年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、19歳・タレントの奥森皐月。
今月は、4月からスタートした新番組の中で、奥森が特に注目しているバラエティをピックアップして紹介する。
目次
バラバラ大作戦『永野と見る怖いコント』への期待
テレビやラジオの改編で4月になっていたと気づく。そういえば芸人さんのコンビ解散や事務所退所の報告が次々とあったのは、3月末だったからだ。
3月31日にあきら・くらしというコンビの最後の漫才を観に行って、大笑いしながら半泣きになった。これからもたくさんのおもしろい人に出会って、辞めていく人をただ見届ける。
3月上旬にテレビ朝日の深夜バラエティ枠「バラバラ大作戦」の新番組が発表された。
Aマッソの美容番組や、とろサーモン久保田(かずのぶ)さんとウエストランド井口(浩之)さんの番組など、興味深いラインナップだったのだが、何気なく見ていた発表の記事の中でひときわ気になる番組があった。
永野さんがMCの『永野と見る怖いコント』だ。
出演者には鬼ヶ島、ガクヅケ、かもめんたる、元祖いちごちゃん、サツマカワRPG、トンツカタン、ニッポンの社長が名を連ねている。それ以外には何も書かれていなかったのだが、この少ない情報だけでもとてもわくわくした。
「バラバラ」の枠自体に「あまりいい感情を持っていない」と以前話していた永野さんがMCの番組が始まるという驚き。
それに出演者が渋い。番組を制作している人が、知名度に関係なく本当におもしろいと感じている芸人さんだけを選んでいることが想像できるラインナップだ。
ガクヅケに関しては昨年の8月からコンビ活動を休止していたので、4月にテレビでネタを観られるということがわかってうれしかった。
過去に「トラウマネタ」という表現で記事を書いたことがある。おもしろいだけでなく、狂気や恐ろしさを感じるネタが好きだ。「永野さん」と「怖いコント」という心躍る文字の並びは、タイトルだけでも期待できた。
永野の振る舞いを「ホラー」に仕立てるおもしろさ
4月3日に初回の放送があったのでさっそく観たのだが、想像していたものとはだいぶ違う番組だった。
まず、初回でネタを披露したのが、かもめんたるのひと組だけだった。てっきり数組のネタが流れるのかと思っていた。10分弱の放送内で、かもめんたるのネタ時間は5分ほどある。
スペシャルのネタ特番以外で5分のコントが観られるとは思わなかった。でも、よく考えると、ある程度長さのあるコントでないと怖いと思わないかもしれない。背景が真っ黒なのも珍しい気がした。
かもめんたるの『砂浜店長』のネタは、いわずもがなおもしろくて怖い。怖くておもしろい、のほうが正しいかもしれない。
かもめんたるにしか抱かない種類の「気持ち悪い」が確実にあると思う。お笑いでキモキャラが登場することはあるけれど、その類いのキモいではない。笑えないキモさがおもしろい。
かもめんたるのための番組といってもいいのではないかと思うほどに、番組の不気味な雰囲気とネタがマッチしていた。
MCの永野さんは、暗くて狭い和室でひとりトークをする。「バラバラ」でよく見る白くて細かい溝がある壁の広い会議室ではない。
ブラウン管テレビがついているほの暗い部屋はJホラーを彷彿とさせられるが、いつもの青シャツ・赤パンツの永野さんが座っているのがなんだか笑える。部屋が暗いせいか、テレビではあり得ないくらい顔色が悪い。
オープニングトークがあって、ネタのVTRが終わると、また永野さんの部屋のパートに戻る。
「さすがです」「見事でおもしろい」と感想を話しているのだが、次第に「褒められたいのか」「戯曲感が漂っている」「昼、外歩いたりしてほしい」「99点で、100点になるには下北の劇団との付き合いを切るべき」「戯曲の評価が足を引っ張っている」「田舎の人とかも笑わせてくれ」とパンチラインが炸裂。
これまでのバラエティ番組で永野さんはヒール役で、まわりから「言いすぎだ」などとツッコまれている印象だったが、この番組においてはそれがない。
