奥森皐月がおすすめするお笑い音声配信4つ!「ラジオ放送」と「ネット配信」の境目はあるのか?

文=奥森皐月 編集=高橋千里


年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、20歳・タレントの奥森皐月

今回は、お笑い界でも需要が年々高まっている「音声配信」について語る。『JAPAN PODCAST AWARDS』選考委員も担当している奥森が、本当におすすめしたい芸人Podcastとは?

お笑いは、いつどのような環境でも楽しめる

お笑いコンテンツ大飽和時代。ここ数年は、供給がノンストップで増え続けているように感じる。

プラットフォームが増え、コンテンツの種類も量も増えた。おもしろいものはなるべく逃したくないという気持ちではいるものの、当然すべては追いきれていない。特に視聴期限があるものは、いつの間にか終了していて見逃すことがよくある。でも、それでいいとも思っている。

お笑いが好きなこと自体が変わらなければ、自分の環境やそのときの好みに合わせて摂取するものを取捨選択できる。生活リズムが変わって劇場に足を運ぶ頻度が落ちても、配信チケットを購入して好きなときにライブを観られるように。

通学や通勤で移動する機会が多くなれば、その間に聴くラジオが増えることもある。変化も楽しさのひとつだ。

奥森皐月

私はお笑いが好きな子供だったため、小学生の間はずっとテレビバラエティを観ていたし、中学生では深夜ラジオにのめり込んで、高校生になってからはたくさんのライブに行った。

お笑いがいつどのような環境でも楽しめる趣味だということを幸せに思う。

「radikoタイムフリー世代」10年前の自分

ここ最近、私の中で音声配信ブームが再燃している。何年も欠かさず聴き続けているラジオはいくつもあるが、学校や仕事に追われるうちに気持ちが遠のいてしまった番組もあった。

ところが最近は、数年ぶりに聴いた番組をまた毎週聴くようになったり、新たにお気に入りの番組を見つけてリスナーになったりと、精力的にラジ活(「ラジオ聴取活動」の略)を満喫している。

私が深夜ラジオに傾倒し始めたのは10年ほど前で、当時はradikoが普及し始めてタイムフリー機能が実装されることになったころだった。

リアルタイムでなくてもラジオが聴けるようになるという革命のとき。インターネットと共存しながら進化していく過渡期に、ラジオが好きになった。

タイムフリーが当たり前になってしまったため、好きな番組を聴くために眠い目をこすって起きた思い出はほとんどない。

ラジカセで録音をして1週間繰り返し聴く、なんて経験は一度たりともない。情緒がないなぁと思うが、便利なサービスがある以上それを利用するのは当然のことだとも思う。

少し話がそれるが、最近の子供はテレビ番組を観ているときに「今のところをもう一回観たいから巻き戻して」と言うらしい。

幼いうちからYouTubeやサブスク配信で映像を観て育っているため、リアルタイムで放送されているものは一度限りという感覚がないそうだ。新しい価値観に驚いたが、radikoタイムフリー世代の自分も大概であった。

「ラジオ放送」と「インターネット配信」の境目はない

radikoとともに、10代の日々に彩りを与えてくれたアプリがもうひとつある。Apple Podcastだ。

iPhoneなどのiOS端末にデフォルトで入っているが、一度も開かず無視している人も大勢いる。私も初めは無視していたが、紫色のアイコンを押したその日から世界が広がったと思っている。

私が聴き始めたころは『オールナイトニッポン』と『JUNK』のアフタートークがPodcastで配信されていて、勝手もわからずそれを再生していた。

奥森皐月

本編を聴いていないのにアフタートークだけを聴いていた時期もあった。インターネットキッズすぎて、ラジオの聴き方を知らないのにPodcastにたどり着いていたのだ。

当然、本編を聴いていないから内容の大半が理解できなかった。それでもなぜか聴き続けていたのは、どこかにおもしろさを見出していたからだろうか。

地上波ラジオのアフタートーク以外のPodcastは、語学や時事問題を学習できるような番組と、ビジネスマン向けの番組と、趣味で一般の方が配信している雑談系の番組が多かった印象だ。著名人が番組を配信しているなんて相当なレアケースだった。

