランプリ』初の連覇を達成した令和ロマンの髙比良くるまさんによる漫才を考え尽くした著書『漫才過剰考察』は発売わずか3カ月で15万部を突破した。
かなりニッチな内容だったので、お笑い好きの中でも一部の層にしか刺さらないのではないかと読んだ当初は思った。
しかしながら、みるみる発行部数は伸びていき「お笑い以外にも活かせる」「ビジネスにも通ずる部分がある」など、お笑いファンに限らず幅広い層に届いているようだ。
ゲストが全員“ガチ”!『NON STYLE石田の漫才を問う』
先日、私はこの大裏側時代にとんでもない番組を見つけてしまった。それが『Spotify』独占で配信されているPodcast番組『NON STYLE石田の漫才を問う』である。
2024年12月にスタートし、2025年3月いっぱいで終了した全12回のPodcast番組なのだが、これがとにかくディープで、これまであまり聞いたことのないような方向性のトークで満ちあふれている。
お笑いラジオ好きの母に勧められて聴き始めたのだが、あまりにもおもしろかった。話題になっていないのが不思議だ。
検索してもPodcastの番組ページしか出てこず、配信スタート時のリリース記事や番組SNSなどは出てこなかった。いつの間にか始まって終わってしまった番組のようで、出会うことができて本当によかった。
この『漫才を問う』は、漫才をこよなく愛するNON STYLEの石田明さんが毎回実力派の漫才師をゲストに呼び、さまざまな質問を通して漫才を深掘りしていくトーク番組だ。
まず、全12回のゲスト一覧を見てもらいたい。
- #1 水田信二
- #2 囲碁将棋 文田大介
- #3 パンクブーブー 佐藤哲夫
- #4 ヘンダーソン 中村フー
- #5 POISON GIRL BAND 吉田大吾
- #6 チュートリアル 徳井義実
- #7 ザ・パンチ ノーパンチ松尾
- #8 タモンズ 大波康平
- #9 ショウショウ 羽田昇司
- #10 マヂカルラブリー 野田クリスタル
- #11 ガクテンソク 奥田修二
- #12 ブラックマヨネーズ 吉田敬
この番組、ゲストが「ガチ」でよい。具体的にいうと、『M-1』チャンピオンだけではなく、寄席で活躍している芸人さんや『THE SECOND』のファイナリストなどあらゆる場所の漫才のプロフェッショナルが出演している。
現役で劇場の第一線で漫才をしている芸人さんがこのようなトーク番組で話すことはあまりないので、テレビなどでは聞いたことのないような話題が繰り広げられていくのがおもしろい。
「ネタ作り」から「楽屋での過ごし方」まで…超ニッチなテーマが続々
番組では毎回ゲストへテーマごとの質問が次々とぶつけられる。
たとえば“賞レース”がテーマのときは「普段の寄席と賞レースのネタの違い」「『THE SECOND』とほかの賞レースの違い」「日頃のライブと賞レースのお客さんの違い」など、かなり限定的な質問が出てくる。
また“ネタ作り”がテーマの質問では「ネタはどこで作るか」「発想に行き詰まったときにすること」「伏線回収はどこまで気にしているか」などがあった。
従来のメディアで語られてきたものは、やはり『M-1グランプリ』がテーマであることが多かったが、この番組では「寄席」についても細かく語られる。
吉本の劇場の中でどこがやりやすいか、各劇場ごとの客層の違い、寄席での反応をどう賞レースに活かすか、など“超”がつくほど専門的な話が出てくる。
正直、マニアックすぎて聴いているこちらがその知識を得たところで活かすことはできないのだが、石田さんとゲストというプロフェッショナル同士の高尚なやりとりを聴くことができるのがとにかく楽しい。
ネタ作りについても、これまで具体的にメディアで話されているのをあまり聞いたことがなかった。考えてみれば当たり前なのだが、芸人さんによってネタの作り方もさまざまである。ネタを作る場所やシチュエーションも多種多様で、各エピソードを聴くたびにそれぞれの違いが見えてきて興味深い。
昔は劇場の楽屋でネタを作っていると「輪に入れないヤバイやつ」のような扱いを受けていたが、最近は出番の合間にネタを作る人も増えていて、いい時代になったという石田さんの話が印象的だ。