ネタはVTRなので、言われた対象の人が反論することももちろんない。一つひとつの発言にホラー映画で流れるような不穏な効果音がついていて、その時間が丸々「怖い話」となっている。
「怖い」という言葉にもさまざまな捉え方があると思うが、永野さんの普段と変わらぬ振る舞いをホラーに仕立てているのがおもしろかった。
“無敵”になった永野がたどり着いた境地
ここ1年くらい、永野さんは無敵になっていると思うことが多かった。
「嫌われたくない」「素直な自分の意見を言うのが怖い」というような世の中の風潮とちょうど逆。恐れているものが何もないように見える。
『マルコポロリ!』や『さんまのお笑い向上委員会』での立ち回りには惚れ惚れする。真意は当然わからないが、けっして「悪口キャラ」を演じているようにも見えないところがすごい。無理なくあらゆる人に苦言を呈しているような気がする。
それなのに、別にこれといった炎上もしていない。適切なたとえかはわからないが、世の中には一定数「あの人ならしょうがない」とされている人がいると思う。それに近い。
「あきらめ」と簡単に表現してしまうこともできるだろうが、これはなかなかたどり着けない境地で、これこそが無敵なのではないかとこのごろ思う。永野さんが言っていることは永野さんだからおもしろい。
年下芸人に噛みつく永野が、なぜかカッコいい
今年1月に『チャンスの時間』で配信された「年下お笑い大賞」の回も印象的だ。
「年下の言うことは何もおもしろくない」「年下の世界観で笑えない」「年下だと認められない」「年上はおもしろい」という極論から、永野さんより年下の芸人さんがネタを披露していく大会が開催された。
勢いのある若手が次々と出てくるなか、一切表情を変えずじっとにらむ永野さんは「笑えなかった」「何がおもしろいのかわからなかった」と言い放つ。
芸人さんが芸人さんに対して「おもしろくない」と言う状況はかなりあり得ないと思うのだが、なぜか成立していて笑えてしまう。
時代の流れ的に「後輩に厳しい先輩」のような構図はあまりよくないのに、そうは見えなかった。
台頭する若手に上の世代が噛みつくことはダサいとされていて、それを平気でやってのけているから、むしろカッコよく見えてしまう。不思議だ。
「スポーツをしていたか」という新しい線引き
先日放送された『あちこちオードリー』で永野さんのトークを見ていたら、少し合点がいく部分があった。
「幸せになっていった人をディスりまくってきたから、もうひとりの自分が許さないと思う」「たぶん幸せになれず終わる」というようなことを言っていた。
私たちはみんな人間。永野さんが今よりもっと幸せに満ちあふれた様子で同じ発言をしていたら、違った受け取り方をしてしまうのだろう。自縄自縛のような状態だから安心してしまっている。結局悪いのは自分なのかと思い知らされる。
番組中に「スポーツをやっていた人へのコンプレックス」という話題が上がっていたのもおもしろかった。
これまでは、テレビの人や芸人さんが「陽キャ/陰キャ」「1軍/3軍」などで分けられる場面が多かったと思う(この分類もいかがなものかとずっとモヤモヤしていた)。
たとえばオードリーの若林(正恭)さんは「人見知り芸人」のくくりだったこともあり、印象としては“陰”の部分が大きいと思う。ある時期からお笑いは「クラスの“陰”にいた人の逆襲」のような側面を持っていたが、今もそうかといわれると微妙だ。
その中で、永野さんの「スポーツをしていたか」という線引きは新しいと感じた。「野球部のノリ」「サッカー部っぽい」という表現はたまに聞くが、スポーツという大きなくくりでは意外と言わない気がする。
たしかに陰気でスポーツをしていた人もいる。このような細やかな気づきと表現が、永野さんに引きつけられる所以だろうとぼんやり思った。
「同世代でがんばりたい」というような志がないことが、下の世代ともうまく噛み合っている秘訣なのかもしれない。今のところ永野さんのような芸人さんはいないと思うので、これから時が経つにつれ、どう変わっていくのか気になる。
『今日-1グランプリ』のラインナップが異色すぎた