あれから10年も経っていないが、Podcast界は著しい進化を遂げている。音楽系サブスクのシェアが拡大し、アプリ内でPodcastを聴く人が増えた。Spotifyを開けば音楽と並んで多くの番組が表示される。以前と比べてPodcastがずいぶんと身近な存在になった。

また、企業やラジオ局が制作する番組が増えたのも大きな進化だ。スポンサーがついたコンテンツも珍しくない。番組単位でのサブスクリプションモデルを活用しているものもある。

そうしてマネタイズの仕組みが形成されたこともあり、人気のある芸能人やミュージシャン、作家、学者など、これまで以上に多様な配信者が増えた。

多くのラジオ局がPodcast配信に参入している今、中でも精力的に配信をしているTBS Podcastのコンテンツ数は100を超え、ニッポン放送では2021年に『オールナイトニッポン』の新たなかたちとして『オールナイトニッポンPODCAST』が誕生した。

地上波で放送されている番組の再編集版がPodcastで聴けるかたちも最近は増えており、ラジオ放送とインターネット配信の境はどんどんなくなってきているように感じる。

地上波番組もPodcast限定番組も同じアプリ内で聴けてしまうため、ここ数年はもっぱらSpotifyでラジオを聴いている。また、以前までは自分の住んでいない地域のラジオをradikoのエリアフリー機能で聴いていたが、それもPodcastで聴くようになった。

Podcastの盛り上がりに加え、最近は『Audible』など耳で読書する配信が広がりを見せていて、「聴く」コンテンツの需要は年々高まっている。決定的なきっかけはわからないが、タイパを重視する動きとも関係していることが想像できる。

奥森皐月が本当におすすめする「芸人Podcast」4つ

音声コンテンツ界が盛り上がっていることで、おもしろい番組もどんどん増えている。

ニッポン放送では2019年から「今、絶対に聴くべきPodcast」を選出する『JAPAN PODCAST AWARDS』を開催している。毎年新たなPodcastと出会えるので楽しい。

今年開催される第6回のアワードは、リスナーの熱意や支持の強さを反映するため、一般投票で一次選考が行われている。

私は大賞などを決める最終選考の選考委員を務めさせていただいており、最近はこのノミネート番組を大量に聴いていた。どれも個性があって大変おもしろい。

ただ、やはり今回はテレビやラジオで活躍されている著名な方の番組が多かった。そこで、日頃芸人さんのPodcastや、新たに始まった番組を聴き漁っている私が、個人的に今おすすめしたい最新の番組をいくつか紹介したい。

1.『こたけ正義感の聞けば無罪』

2024年7月にABCラジオPodcastでスタートした、ピン芸人で現役弁護士のこたけ正義感さんがMCの番組。

「炎上やスキャンダルが増え続けている芸能界で、いつか問題を起こしそうな芸人がゲストとして登場。パーソナリティ・こたけ正義感がヤバいエピソードを聞き出し、アドバイスすることで問題を未然に防ぎ、正しい方向へと導きます」という異色のコンセプトのラジオだ。

”いつか問題を起こしそうな芸人”といってはいるものの、ゲストは毎回豪華で、賞レースのファイナリストやチャンピオンばかり。基本的にこたけ正義感さんよりも先輩の芸人さんがゲストで、ほかの媒体で聴いたことのないような話が引き出されていることが多く、おもしろい。

番組の最後に「そのゲストに問題が起きたときに、こたけさんが弁護をするか」をジャッジする時間が必ずある。お笑いラジオとして楽しんでいるが、時折法律についての解説が入ることもあるので学びにもなる。気になるゲスト回から聴いてみるのがおすすめだ。