マヂカルラブリー野田さんは「楽屋で雑談するようにネタ合わせをしているので、ただしゃべっているだけだと勘違いされて、村上をほかの芸人に奪われるときがある」と話していておもしろかった。劇場の楽屋での過ごし方というこれまた限定的な話題だが、ずっと聴いていたくなる魅力がある。
「賞レース審査員」視点のトークに、学びが深まる
この番組のもうひとつの魅力に「プレイヤー以外の視点」というものがあると思っている。
#2の囲碁将棋・文田さんゲスト回と、#3のパンクブーブー・佐藤さんゲスト回では、養成所(NSC)講師としての目線のトークがあった。
最近の若手漫才師の傾向や、どのようにアドバイスをしているかという話は聴き応えがある。漫才にも流行りの要素があるようで、それを取り入れるか否かというトピックが特によかった。
佐藤さんの回では、賞レースの審査員目線の話も出てきた。「自分の発想にない、自分では作れないネタを見るとキュンとするし、より高い点数をつけたくなる」という話をしていて、石田さんも深く共感していた。
最近は賞レース後に審査員側がYouTubeで振り返る配信なども増えてきたが、審査員だけが集うトークの番組があってもおもしろそうだ。
#5のPOISON GIRL BAND・吉田さんゲスト回では、放送作家としての目線のトークが聴ける。自分以外の人が演じるネタを作るときに心がけていることや、芸人を経験した上で作家の仕事をすることについて丁寧に語られていて、ほかの回とはまた違った観点のお話がとてもおもしろかった。
漫才師のトークというくくりはあるものの、ゲストによって考え方も視点もまったく違うので、毎回新たな発見がある。その中に共通している考え方もあり、回を重ねるごとに出演者の発言への理解が深まっていく感覚を覚えた。学びがあって楽しい。
もうすぐグランプリファイナル! 『THE SECOND』の裏側も
いよいよ来月は『THE SECOND〜漫才トーナメント〜2025』のグランプリファイナルが放送されるが、『THE SECOND』の話題もこの番組ではたびたび登場する。
ほかの賞レースとは空気感が異なり対戦相手との絆が生まれるということや、6分という持ち時間をどのように使うかなど、セカンド出場者それぞれの目線で語られているのが非常におもしろい。
ショウショウの昇司さんが「この芸歴になってヒリヒリしながら挑戦できるのが楽しい」「『THE SECOND ライブツアー』がとにかく楽しかった」と話していたのが印象的だった。
賞レースを観ている側はもちろん全力で楽しませてもらっているが、出場しているほうも「楽しい」と言えるのはとても素敵だと思う。
今年の決勝を見る前に『漫才を問う』で『THE SECOND』の裏側を聴いておくと、より楽しめると思うのでおすすめだ。
トークが深くなるほど垣間見られる、芸人さんの「美学」
それぞれの芸人さんによる「いいネタ」の価値観や、漫才において何を大切にしているかのトークは深くなればなるほどおもしろい。
“ツカミ”不要論や伏線回収はしなくていい論など、観客側にはわからないような高度な話も飛び交う。そのトークからそれぞれの美学が垣間見られるのが魅力的で、とても上質なPodcast番組だと思う。
残念ながら全12回で終わってしまったようなのだが、もっと多くの芸人さんがこの番組で話しているのを聴きたいと感じた。シーズン2みたいに、また始まらないだろうか。
ゲストの愛にあふれた熱いトークは、Podcastという空間だからこそ展開しているようにも思う。石田さんのパーソナリティとして引き出す力もあり、ほかのメディアでは知ることができない唯一無二の「裏側」を知ることができる番組だ。
芸人さんの裏側トーク番組が好きな人、賞レースを観るのが好きな人、『漫才過剰考察』を読んでおもしろいと思った人、などあらゆるお笑いが好きな人に聴いてもらいたい。
『漫才を問う』を通して、漫才を観ることの楽しさを今一度自分に問うのもまた楽しいであろう。
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