年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、20歳・タレントの奥森皐月。
今回は、10月12日放送『キングオブコント2024』決勝戦から、特に印象に残ったネタや審査員コメント、7歳のときから応援し続けていたラブレターズへの愛を語る。
目次
「ずっとピーク」だった『キングオブコント2024』
『キングオブコント2024』の決勝が10月12日に開催された。今年は大会史上最多の3139組がエントリー。ここ数年で最高得点記録が次々と塗り替えられていることも踏まえ「コントの最高到達点へ」というフレーズがテーマとなっていた。
しかしながら、今年の『キングオブコント』は終始安定したおもしろさがあり、「ずっとピーク・ずっと最高」という感想。お笑い賞レースで求められがちな「爆発」というものが、なかった気がする。
大会としての是非はわからないが、現象としてはかなり貴重だ。今まであまり見たことのない賞レースの空気感だった。
「トップバッターは不利」説を覆す、近年の賞レース
「トップバッターは不利」という定説が崩れ始めている。
昨年大会はトップのカゲヤマがファイナルステージに残り、『M-1グランプリ2023』ではトップの令和ロマンが優勝。今回トップのロングコートダディも最終結果2位までのぼり詰めた。
当然この3組が実力者だからというのはあるが、出番順で勝敗が左右することがないというのは素晴らしいと思う。大会が勢いづくというよさもあるので、今年のロングコートダディの1本目が終わったときはかなり興奮した。
ファイナリスト10組のネタはどれも本当におもしろかった。ファーストラウンドでは1位と10位の点差がたったの18点。
決勝に進出する芸人さんのレベルが高いというのはもちろんなのだが、人によって好き嫌いが大きく分かれるようなネタが少なかったのかもしれないとも感じる。そのような組が1〜2組いるのが賞レースの定番だと思っていたのだが、時代が変わってきたのかもしれない。
審査員コメントで語られた、5人の“美学”
どの賞レースでもSNSでは審査員批判が発生していて、もう仕方がないのだろうと思ってしまう。
今回は1番目のロングコートダディのおもしろさに、審査員がみな100点中での絶対評価で94〜96点をつけていたようだった。そのせいで全体的に点数のばらつきが少なく、狭い範囲でのわずかな差になっていた。
だからといって「最初だから」という理由でロングコートダディのネタが80点でも、それはそれで批判がありそうだし。全員が納得いく「審査」というものは存在しないのだと改めて感じる。
「審査員の好みで順位がついているのではないか」という意見もあった。これを間違っているとは思わないが、個人的には“好み”というより“美学”が違うのだろうと解釈している。
今回の審査員は5人全員が『キングオブコント』の経験者であり、それぞれに積み上げてきたコントの像がある。その中で、重きを置いていることや何を美しいとするかの違いがあり、それが個性となっているのであろう。審査は単に「好きだから/嫌いだから」ではない重みを感じた。
実際に審査員コメントで、飯塚(悟志)さんは「いいコントは哀愁を感じるコントだと思う」や「同じおもしろさであれば、セットが壊れるような仕掛けがないほうが好き」などコント観を明確に言語化して説明している。このふたつのコメントはどちらも東京03のコントらしい特徴で、飯塚さんが審査しているということの意義がとても感じられた。
また山内(健司)さんは「個人的には全部に理由があるものより、意味のわからなさがあるほうがいい」というようなコメントをしていて、これも審査員としての色が出ていて素敵だと思った。
1stラウンドトップ3の点数の表だけを見ると、飯塚さんの点数順に順位がついているように見えたため、飯塚さんの高評価を得た組が勝ち上がっているような印象を受けた人も多いようだった。
ただ、実際は飯塚さんがファイヤーサンダーの次に高得点をつけていたのはシティホテル3号室である。ファイナルステージでは、飯塚さんは3位のファイヤーサンダーに最も高い94点をつけており、優勝のラブレターズの点数は92点と3組の中で一番低かった。
順位はきちんと審査員の総合評価で決まっている。
ダンビラムーチョの“謎の一面”をもっと知りたい
思い返したときに、自分が最も声を出して笑った純粋に好きなネタは、ダンビラムーチョの『冨安四発太鼓』だ。
明転してリンゴ飴を持っている人がいるのも、登場1秒でおもしろい人が出てきたとわかるのも、最高。変な人とそれを見ているツッコミ役という構図にしては、原田(フニャオ)さんのキャラクターがおもしろい。
「わぁ、俺、太鼓大好きなんだよなぁ」のセリフをはじめ、基本的には楽しそうにしているのがチャーミングだった。四発太鼓に対するツッコミも過度な鋭さがなく、むしろ丸みを帯びたような一つひとつのセリフが絶妙なおもしろさを作り出していた。
保存会のおじさんの「悲愴感が出ないように笑うようにしている」というひと言が妙に切なく、最終的にどちらのキャラクターも愛おしく思える不思議なコントだったと思う。放送の数日後に「冨安四発太鼓」がトレンド入りしていたので、きっと多くの人が心をつかまれている。
ネタ前のVTRでの「注目しないで注目してほしい。細部はけっこう終わってるところあるんで」というコメントも斬新だったし、ダンビラムーチョのパーソナリティには惹かれるものがある。
トンツカタン森本(晋太郎)さんのYouTube『タイマン森本』に過去にダンビラムーチョがそれぞれ出演していたのだが、大原さんは歌とウクレレがうまく、原田さんがジャグリングや皿回しなどの曲芸ができるという謎の一面を知れた。