2.『しんいち・ZAZY の ホントは喋りたくない!』

2024年5月にスタートした、ピン芸人・お見送り芸人しんいちさんとZAZYさんのユニット「ストレス」のPodcast。

番組説明の「仕事、プライベート、ゴシップと“本当はしゃべりたくない!”2人トークをお届けします!」という一文のとおり、毎回ギリギリ(アウトのときも)を攻めたトークが繰り広げられる。

エピソードごとのタイトルからすごい。「お笑い観に来るお客さんはみんな不幸。」「これはもう誹謗中傷の致死量!」「日本の芸能界で活躍する外国人、アホのフリしてみんな賢い。」など、心がザワザワするタイトルが並ぶ。

これがただのタイトル詐欺ではなく、タイトルの内容をまるまるしゃべっているし、1エピソード内にヒヤヒヤするフレーズがあと4つくらい出てくる。

匿名で悪口を言っているのとはわけが違う。敵を増やすことをわかった上で話される本音の重み。私が一番お気に入りのタイトルフレーズは、#28の「ファンは黙って笑っとけ!!!」だ。

3.『トゥリオのKOC優勝への道』

今年1月にスタートしたばかりの新たなPodcast。ピン芸人・サツマカワRPGさん、ストレッチーズ高木貫太さん・ひつじねいり松村祥維さんが結成しているユニット「トゥリオ」のオリジナル番組だ。

昨年ユニット結成後すぐの『キングオブコント』で準決勝進出という結果を残した3人。このラジオは「『キングオブコント2025』優勝」に向けての期間限定配信だそうだ。

芸人さんのユニットでのラジオというのはあまり多くないので、新鮮な空気感がある。スタートしたばかりだが、すでに「トゥリオのラジオ」独特のバランスと構図ができていてとてもおもしろい。

30分ちょっとの中でトークとメールコーナーがある構成は聴きやすく、毎週聴いている。始まったばかりで今ならすぐに追いつけるので、新しくお笑いのラジオを聴き始めたい人にはおすすめ。

4.『ポテトカレッジのハイパー・ピギーバンク』

ライジング・アップ所属のお笑いコンビ・ポテトカレッジのPodcast番組。以前はお笑いラジオアプリ『GERA』で番組をされていて、2024年11月にこの番組が新たにスタートした。

漫才を観ているだけだと、コモダドラゴンさんは気持ち悪いことを言うキャラクター、きよさんは激しいツッコミ、という印象だった。

しかしラジオを聴くと、コモダさんは自分の考えにまっすぐな熱い人で、きよさんはゆったりとした包容力のある空気感。ネタだけでは感じ取れなかったそれぞれの人としての魅力が感じられて、かけ合いのテンポのよさもあり、おもしろい。

また、コモダさんもきよさんも声がはっきりとしていて、すごく聴きやすい。声が素敵。

ここ最近は、お笑いライブシーンに深いメスを入れる話題が繰り広げられており、#14「芸人メイド喫茶抗争勃発」は凄まじいエネルギーが爆発するような回であった。

タイトルで何かを感じた人には、ぜひとも聴いていただきたい。ポテトカレッジを応援しようという気持ちが強まった。

ラジオは新しい世界への入口

これは本当にごく一部で、芸人さんの配信するPodcastはたくさんあり、日々増え続けている。普段ラジオやPodcastを聴く習慣がないという人も、好きな芸人さんやタレントさんなどが配信する番組がきっとある。

奥森皐月

まだ出会っていないだけで、自分に深く刺さる番組がどこかで配信されているかと思うと、あれもこれも聴いてみたくなるだろう。

いつまでもラジオが新しい世界への入口でありますように。

この記事の画像(全7枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

奥森皐月

Written by

奥森皐月

(おくもり・さつき)女優・タレント。2004年生まれ、東京都出身。3歳で芸能界入り。『おはスタ』(テレビ東京)の「おはガール」、『りぼん』(集英社)の「りぼんガール」としても活動していた。現在は『にほんごであそぼ』(Eテレ)にレギュラー出演中。多彩な趣味の中でも特にお笑いを偏愛し、毎月150本のネタ..

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

『ラヴィット!』の頼れるMC

TBSアナウンサー

田村真子

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。