『今日-1グランプリ』という特番がおもしろかった。収録日当日の日付が変わった瞬間から収録時間までに起きた出来事だけでトークをする、というシンプルな内容だ。
本当にその日に起こったことを話しているという証明のため、何かしらの写真やモノを見せるというルールはある。ただ、その一日に密着する、というようなことはない。テレビ東京らしさあふれる最高の賞レースだ。
ある程度緊張感はあるのだが、「その日の出来事」だけなので、ハードルが下がっているのがいい。また、各芸人さんが、あまり期待値が高くなりすぎないような空気作りをしているところが非常にリアルでとてもおもしろかった。
1点だけ気になったのは、出演メンバーについて。
ウエストランドのおふたり、わらふぢなるおのおふたり、お見送り芸人しんいちさん、真空ジェシカのガクさん、街裏ぴんくさん、チャンス大城さん、ランジャタイの国崎(和也)さん、みなみかわさんの10名なのだが、テレビ番組として相当異色だと思う。
トークの大会で、吉本興業の芸人さんがチャンス大城さんのひとりなのがすごくおもしろい。ウエストランドとわらふぢなるおがコンビで出ていて、ランジャタイと真空ジェシカが片方だけなのもおもしろい。
『M-1』王者、『R-1』王者がそろっていて、豪華であることは間違いないのだが、全体的に少し前の地下ライブのラインナップだった。
ルールがシンプルなだけに見応えがあったので、また全然違うメンバーでも見てみたい。定期的に開催してほしいと思う賞レースだった。
言葉好きにはたまらない『辞書で呑む』
テレビ東京の番組だと、麒麟の川島さんがMCの『辞書で呑む』もおもしろい。
番組概要には「辞書で見慣れない言葉を探し合い、その意味をみんなで共有。その場で出会った言葉をツマミに語り合う辞書バラエティ!」と書かれている。年明けに一度放送されて、今月早くも第2弾が放送された。
テーブルに人数分のジョッキと辞書が並んでいる光景がとてもいい。私が、言葉が大好きなのもあるかもしれないが、なじみのない言葉が飛び交うのが楽しすぎる。普通に友達とやりたいと思うくらい素敵な企画だ。
隣のテーブルには実際に辞書を編集している方がいて、たまに言葉の意味や使い方を教えてくれるのだが、この解説がまた勉強になる。
途中、アルコ&ピースの平子(祐希)さんによるドラマで、例文が登場するパートが挟まる。ここに関する説明があまりなくてよくわからないのだが、これもなんだかクセになる。
番組全体を通して使われている楽曲が、かせきさいだぁの「苦悩の人」で、いい味を出している。エンディングでは「苦悩の人」のサンプリング元である「風をあつめて」が満を持して流れて、気持ちがいい。
こういう番組がレギュラーで放送されたらうれしいなと思っていたら、5月中旬から7週連続で放送することが決まっているらしい。ありがとうテレビ東京。今、人におすすめするならこの番組だと思う。私も辞書で呑みたい。
私も来月20歳になります
私事だが、来月ようやく20歳になる。
10代はずっとお笑いを見ていた。ラジオを聴いていた。三四郎のラジオを聴き始めたのが小学校4年生のころだったなと思ったら、『三四郎のオールナイトニッポンシリーズ』10周年の記念イベントが日本武道館で開かれるそうだ。
ここ数年でもお笑い界が大きく変化して、混沌としながらも進化し続けているように感じる。だからこそ毎月ありがたくお笑いを見て、ありがたく記事を書かせていただいている。書くことが尽きないというのは幸せなことだ。
最近、お笑いの見方や関わり方について、自分のことに限らずあれこれ考えることが多かったのだが、好きかどうか、おもしろいかどうかは自分次第だと思っている。当たり前だけど。
定期的に同じことを書いてしまうが、おもしろくないことをおもしろくないと言う暇があれば、ひとつでも多くのおもしろさを見つけたい。
私はただ見ている人に過ぎないが、おもしろいと思ったことをおもしろいと言う権利くらいはあると信じたい。
少なくとも私は、誰かのおもしろいと思った話を聞きたい。つまらないをおもしろいで上書きしたい。
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