どちらもめちゃくちゃおもしろかった。それに、「急げダンビラムーチョ」という曲があるらしい。まだまだ謎が多いので、今後バラエティ番組などでもっと深くダンビラムーチョを知りたい。
7歳から応援していたラブレターズの優勝
この連載ではたびたびラブレターズを応援していることを書いてきたが、とうとうチャンピオンになった。本当に本当にうれしい。
私は7歳のときに『西岡中学校』に出会い、深夜ラジオを聴き始めたころに『ラブレターズのオールナイトニッポン0(ZERO)』を聴いた。ずっとずっとおもしろいと思っている人たちが優勝するというのは、やはり特別な興奮がある。
ラブレターズは第1回大会から17回連続で出場し、2011年の第3回大会で初決勝に進出してから今年で5度目の決勝。優勝までの決勝進出回数が最も多いチャンピオンが誕生した。長きにわたってチャレンジし続けた末に頂点を獲ったという事実は、恐ろしいほどカッコいい。
2011年大会では「無印(ノーマーク)のシンデレラボーイ」というキャッチフレーズがついていたが、昨年は「帰って来た演技派コントボーイズ」となり、初決勝から13年経った今回「狂気と哀愁のコントブルース」に変化した。同じコンビのものとは思えない。
決勝直前に出演したニューヨークのYouTubeチャンネルでは、「13年って、オリンピックとかでもヤバい」と言われていた。本当にアスリートに近いと思う。
ただ、そこでは「今年負けたら来年は出場を休もうかと思う」という話や「自分たちに期待するのが怖い」ということを語っており、妙にうしろ向きだった。
優勝後のラブレターズのラジオ『階段腰掛け男』を聴いてその理由がわかった。昨年サルゴリラに惜敗したときと同じ10番目という出順で、どうすることもできないという気持ちに苛まれていたそうだ。
運命を受け入れ、「優勝はできない」とすら考えるほどの心持ちで本番を迎えたという。ただ、その謙虚な姿勢がかえって余裕を生み、優勝へ導いたようだ。
5回目の決勝だが、ファイナルステージに進出したのは今回が初。連続で2本ネタを披露するという大変な状況だったが、ここではこれまでの多くの単独ライブの経験が活かされたそう。
ラブレターズの単独ライブはネタの間に映像が挟まることが少ないため、早着替えにも慣れていて、それによる余裕があったと話していた。経験が実を結んで結果につながったというのは素晴らしいストーリーだ。
2本目のネタ披露後に審査員から少し厳しめのコメントもあったのにもかかわらず、最終的に優勝したのはなんともラブレターズらしい結末だ。
“しいたけ占い”からラブレターズへのお告げ
TBS Podcastで期間限定配信されている『サルゴリラとコントの怪物たち』の最新回には、優勝直後のラブレターズがゲストとして出演している。優勝を経験したばかりのふた組のトークは貴重で、リアルな部分がおもしろかった。
翌日のテレビ番組へのオファーが殺到するなか、生放送でショートネタを披露してほしいとの依頼があったらしい。
優勝後の記者会見や配信が終わり、深夜3時過ぎに帰宅したそうなのだが、「明日披露するネタはどうしよう」と深夜3時半から1時間半ほどリモートでネタ合わせをしたというトークが衝撃だった。結局新ネタを披露したらしい。すごい。地に足がついているチャンピオン。
実は、決勝前の『階腰』(『階段腰掛け男』の略称)にもおもしろい場面があった。
『キングオブコント』に向けて「本気ではあるが謙虚にいきたい」「あわよくば優勝したい」などと消極的な姿が見受けられるのだが、塚本(直毅)さんが直前にやっておきたいこととして“しいたけ占い”を見てみようと話す。ふたりとも山羊座ということで、1週間の運勢をしいたけ占いで確認して背中を押してもらおうとするのだ。
いざ占いの文章を読むと「乗り越えられるかという心配も出てくるが、運勢的に今の山羊座は集大成の期間」「培ってきたノウハウ、磨いてきたこと、立ち向かう姿勢、まわりとの信用関係などを全力で発揮していく」「やっと本気を出せるなど武者震いをしながら突入していくような1週間」「思いきり暴れてしまってください」といった、ラブレターズへのお告げのような文章が次々と飛び出す。
塚本さん、溜口(佑太朗)さん、ジュビロサポーターの坊主女性の3人が山羊座であり、結果的に優勝した。今回の結果を受けてラブレターズとともにしいたけ占いのすごさも知ることとなったのだ。
ちなみに『階腰』であった「『キングオブコント』で勝てる設定案」のコーナーは、優勝したことによって終了となった。ラジオコーナー終了の理由として史上最高にカッコいいと思う。
「進化しながら続けること」のすごさ
『キングオブコント』がなかったら芸人になっていなかった、とまで話すふたりが優勝したというのは本当に胸が熱くなる。13年前の初の決勝から歌ネタやポップなネタを経て、今年は「2本とも好きなネタ」でぶつかり優勝したというのもしびれる。
続けることはもちろんすごいけれど、進化しながら続けることはその何十倍もすごい。
会見で語っていた、「単独ライブで全国を回りたい」ということや「ASH&Dのメンバーで営業に行きたい」という夢はぜひとも叶ってほしいものだ。
熾烈な戦いのなか、ほんの1点の差で優勝したラブレターズ。これまで以上の活躍が見られるのが楽しみだ。ここからお笑い界のカリスマとしてスマッシュを決めていく姿を心待ちにしている。
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